AHA新ガイドライン

第10部(8) 妊娠に関連した心停止
(Part 10.8: Cardiac Arrest Associated With Pregnancy)

目次
はじめに(Introduction)
心停止を防ぐための鍵
心停止の妊娠女性への蘇生
要約
参考文献



[現在の翻訳レベル=粗訳 060202] [原文] [参考文献

■はじめに(Introduction)

 妊娠した女性に蘇生を試みる際、プロバイダーは母親と胎児という2人の患者を担当する。胎児生存の最良の望みは母体生存である。妊娠している重篤な患者に対して、妊娠による生理学的変化を考慮しつつ、救助者は充分な蘇生を施さなければならない。


■ 心停止を防ぐための鍵
(Key Interventions to Prevent Arrest)

 妊娠している重篤な患者への処置:


■心停止の妊娠女性への蘇生

一次救命処置の修正箇所

 標準的な一次救命処置の修正が、心停止の妊娠女性に対して少し必要である(
表参照)。妊娠20週以降では、妊娠した子宮が下大静脈と大動脈を圧迫し、静脈還流と心拍出を妨げる。子宮による静脈還流の閉塞は心停止に至る低血圧またはショックを招き、心停止に陥る重篤な患者を作り出す1,2。心停止において、妊娠した子宮による静脈還流と心拍出の低下は、心臓マッサージの効果を制限する。患者を15〜30度左外側に傾けること(classUa)または妊娠した子宮を横に引っ張ることで、下大静脈と大動脈から子宮の位置を外せるかもしれない3。このことは、右臀部〜腰部の下に巻いた毛布またはそれに変わるものを入れることで、手順に沿って成し遂げられるであろう。他の修正箇所は下記の通りである。

二次救命処置の修正箇所

 標準的二次救命処置の無脈心停止アルゴリズムにおける、除細動、薬、挿管について推奨される勧められる治療は、妊娠した女性における心停止にも適用される(表参照)。しかしながら、気道確保、換気、循環そして鑑別診断について忘れてはならない重要な考慮する必要がある。

心肺停止における妊娠した女性に対する緊急帝王切開(帝王切開分娩)

一次救命処置や二次救命処置によりただちに母体の心肺停止が戻らない場合

 蘇生チームリーダーは、妊娠した女性が心肺停止に陥ってすぐに緊急帝王切開(帝王切開分娩)プロトコールの必要性を考慮すべきである4,16-18。妊娠24から25週以降の胎児の最もよい蘇生率は、母体の心拍が停止して5分以内に分娩に至っている場合である16,19-21。これによるとプロバイダーは心肺停止後4分以内に帝王切開を開始することが要求される。

 緊急帝王切開は積極的な方法である。潜在的に生存能力のある胎児を救助することは、母体の蘇生でもあるという反対の印象を受けるかもしれない6,10,22-24。しかし母体は静脈還流や心拍出量が回復しない限りは蘇生出来ない。分娩により子宮は空になり、静脈閉塞や動脈圧迫両方が解除される。帝王切開は胎児にとって、新生児としての蘇生が始まることにもなる。

 忘れてはならない危機的な点としては、母体の心臓への血流を回復出来なければ、母体も胎児も両方失ってしまうことである4,18,25,26。救助者が一次救命処置と二次救命処置により心停止が回復するかどうか判断しなければならない許容時間は4から5分である。蘇生チームには、緊急帝王切開を開始するまでに経過をみる余裕の時間などない27。緊急帝王切開を緊急に決め、実際に胎児が分娩するまでの時間は、産科のガイドラインでの30分をはるかに越える時間の差があるとの最近の報告がある28-29。  静脈確保と二次的な気道確保は数分以内に行う必要がある。ほとんどの場合、実際の帝王切開は静脈確保と気管挿管されるまでは行うことは出来ない。蘇生チームリーダーは妊娠した女性において心肺停止を認めた場合はすぐに緊急帝王切開のプロトコールを活動すべきである。チームリーダーが児を娩出するまでに、静脈は確保されて第一の薬剤は投与され、二次的な気道確保もされ、そして心肺停止の即時の可逆性が判断される。

緊急帝王切開の決定

 蘇生チームは緊急帝王切開の必要性を判断する際に母体と胎児のいくつかの要因を考慮すべきである。

高度な整備

 専門家や団体は高度な整備の重要性を強調してきた4,18,26。医療センターは、そこでの緊急帝王切開が実行できるかどうか再検討しなければならないし、もし出来るならただちに実現する最良の方法を確立しなければならない。計画は産科と小児科の協働で作られるべきである。


■要約

 妊娠した女性の蘇生の成功と胎児の救命には、一次と二次救命処置法においていくつか修正点はあるものの迅速かつ優れたCPRが必要とされている。妊娠20週では、妊娠した子宮が下大静脈と大動脈を圧迫し、静脈還流と動脈血流を閉塞する。救助者は、女性の体位を横に傾けるか、妊娠した子宮を横に引っ張ることで、圧迫を解除出来る。妊娠した女性の蘇生に対する除細動や薬物投与量は脈なし心停止の他の成人と同様である。もし蘇生が数分以内に成功しない場合は帝王切開を進める準備をするために、妊娠した女性が心停止に陥った際は、救助者はただちに緊急帝王切開の必要性を考慮すべきである。


表.一次と二次のABCDサーベイ:妊娠女性に対する修正点

二次救命処置アプローチ妊娠女性に対する修正点
一次ABCDサーベイ
 気道確保
  • 修正点なし

 換気

  • 修正点なし

 循環

  • 女性を15〜30度左外側に傾ける。それから心臓マッサージを開始する。
      または
  • (左側に向けるように)女性の右側下に楔形のものを置く。
      または
  • 女性の左側に救助者の一人が膝を置き、妊娠した子宮を外側に引っ張る。この手技は下大静脈の圧迫を解除する。

 除細動

  • 容量またはパッドの箇所は修正点なし。
  • 除細動のショックが胎児まで十分電流が流れるということはない。
  • ショックを施す前に胎児や子宮のモニター外しておく。

二次ABCDサーベイ
 気道確保
  • 食餌逆流や吸引の危険を減らすために蘇生においては早く二次的な気道確保を行う。
  • 気道の浮腫や肥厚は気管の直径を狭くするであろう。妊娠していない女性に用いる大きさよりも少し小さい気管チューブを準備する。
  • 口咽頭または鼻咽頭に挿入したチューブより多量出血を把握する。
  • 気管挿管の技術には修正点はない。経験のあるプロバイダーが挿管チューブを挿入すべきである。
  • 低酸素血症に早く陥るため効果的な事前の酸素投与は危険である。
  • 持続的な輪状軟骨圧迫を伴う迅速な挿管は好ましい方法である。
  • 麻酔や深い沈静のための薬は低血圧を最小限にするために選択されるべきである。

 換気

  • 挿管チューブの位置の確認について修正点はない。食道検知器具はたとえ正しく気管チューブが挿入されていても食道に位置していると示すかもしれないことに注意する。
  • 妊娠子宮は横隔膜を挙上する。
     ―酸素需要または肺機能が破綻すれば、患者は低酸素血症に陥る。機能的肺残気量が減少するために、蓄えが少なくなる。分換気量と1回換気量は増加する。
     ―効果的な酸素化と換気のために換気支持を用いる。

 循環

  • 標準的な二次救命処置で推奨されている全ての蘇生薬の投薬量に従う。
  • 静脈路確保のために大腿静脈または他の下肢の箇所は用いない。胎児が娩出しない限り、これらの場所から投与された薬は母体の心臓まで届かないであろう。

 鑑別診断と判断

  • 緊急帝王切開をすべきかどうか判断する。
  • 心肺停止の可逆的な原因を検証し治療する。妊娠に関連した原因と全ての二次救命処置患者(Part7.2."心停止の治療方法"の6H'sと6T'sを参照)に考えられる原因を考慮する。


CoSTR粗訳(フロントペ −ジへ)