日本麻酔科学会第51回学術総会2004/05/27発表・名古屋
院内AED治療体制の構築 (In-hospital AED program implementation)
Key Words: CPR(蘇生), training(教育), defibrillation(除細動)
大津市民病院救急診療科・集中治療部
福井道彦、大澤武、小尾口邦彦、別府賢
抄録
麻酔科など心肺蘇生治療(CPR)にかかわる医師は、看護師による院内除細動体制の構築が求められている。早期除細動がCPR後の社会復帰率を改善することが知られ、非医療者による自動体外式除細動器(AED)治療成績が世界的に注目されている。本邦でも2003年4月より、救命士を対象に医師の具体的指示なしにAEDを使用する体制が可能となった。看護師も救命士と同様のAED治療が行えると理解されている。当院でのAED体制構築に向けた取組みを紹介する。【構築方法】同事業を院内安全対策と位置づけ、”I DO AED!”事業と命名した。次の3項目を必要条件と判断し業務構築をすすめた。1.<AED治療に関する包括的指示>:救急担当者を中心に作成した指示を、病院長決済により院内全看護師対象とした。2.<事前実習教育>:独自に作成したテキストで自習させプレテストにより60%以上の習得を求めた。合格者6人づつ約1時間のシミュレーション実習を行いAED実施者として修了証を発行した。3.<事後検証>:AED使用後は治療を引き継いだ医師が検証し記録を管理することとした。【結果】教育事業が、時間的問題・インストラクターの数不足から遅れが目立つが、全体として業務に問題は発生していない。【考察】AED事業の実現には、部署を超えた標準業務の構築と管理、シミュレーション実習を含めた職員教育体制構築など、今後、病院が具えるべき機能が求められた。同事業は病院体制を更新するよい機会ともなった。【結語】看護師による包括的指示にもとづくAED治療のための体制を検討構築し事前教育を開始した。
発表の要旨
・病院内統一包括的指示の提示
救命士のAED治療に準じて看護師による院内指示無しAED治療実施手順を考えると次の4つが条件と考えられる。
1. 看護師に対するAED治療に関する包括的指示の提示
2. 包括的指示実施のための養成事業
3. 看護師によるAED治療
4. 医師による事後検証
ここで、病院内の指示無し除細動に関する業務を統一するためには1.の包括的指示は全看護職員に対して同じであることが望ましい。そこで、当院ではAED治療を院内安全対策の一環と位置付け安全推進室事業とした。本事業を「I DO AED(わたしはAED治療を行います)」プロジェクトと命名し展開した。作成した大津市民病院AED治療に関する包括的指示(資料1.参照)に対し病院長決済を受け全看護職員に提示した。この包括的指示には「医師の直接指示なしに以下のAED治療を行う者は原則として必要となる講習を修了した者に限る。」の文言を入れ、これを満たすためのAED実施者養成講習を開始した。講習修了者にはネームカードに入る認定証を準備した(資料2.参照)。
・大津市民病院院内AED実施者養成事業手順
養成の流れは、事前学習・プレテスト・実地講習・修了証書発行という手順とし、修了者の中から指導者を育成することとした。これらの内、事前学習とプレテストは部署単位での実施を依頼しプレテスト成績表の提示を求めた(資料3.4.参照)。詳細を以下に示す。
1.
事前学習: 以下の教材で各自が履修を進める。
・
BLSテキスト:任意のG2000に準拠した簡易BLSテキスト(製薬会社トーアエイヨウ配布のものなど)
・
AEDに関するテキスト:独自に作成した「I DO AED!テキスト」(別途資料参照)
・
大津市民病院院内除細動治療に関する包括的指示
・
AED治療の実際に関する参考教材:各種ビデオ資料など
2.
プレテスト: 事前学習の習熟度を評価し実地講習参加許可を与える。
・
事前学習に関しI. BLS、II. AED治療に関する包括的指示、III. AED治療の実際の3項目に関する筆記試験を行う。
・
各項目60%以上の正解を合格とする。
・
同日中、一回の追試を認める。(各項目a, b, cの3種類の問題を準備した)
・
再試験は翌日以降とする。
・
試験は各所属長に依頼しその責任で行う。
3.
実地講習: AEDトレーナーを用いて指導をおこなう。
・
6人以内の受講生に対し2―3名の指導者が実習指導評価を行う
・
個別評価は実施可能となることを目的に必要により繰り返し行う
4.
研修修了認定証発行: 院内でのAED治療に関する実施責任を負う。
・
実地講習の評価を下に(原則として全員に)発行する。
・
認定証はネームカードの裏に入れる(資料2.参照)
5.
指導者認定証: 実地講習指導者として認める。
・
研修修了証を有したもので二回以上実地講習指導の補助に当たった者に与える。
・進捗状況
原則として毎業務日の5:30pmより実地講習を実施している。看護師のインストラクター数も増え、ほとんどの講習を看護師のみで進められる体制になった。本年度中に全看護職員に対するAED講習を修了する予定である。
・まとめ
看護師による包括的指示にもとづくAED治療のための体制を構築し事前教育・院内指示無し除細動治療を開始した。
大津市民病院AED治療に関する包括的指示
資料1.
医療安全推進室 200309
* 医師の直接指示なしに以下のAED治療を行う者は原則として必要となる講習を修了した者に限る。
AED治療手順
心停止を確認:人・物(AED)を集めCPR開始 |
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治療実施場所の状況を確認 |
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ウエット |
ドライ |
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皮膚に落屑が多い場合,落屑を拭き取った方が良い. |
乾いた場所へ患者移動 |
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体表面の確認:バドル接着部の汚れは湿タオルでこすりおとす。濡れていないこと。フィルム類は除去する。 |
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AED装着:電源を入れる→バドルを貼る。 解析ボタンを押す。AED音声指示に従う。 *植込みペースメーカーから3cm以上離す。 |
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通電:「患者から離れて」。眼で確認。 「通電します」。AED音声指示に従う。 |
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医師への治療引継 |
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医師によるAED治療内容確認:使用後のAEDをMEセンターに提出する。MEセンターで出力したAEDの内部記録をカルテに貼付し医師の確認をうける。 |
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プロバイダーとインストラクターの認定証
資料2. 資料1.
所属責任者殿
平成15年9月18日
医療安全推進室
AED実施者養成事前学習と筆記試験の実施に関して
記
包括的指示にもとづく(医師以外が行う)AED治療実施者を以下の要領で育成します。各所属におかれましては、事前学習を指導し厳正な筆記試験を実施いただきますようお願いします。実施手順は以下の通りです。
1.次の事前学習教材を所属に提示・配布してください。:@ テキスト「I DO AED」(G2000準拠のBLS手引きを含む)、A 大津市民病院AED治療に関する包括的指示、B AED治療の実際に関するビデオ
2.筆記試験を実施してください。:試験対象は「I.AEDとCPRの基礎」「II.AED治療に関する包括的指示」「III.AED治療の実際」の3項目です。試験問題は各項目3種類(A, B, C)の問題が用意されています。ABCいずれを出題するかは恣意的に決めてください。試験官を立て、15分の試験時間で試験を実施してください。得点が60%未満の項目は1回だけ追試をしてください(一項目5分の試験時間としてください)。追試でも得点が60%に達しない場合は、再学習を指導し後日試験を繰り返してください。試験問題は回収し破棄してください。
3.「大津市民病院AED実施者養成講習記録」を作成提出してください。:筆記試験合格者に対し試験結果証明を記入した講習記録を作成し、安全推進室宛て提出してください。
以上
*修了番号: (*指導者番号: )
資料4. 資料1.
大津市民病院AED実施者養成講習記録 (□ 指導者認定証)
受講者氏名: 所属部署: 職員番号:
1.各部署で事前評価結果を記載
2.実地講習結果を記載
筆記試験結果
以下の通り受講者は実地講習受講に必要となる筆記試験を修了しました。
問題 |
I □A, □B, □C |
II □A, □B, □C |
III □A, □B, □C |
得点 |
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筆記試験日: 年 月 日 筆記実施場所:
筆記試験担当者氏名: 印 所属:
実地講習結果
<CPRとの関連性の実施ができたか>
・絶え間ないCPRの実施 □良 □指導後可
・Call First □良 □指導後可
3.修了証を発行し記録は病院保存
<AED本体を適切にあつかえたか>
・開封など準備作業 □良 □指導後可
・機械的トラブルへの対応 □良 □指導後可
<AED治療を適切に行えたか>
・環境の適切性判断 □良 □指導後可
・パッドをはる位置 □良 □指導後可
・音声指示に従う □良 □指導後可
その他指導した事項
実地講習日: 年 月 日 実地講習場所:
講習担当者氏名: 印 講習責任者氏名 印
修了証 □発行、 □未 理由:
以下により指導者と認定した。(□ I実地講習補助参加,□ II他の講習修了等)
4.インストラクタの認定
I-@ 年 月 日補助参加 担当責任者氏名 印
I-A 年 月 日補助参加 担当責任者氏名 印
II 貼付の資料(蘇生講習修了証等)による。(裏面に縮小コピーを糊付け)
認定確認者(AED指導者)二名のサインと確認日
@ 印 日付 / /
A 印 日付 / /
年 月 日付で指導者認定証を発行(□講習免除で修了証発行)