救急救命士が現場で行う
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目次
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平成19年1月20日
〒164-0001 東京都中野区中野2-2-3
救急医療・情報研究会 金子高太郎(県立広島病院麻酔科) 越智元郎(市立八幡浜総合病院麻酔科)
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冬空の候、「救急救命士標準テキスト追補版」編集 委員の諸先生方におかれましては益々御清祥のことと御慶び申し上げます。
さて、私共 救急医療・情報研究会(eml-nc)会員はインターネットのメ ーリングリストを通じて、救急医療に関する様々な話題を共有し意見交換を 行っています。私共の最近の話題として、救急救命士が現場で行う説明やイ ンフォームド・コンセントなどについて論議が行われてています。またこの ことに関する「救急救命士標準テキスト追補版」の御記載につきまして疑問 が生じております。御多忙中、誠に恐縮でございますが、御検討、御指導を 賜りたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。
背景:
■1.救急救命士が心肺停止傷病者に対し、気管挿管を行うに際し「インフ
ォームド・コンセント」を得る必要があるか?
「除細動・気管挿管 救急救命士標準テキスト追補版」の「気管挿管にお ける医療倫理」p.58におきまして、救急救命士が救急現場で行う気管挿管に かかわるインフォームド・コンセントについて御記載があります。この中で、
と述べられ、「暗に」気管挿管を選択し実施することについて、家族などか らインフォームド・コンセントを得る必要があることを示唆しておられます。 さらに、次のペ−ジ「2)気管挿管とインフォームド・コンセント」の冒頭 で、「救急救命士が救急現場で行う気管挿管にかかわるインフォームド・コ ンセントについては前述した」と述べられ、前述されたとする内容が明記さ れてはいませんが、「気管挿管に関しインフォームド・コンセントを得る必 要がある」と記載されているように受け取れます。
一方、「薬剤投与 救急救命士標準テキスト追補版II」の「薬剤投与に関 わる生命倫理」「3.救急救命士に関わる医療倫理」p.148では、薬剤投与 に際し家族からインフォームド・コンセントを得る必要はないが、薬剤投与 の必要性を簡潔に説明して「了解」を得るのが望ましいとしておられます。 このように「救急救命士標準テキスト追補版」の2つのテキストで、気管挿 管と薬剤投与に関する、家族などへの説明/インフォームド・コンセントに 関し、ニュアンスの違いがあるように感じております。
私共は救急救命士が気管挿管を実施する際に行うのも、(正式なインフォ ームド・コンセントを得る行為ではなく)その必要性を簡潔に説明して「了 解」を得るものであり、薬剤投与の場合と変わることはないと考えます。イ ンフォームド・コンセントは本テキストでも御解説いただいております通り、 これから行う処置について、患者の得る利益と合併症などの危険性、また処 置を行わなかった場合に予想される事態などを説明し、患者の利益が最も大 きいと思われる選択肢について患者本人またはその代行者の理解と同意を得 ることであり、本来は書面で同意内容について記録を残す必要もあります。
ただし、蘇生処置のいくつかの選択肢の中から気管挿管や薬剤投与につい て家族などに説明し十分な理解を得ることは時間的にも制約があり、そのこ とによって処置のタイミングを失ったり蘇生の可能性を低くする恐れがある ため、(正式な)インフォームド・コンセントを得ることは難しいと考えら れます。しかし、活動プロトコルや医師の指示があるからといって、家族な どに対し何の説明もなくいきなり処置を実施する訳には参りません。すなわ ちこの場合、家族などへの説明や情報提供は「接遇」にかかわる行為であり、 可能な範囲で実施するいわば「努力目標」ではないかと考えております。
編集委員長が担当されておられます「生命倫理」の項の内容は、「救急救命士
標準テキスト」において医療機関で医師が行う医療行為から、「救急救命士テ
キスト追補版:I 除細動・気管挿管、II 薬剤投与」では発展して救急救命士
が行う現場での行為に徐々にシフトして行く過程が見受けられますが、先生の
ご見解に対する理解が救急救命士ならびに彼らの教育者には十分とは言い難い、
と感じられます。
具体的には編集委員長のご論調が、1)病院での厳密なインフォームド・コン セントから、2)現場での「説明と了解(インフォームド・コンセントとは いえない)」と続き、3)再度、病院での実習の際のインフォームド・コンセ ントのあり方へと遡り、読者(救急救命士ならびにその指導者)にとって分 かりにくいことがあげられると思います。
加えて、総務省から示された「気管挿管プロトコール」では、シミュレー ション中に「隊員IC取ってきて」と明確な論理的過誤(?)を盛り込んだ内 容となっており、教育される救急救命士と教育者は全く混乱しております。
更に付け加えて述べるとすれば、これらの背景には、「生命倫理」といわ れる最重要項目でありながら、教育者・被教育者(救急救命士)にとって、 成人教育学の技法が取られていない。即ち、本章で学ぶべき GIO(一般学習 目標)と SBOs(行動教育目標)が明記されていない、ことも遠因にあるの ではないでしょうか。
「除細動・気管挿管 救急救命士標準テキスト追補版」の「気管挿管にお
ける医療倫理」p.58の御記載につきまして御検討、御指導を賜りたく、よろ
しくお願い申し上げます。
■2.「点滴ラインの準備と末梢静脈路確保の評価表」の項目について
「薬剤投与 救急救命士標準テキスト追補版II」p.185に「点滴ラインの 準備と末梢静脈路確保の評価表(例)」がございまして、この表の「穿刺手 技」の3番目に以下の記載があります。
この記載において、穿刺部位の末梢というのは身体の末梢なのか、留置カ テーテルの末梢なのか意味不明でございます。「穿刺部位の外筒尖端にあた る部を指で・・」というような表現がより適切ではないかと考えております。 このことにつきましても御検討をいただけましたら幸いと存じます。
以上、御多忙中、恐縮とは存じますが、御検討、御指導のほど、よろしく
お願い申し上げます。なお、今回の私共の御伺い状に対していただきました
御返信を私共の公開ウェブ資料「News from the GHDNet」
http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/jp/news.html
に収載させていただきたいと考えております。どうぞ、よろしくお願い申し
上げます。
末筆でございますが、編集委員の諸先生方の益々の御発展を御祈り申し上 げます。
私共の質問状についてはご検討いただいているところとの返信をいただいていますが、現時点では明確なご意見などを いただくには至っていません。
Date: Tue, 23 Jan 2007
Subject: [eml-nc7: 0058] 救急救命士が現場で行う I/C
From: A(医師)
Aです。
I/Cについてお話がでたので,以前,・・病院の同意書改訂作業をしたときの
経験から一言です。
同意書改訂において代諾ということが問題となりました。基本的に診療行為を代諾
できるのは法的代理人(両親,後見人)だけとのことです。よって,本人以外からと
る同意は基本的にはI/Cにはならないということです。I/Cはあくまで本人への治療行
為の説明であり,本人以外に説明している行為は基本的にはI/Cではないというのが
法律家(弁護士)の意見でした。
よって,心肺停止の方に対するI/Cは本来あり得ません。もし,本人が承諾できな
いときには,その行為は法医学の先生(同意書を研究対象にしているかたで100通ぐ
らいの同意書を集めたそうです)によると緊急事務管理という状態になるそうです。
民法第698条〔緊急事務管理〕は次のようになっています。
「管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事
務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた
損害を賠償する責任を負わない。」この時,治療者は管理者に該当し、本人は患者の
こと、事務管理は診療のことです。治療者が、患者の緊急時、迅速・適切な治療が必
要とされる場合には、説明義務を尽くさず患者の同意がないまま治療を行っても過失
はないと考えられます。
緊急時の医療行為の承諾というのはややこしいところはあると考えますが,基本的
に本人以外に対するI/Cという言葉自体が成り立たない可能性があります。
上記の文章はだからといって家族に説明する必要がないといっているわけではあり
ません。治療を円滑に行い,双方納得をするには(特に心肺停止などの重篤で後々本
人は亡くなってしまう場合)必要なこととは考えます。しかし,そのこととI/Cは分
けて考えるべきことかもしれません。