ILCOR-CoSTR

Part 1: Introduction

科学に基づいた国際的な合意に向かって(Toward International Consensus on Science)
エビデンスの評価方法(Evidence Evaluation Process)
利害対立の調整(Management of Conflict of Interest)
生存率の改善に向けての科学の応用(Applying Science to Improve Survival)
ユニバーサル・アルゴリズム(Universal aigorithm)
将来の方向性(Future Directions)


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 2005年1月23〜30日にテキサス州ダラスにおいて、アメリカ心臓協会によって主催された治療勧告 を含む心肺蘇生と緊急心血管治療科学における2005年国際コンセンサス会議から。

 この記事は「Resuscitation」誌と「Circulation」誌で共同出版された(Circulation. 2005;112:III-1-III-4.)。著作権は国際蘇生連絡協議会(ILCOR)、アメリカ心臓協会およびヨー ロッパ蘇生協会にある。

 「Circulation」誌上のこの特別な補遺はhttp://www.circulationaha.orgで自由に利用できる。

*訳者註:この部の記載は「Circulation」誌と「Resuscitation」誌で異なっており、両者を併せた訳とした。


■科学に基づいた国際的な合意に向かって

 国際蘇生連絡協議会(ILCOR)(International Liaison Committee on Resuscitation,以下 ILCOR)は、1993年に結成された。その任務は、心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation, 以下 CPR)と緊急心血管治療(emergency cardiovascular care, 以下ECC)に関連した国際的な科学と知 識の確認と検討を行ない、また治療勧告におけるコンセンサスを提供することである。ECCは心血管 系および呼吸系に影響する突然の生命を脅かす事態を治療するために必要な全ての対応を含むが、 特に突然死に焦点をあてている。

 1999年にアメリカ心臓協会(American Heart Association, 以下AHA)は、蘇生科学を評価し一般的 な蘇生ガイドラインを作成するための最初のILCOR会議を主催した。会議の勧告は、「心肺蘇生法と 緊急心血管治療のための国際ガイドライン2000」で公表された。それ以来ILCORメンバー評議会の研 究者は蘇生科学を評価し続け、それは治療勧告を含む心肺蘇生と緊急心血管治療の2005国際コンセ ンサス会議(2005コンセンサス会議)で最高潮に達した(訳者註)。この出版物はそのエビデン スの評価過程の結論および勧告の要約である。

* 訳者註:in a process that culminated in the 2005 International Consensus Conferenceは「2005コンセンサス会議でまとめられた」という訳も可能かも知れません。

 全ての蘇生機関と蘇生専門家の目標は、早すぎる心血管死を防ぐことである。心停止や生命を脅 かす救急事態が生じた時、迅速で熟練した対応が生と死の、そして正常な生存と障害のある救命の 差となり得る。この文書は突然の生命を脅かす事態、特に全ての年代の傷病者における突然心停止 を認識し、これに対応するための現在のエビデンスを要約している。レビューされたトピックの範 囲が広く、数が多く、雑誌スペースの制限が予想されるので、科学的声明および、勧告が適切とさ れた章での治療勧告にも簡潔さが必要である。この文書は、蘇生医療のあらゆる方面の包括的なレ ビューではない;エビデンスや新しい情報がないトピックは除外された。


■エビデンスの評価方法

 現在のエビデンスの評価を始めるために、ILCOR代表者は6つの作業グループを設立した:一次救 命処置(basic life support, BLS)、二次救命処置(advanced life support, ALS)、急性冠症候 群、小児救命処置(PLS)、新生児救命処置、そして教育問題のような一部重なり合うトピックを考 慮する学際的な作業グループである。各々の作業グループは、エビデンス評価が必要なトピックを 確認し、それらを検討する国際的専門家を任命した。ステップ-バイ-ステップ方式によるワーク シート・テンプレートが作成され、これによって、一貫した完璧なアプローチが確実に行われ、専 門家たちが彼らの文献レビューを記述し(表1)、研究を評価し、エビデンスのレベルを決定し(表2)、治療勧告を作成することができた。可能な時には、2名の専門の批評家が各トピックを独自 に評価するために募集された。さらに、2名のエビデンス評価専門家が全てのワークシートを検討 し、ワークシートが首尾一貫して高い水準を満たすようにワークシート批評家たちを手助けした。 この過程は、補遺の論説の中で詳細に述べられている。2つの追加の作業グループが、脳卒中と応 急処置手当(ファーストエイド)についてのエビデンスを検討するためAHAによって設立された。こ れらのトピックは2005コンセンサス会議に含まれており、この文書の中に要約されているが、ILCOR のプロセスの一部ではなかった。

 合計281人の専門家が276のトピックに対し403のワークシートを完成させた。 249 人のワーク シート著者(アメリカ合衆国からの141名と17の他の国々からの108名)が、 2005コンセンサス会議に 出席した。2004年12月に、エビデンスのレビューおよびエビデンス評価ワークシートの要約部分 が、ワークシート担当者の利害対立(COI)に関する申告書付きで、インターネットのhttp://www.C2005.org上に掲示された。雑誌広告と電子メールでパブリックコメントが公募され た。コメントを送った者は、利害対立(COI)の可能性があればそれを示すように求められた。これ らのコメントは、考察のために適切なILCOR作業グループ議長とワークシート著者に送られた。

 2005コンセンサス会議のために行われた科学的レビューをできる限り広めるために、この文書の 電子バージョンから会議のために準備されたこれらのワークシートにリンクがはられた。ワーク シートの番号は、他の引用文献と区別するためWで始まる。ほとんどのワークシート番号は表題の次 に書かれている。この補遺の電子バージョンの読者は、W#呼び出し番号をクリックすることで引用 されたワークシートにアクセスでき、各セクションの終わりにあるワークシート引用リスト内の正 しい「文献」に導かれる。その文献はワークシートへのリンクを含んでいる。印刷バージョンの読 者は、この補遺の終わりにある付録1の中の番号がついたワークシートリストを参照することに よって、引用されたワークシートの完全なタイトルと著者を確認できる。読者はAHAのウェブサイトhttp://www.C2005.orgからワークシートにアクセスできる。不完全なワークシートはすべてワーク シートリストから削除され、この文書で引用されていないことに注意していただきたい。

 2005コンセンサス会議の380名の参加者全てが、ワークシートのコピーをCD-ROMで受け取った。文 献のリアルタイムの検証を容易にするため、会議の間、全ての会議参加者のインターネット・アク セスが利用可能であった。エビデンス検討者(reviewer)は全体会議、同時進行の分科会およびポ スター会議でトピックの発表を行った。そして発表者と参加者が、エビデンスと結論と要約声明の 草稿を討論した。毎日、前日から最も論争の的になっているトピックが作業グループ長によって確 認され、一つ以上の追加の会議で発表され討論された。専門家たちの勧告について議論・討論し、 暫定の科学声明の合意を作成するための会議の間、ILCOR作業グループは毎日会合を行った。各々の 科学声明は、特定のトピックに関係する全てのデータを専門家が解釈し、それを要約したものであ る。もし合意が得られれば、治療勧告の草稿が加えられた。科学声明と治療勧告の言葉遣いは、 ILCORメンバー組織と国際編集委員会によるさらなるレビューによって洗練された。この書式は、こ の最終の文書が本当に国際的な合意過程を意味することを保証する。

 提出の段階で、この文書は蘇生医学の多くのトピックにおける最先端科学の要約を表している。 いくつかの2005コンセンサス会議の前に該当領域専門家が査読したジャーナルの中で発表が認めら れたが、まだ出版されていなかった論文は、関連したジャーナルエディタの許可をえてILCOR作業グ ループに配布された。これらの論文は合意声明作成に寄与した。

 この原稿は、最終的に全てのILCORメンバー組織と国際編集委員会(この補遺の最初のページに列 挙されている)によって認められた。出版が認められる前に、AHA科学的助言および調整委員会と 「Circulation」編集者は、この文書の該当領域専門家の査読を受けた。「Resuscitation」の版は 脳卒中と応急処置のセクションを含んでいないが、(それ以外の)文書は「Circulation」と 「Resuscitation」に同時に掲載されている。

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表1:エビデンスの統合のステップ

 これらのステップに従って全てのエビデンスを統合しなさい:
1.文献レビューを行い、検索語句と検索したデータベースを記録しなさい。
2.仮説と関連した研究を選びなさい。
3.方法論に基づいたエビデンスのレベルを決定しなさい。(表2参照)
4.批判的な評価を行いなさい(poorからexcellentまで)。
5.エビデンスを科学要約と可能な治療勧告にまとめなさい。
 専門家は、科学的エビデンスに基づいたコンセンサスを作らなければならない。
 使われたステップとしては:
  エビデンスの評価と専門家によるワークシート準備、さらに、
   2005コンセンサス会議発表と討議
   ILCORメンバー組織による討議
   ILCORメンバー組織による承認
   最終的編集者によるレビューと国際的編集委員会による承認
   著者をあきらかにしないでの該当領域専門家による査読
   出版

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表2:エビデンスのレベル

エビデンスの定義
レベル1:無作為化臨床試験かしっかりした治療効果のある複数の臨床試験のメタ分析
レベル2:より少ないかより重要でない治療効果のある無作為化臨床試験
レベル3:前向き、計画化(対象を持つ?)、非無作為化コホート研究
レベル4:歴史的な非無作為化コホートあるいは患者対照研究
レベル5:ケースシリーズ(連続症例、症例報告?); 対照群のない、一連の方法で
     まとめた患者群
レベル6:動物試験もしくは機械的モデル研究
レベル7:他の目的のために集められた存在しているデータからの補外法、理論的分析
レベル8:合理的な推測(常識); エビデンスにもとづいたガイドラインの前に受け入
     れられていた一般的な方法

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■利害対立の調整

 蘇生科学の世界の指導的な専門家たちは、研究および関連ある学究的仕事(例えば、 研究の要約 の発表や科学的な会議への参加)を引き受け発表することで彼らの専門的知識を確立する。この仕 事は専門家に財政上と知的な利害対立(Conflict of Interest,COI)を作る可能性がある。科学的研 究への補助金と援助、講演料や謝礼金もまた、財政上の利害対立を産む可能性がある。非財政的な 利害対立には、現物支給でのサポート、個人的なアイデアへの知的な協力もしくは知的な投資、そ して研究員が相当な時間をつぎ込んだ長期研究計画を含む。利害対立の可能性がある場合にはそれ を完全に開示し、エビデンスの評価とコンセンサスの作成過程の客観性と信頼性を守るために、利 害対立に対する健全な方針が作成された。この方針は補遺の論説7で詳細に述べられている。メー カーと業界の代表者はこの会議に参加しなかった。

 編集委員会において利害対立の可能性があれば、補遺の最後の付録3に載せた。 ワークシート著 者たちに利害対立の可能性があれば、ワークシートに記録され、この文書内のワークシートへのリ ンクからアクセスできる。380人全員の出席者が、それらの利害対立の可能性を文章化するために書 類を完全に埋めるように要求された。ほとんどの出席者はワークシート著者でもあった。ワーク シート著者を含む全ての会議出席者によって完成された利害対立を記した用紙の情報も、同様に ウェブサイトでアクセスすることができる。
http://circ.ahajournals.org/cgi/content/full/CIRCULATIONAHA.105.166471/DC1
印刷バージョンの読者は、同様にAHAやERCウェブサイトの文書にアクセスできる: www.C2005.org
www.elsevier.com/locate/resuscitation

*訳者註:この部の記載は「Circulation」誌と「Resuscitation」誌で異なっており、両者を併せ た訳とした。


■生存率の改善に向けての科学の応用

科学的コンセンサスをガイドラインに

 この文書は蘇生科学に関する国際的合意声明であり、また(各章において)可能な限り治療勧告 も提示している。ILCORメンバー組織は、後でこの合意文書のなかで科学的に調和した蘇生ガイドラ インを発表するだろう。しかし彼らは蘇生臨床における地理的、経済的また社会システムにおける 差異や、医療機器や薬剤の入手可能性に関する差異を考慮に入れることにもなるだろう。全ての ILCORメンバー組織 は、蘇生方法の国際的な相違を最小限にし、指導方法、教育補助教材そしてト レーニングネットワークの有効性を最大限に利用するように努力する。

 2005コンセンサス会議の勧告によって、いくつかの現在のアプローチにおける安全性と有効性が 立証され、他のアプローチが最適でない可能性が認められ、エビデンスに基づいた評価に起因する 新しい治療が導入される。治療勧告が新しく修正されたといっても、前に公表されたガイドライン の使用を含む臨床治療が安全でないという意味ではない。ILCORの科学者とメンバー組織は、これら の新しい勧告が、現在の知識、研究および経験によって支持することができる、最も効果的で簡単 に学習できる処置であると考えている。教育と記憶の密接な関係もまた、最後の治療勧告の作成時 点で考慮された。

 虚血性心疾患は世界で最も多い死亡原因である。アメリカ合衆国で救急部または病院外での冠動 脈性心疾患による年間34万と見積もられる死の60%以上が突然心停止である。ほとんどの傷病者 が、この出版物で述べられている治療を受けずに病院外で死んでいる。突然心停止の傷病者を生存 と結びつける行動は、成人の「救命の連鎖」と呼ばれる。「救命の連鎖」は、緊急事態の早期の認 識、緊急医療サービス(EMS)システムの起動、早期のCPR、早期の除細動そして蘇生後ケアを含む早 期の二次救命処置である。乳幼児および小児の「救命の連鎖」は、心肺停止を引き起こす状況の防 止、早期のCPR,早期のEMSシステムの起動、そして早期の二次救命処置である。

 突然心停止からの生存の最も重要な決定条件は、行動のための準備、意思、能力そして装備を持 つ訓練された救助者の存在である。いくつかの二次救命処置技術が生存を改善する可能性がある が、これらの改善よりも通常、地域での一般救助者によるCPRやAEDプログラムによって報告された 生存率の増加の方が重要である。このように、私たちに残された最も大きな課題は、一般救助者の 教育である。私たちは指導の有効性と効率を高め、技能保持に磨きをかけ、BLSとALS両方のプロバ イダーが行動を起こす際の障害を減らさなければならない。蘇生教育の科学はこの出版物の中で扱 われている。


■ユニバーサル・アルゴリズム

 この文書の中で明らかにされた新しい治療勧告のいくつかが、更新されたILCORの一般的な心停止 アルゴリズムに含まれている()。このアルゴリズムは、(新生児を除く)心停止の乳幼児、小児 および成人の傷病者に対する蘇生の試みに適合するように意図されている。アルゴリズムはすで に、あらゆる努力によってシンプルになっているが、全ての年齢の心停止傷病者にほとんどの状況 で適用できる。必然的に、修正がいくつかの状況で必要とされ、これらの例外がこの文書の他の章 でハイライトを当てられている。地域ごとのわずかな修正はあるが、各々の蘇生組織はこのILCORア ルゴリズムに基づいたガイドラインを作成するであろう。

 もし傷病者の意識、反応、体動、呼吸がなければ(時折のあえぎは呼吸がないものとする)、救 助者はCPRを開始する。30対2の単一の胸骨圧迫対換気比率が(新生児を除く)乳児、小児もしくは成 人の傷病者に対し救助者が1人の時に使われる;これは一般救助者と全ての成人のCPRで適用され る。この単一の比率を用いることによって、教育が簡単になり、技能保持が促進し、与えられる胸 骨圧迫心臓マッサージの数が増加し、胸骨圧迫が中断されにくくなる。

 除細動器が装着され、もし「除細動可能」なリズム(例えば、心室細動あるいは速い心室頻拍) が確認されれば、1回のショックが与えられる。結果として生じるリズムに関係なく、ショック後 「血流のない」時間(例えば、リズムの解析のような行動のために圧迫をしない時間)を最小限に する目的で、直ちに胸骨圧迫心臓マッサージと換気(30対2を5サイクル。約2分)を再開する。 二次救命処置はアルゴリズムの中心のボックスで概略が示されている。二人の救助者によるCPRで、 いったん二次気道確保(例えば、気管チューブ、ラリンジアルマスクエアウェイ(以下LMA)、 あるいは食道・気管コンビチューブが挿入されれば、一人の救助者は、他の救助者が100回/分の胸 部圧迫をする間に8〜10回/分の換気をすべきである。胸骨圧迫心臓マッサージをしている救助者 は、換気のために胸骨圧迫を止めるべきではない。

 胸骨圧迫心臓マッサージの中断を最小にするという趣旨は、この文書を通じて強調されている; そのような中断が病院の内外両方においてしばしば起こっていることが最近のエビデンスで示され ている。CPR中の胸骨圧迫心臓マッサージの中断は最小限にとどめるべきである。

図(フローチャート)

ILCORの一般的な心停止アルゴリズム

反応がない?
 ↓ 大声で助けを呼ぶ
気道を開く
生命の兆候を探す
↓ EMS/蘇生チームに通報する
規則正しい呼吸がなければ2〜5回の最初の人工呼吸を行う
 ↓ 
30回の胸部圧迫(ほぼ1秒間に2回)のあと2回の人工呼吸を行う
 ↓
リズムの評価
 ↓    ↓
ショック可能  ショック不可能
(VF/PulselessVT) (PEA/Asytole)
 ↓
1回のショックを与える
 ↓    ↓
すぐにCPRを再開する すぐにCPRを再開する
30回の胸部圧迫  30回の胸部圧迫
2回の人工呼吸×5サイクル 2回の人工呼吸×5サイクル
   ↓
二次救命処置
CPR中
 気道の開放を維持する
 人工呼吸と酸素投与
 静脈路を確保する
 電極とパドルの位置と接触を確認する
 治療可能な原因を治す
考慮すべきこと:
 気道補助
 血管収縮薬/抗不整脈薬
計測し管理すべきこと:
 血糖値/体温/CO2/電解質


■将来の方向性

 蘇生の科学は急速に発展している。もし私たちがこの分野における治療の進歩を5年以上医療専 門家に知らせなければ、それは患者の最大の利益にはならない。ILCORメンバーは新しい科学を検討 し、必要な時には蘇生実施者が最先端の治療を提供できるように治療ガイドラインを更新するとい う暫定的な助言の声明を公表し続ける。私たちの知識に存在しているギャップは、CPRのすべての面 についての高品質な研究を続けることによってのみ埋められる。


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