資料作成:2002年12月26日、四国がんセンター麻酔科 越智元郎
2002年12月23日、全国各紙に「緊急時の一般使用OK 除細動器で厚労省見解」という見出しの記事が掲載され、 一般の人が緊急的に除細動器を使っても医師法などには違反しないとの厚生労働省の見解が大きく報道されました。
【緊急時の一般使用OK 除細動器で厚労省見解】 突然死の原因とされる心室細動の治療に効果的な除細動器の使用が医師 などに限定されている問題で、厚生労働省は22日までに、緊急避難的に 一般の人が使っても医師法などに違反しないとの見解を打ち出した。心臓 に電気ショックを与える除細動器は心室細動に対処する唯一の手段で、駅 や空港、交通機関など公共の場に設置が進めば、救命率の向上につながり そうだ(以下、省略)。 |
この報道に関して、救急医療メーリングリスト(eml-nc2)をはじめ関連メーリングリストでは様々な意見が出ていますので、紹介させていただきます。
目次 (発信者の敬称は省略させていただきます)
Subject: [eml-nc2: 4671] Re: 緊急時の一般使用OK 除細動器で厚労省見解
Date: Thu, 26 Dec 2002 11:15:37 +0900
みなさんこんにちは
Aです。
少し気になって調べてみたのですが、厚生労働省医事課のほうでは日本循環器学会
からの要望書は確かに受け取りましたが、見解は発表していないとの電話回答をいた
だきました。
この要望書を受け取る場に共同通信がいて少し話をしましたが、公式な見解は示して
ないとのことでした。
ということは、その場での話が一人歩きしたのでしょうか
ただ、早急な検討課題であるとはいっていましたが・・・
日本循環器学会のHPに「院外心配停止の緊急救命処置としての非医師による
自動体外式除細動器(AED)使用推進の提言」があります。
厚生労働省のHPに昨日付ですが第3回救急救命士の業務のあり方等に関する
検討会議事録、第4回ワーキングチーム議事録が載っています。
(医政局資料 http://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#iseiより)
Date: Thu, 26 Dec 2002 22:54:21 +0900
Subject: [ACLS:2747] Re: 緊急時の一般使用OK 除細動器で厚労省見解
From: 御川 安仁
越智先生、・・先生、みなさん、こんばんは。
岡山大学麻酔蘇生学、御川安仁です。
除細動器の一般人の使用についての厚生省の見解について、
バックグラウンド等、もう少し詳しくご存知の方おられませんか?
教えていただけたら幸いです。
・・県、・・病院において、本年8月の時点では除細動機は院内に3台しか無かったのですが、
ACLSコースを契機に全病棟に除細動器の配備が終了しま
した。
これから看護師の使用についてもなんとか議論していこうとしております。
ACLSコースも来年1月で第4回になります。
そして、2月に、・・市において一般人にもAEDを紹介しようと思っているもので、、、どの
程度一般人に突っ込んだ話をしようかと思案中なもので、、
よろしくお願いいたします。
岡山大学麻酔蘇生学教室
御川安仁
From: Genro Ochi
Date: Fri, 27 Dec 2002 08:23:49 +0900
Subject: [ACLS:2750] Re: 2747 緊急時の一般使用OK 除細動器で厚労省見解
御川先生、皆様、四国がんセンターの越智です。
〇
御川 安仁 さんは書きました(ACLS:2747):
>除細動器の一般人の使用についての厚生省の見解について、
>バックグラウンド等、もう少し詳しくご存知の方おられませんか?
>教えていただけたら幸いです。
→ 「厚生省の見解」については救急医療メーリングリスト(eml)
でも話題になりましたが、「厚生省担当官のお1人が意図的に、非公
式の心情をリークし、世間の反応をみている」というような感じでは
ないでしょうか。共同通信の記事(各地の地方紙)以外の全国紙、NHK
などには全く取り上げられていませんからね。「煙」はちょろっと見
えたが、誰も「火」を見ていない、いわば裏を取っていない「誤報」
ではないでしょうか。
>そして、2月に、・・市において一般人にもAEDを紹介しようと思っている
もので、、、どの程度一般人に突っ込んだ話をしようかと思案中なもので、、
→ 「緊急避難」を持ち出せば、一般市民が一次救命処置をしても、AEDを
用いても、気管切開(例えば窒息患者に医学生、看護師、歯科医師が・
・)をしても、「行わなければ死ぬかも知れない」という状況であれば、
すべてOKでしょう。特に AEDの操作の容易さ、安全性を考えると、今
回の「厚生省」の見解が出るまでもなく、「一般市民が緊急避難として
使用」することは十分に許されることだと思います(少なくとも世界の
医学的常識に照らせば・・)。わが国で欠けているのは一般の認知であ
り、機器の配備であり、市民への情報提供だと思います。
今回の「勇み足報道」はAEDに関する市民の認知をはかろうと考えた
厚生省関係者と「人が犬を噛む」ような目立った報道ネタを探していた
新聞社との利害が一致した結果なのではないでしょうか。われわれはそ
の「誤報?」に大いに乗っかればよいと思います。講習会でも、「もし
手元にAEDがあれば迷わず使用して下さい。緊急避難として罪を問われる
ことはない筈です。」とお話になってはいかがですか? では行政や立
法がそれを認めた根拠を示して・・ と聞かれたら、今回の新聞の切り
抜きを恐る恐る差し出すほかありませんが(これこそ寂しい話ですが)
・・
Date: Fri, 27 Dec 2002 13:11:15 +0900
Subject: [ACLS:2751] Re: 2747 緊急時の一般使用OK 除細動器で厚
From: 御川 安仁
越智先生、こんにちは。
岡山大学麻酔蘇生学教室、御川安仁です。
早速のご返答、ご教授ありがとうございます。
On 2002.12.27, at 08:23 AM, Genro Ochi wrote:
> → 「厚生省の見解」については救急医療メーリングリスト(eml)
> http://eml.amazing.co.jp/
> でも話題になりましたが、「厚生省担当官のお1人が意図的に、非公
> 式の心情をリークし、世間の反応をみている」というような感じでは
> ないでしょうか。共同通信の記事(各地の地方紙)以外の全国紙、NHK
> などには全く取り上げられていませんからね。「煙」はちょろっと見
> えたが、誰も「火」を見ていない、いわば裏を取っていない「誤報」
> ではないでしょうか。
なるほど、そうなんですか。まあ、これからAEDが日本でも普及する(一般市民が認知する)
第一歩(0.5歩?)を形はどうあれ、踏み出した、、という ところですか。
>> そして、2月に、・・市において一般人にもAEDを紹介しようと思っている
> もので、、、どの程度一般人に突っ込んだ話をしようかと思案中なもので、、
>
> → 「緊急避難」を持ち出せば、一般市民が一次救命処置をしても、AEDを
> 用いても、気管切開(例えば窒息患者に医学生、看護師、歯科医師が・
> ・)をしても、「行わなければ死ぬかも知れない」という状況があれば、
> すべてOKでしょう。
> 特に AEDの操作の容易さ、安全性を考えると、今
> 回の「厚生省」の見解が出るまでもなく、「一般市民が緊急避難として
> 使用」することは十分に許されることだと思います(少なくとも世界の
> 医学的常識に照らせば・・)。わが国で欠けているのは一般の認知であ
> り、機器の配備であり、市民への情報提供だと思います。
なるほど。気管切開などにまで僕は考えが及びませんでしたが、そうですよね。
AEDは特にそうですね。人間の目(下手な医療従事者)の誤認確率をおもえば、AEDの方が正確
ですからね。
あとは、情報提供、配備、そして訓練システム、ですか。
現段階でも救命士はもちろんのこと、看護師もどんどん使用すればいいですよね。
少し訓練すればすぐに使えますしね。
第4回ACLSコースを行う、・・病院でできればそういう方向に話を持っていこうと思っており
ますが。AEDもどきの半自動除細動器が各病棟に配備終 了したようですので。8月以降
地道にACLSコースをやって来た成果でしょうか?
また、・・市での一般市民への救急実地練習講習会でも、AEDをぜひ取り入れ触っていただこ
うと思っております。少々、迷っておりましたが、勇気が出てきました。
遠慮なく、情報提供、と少しの訓練、行いたいと思います。
> 今回の「勇み足報道」はAEDに関する市民の認知をはかろうと考えた
> 厚生省関係者と「人が犬を噛む」ような目立った報道ネタを探していた
> 新聞社との利害が一致した結果なのではないでしょうか。われわれはそ
> の「誤報?」に大いに乗っかればよいと思います。講習会でも、「もし
> 手元にAEDがあれば迷わず使用して下さい。緊急避難として罪を問われる
> ことはない筈です。」とお話になってはいかがですか? では行政や立
> 法がそれを認めた根拠を示して・・ と聞かれたら、今回の新聞の切り
> 抜きを恐る恐る差し出すほかありませんが(これこそ寂しい話ですが)
> ・・
アメリカのような Good Samaritan Law みたいなのがほしいですね。
ちょっと観点が違うかもしれませんが。
いや、法律が無くとも人助けに罪などあるはずないか、、
From: Genro Ochi
Date: Fri, 27 Dec 2002 14:13:50 +0900
Subject: [ACLS:2752] Re: 2751 緊急時の一般使用OK 除細動器(Good Samarian Law)
御川先生、皆様、四国がんセンターの越智です。お世話になります。
〇
御川 安仁 さんは書きました(ACLS:2751):
>AEDは特にそうですね。人間の目(下手な医療従事者)の誤認確率をおもえば、AEDの方が正確
ですからね。
>あとは、情報提供、配備、そして訓練システム、ですか。
>現段階でも救命士はもちろんのこと、看護師もどんどん使用すればいいですよね。
>少し訓練すればすぐに使えますしね。
>第4回ACLSコースを行う、・・病院でできればそういう方向に話を持っていこうと思っており
ますが。AEDもどきの半自動除細動器が各病棟に配備終
>了したようですので。8月以降地道にACLSコースをやって来た成果でしょうか?
>また、・・市での一般市民への救急実地練習講習会でも、AEDをぜひ取り入れ
>触っていただこうと思っております。少々、迷っておりましたが、勇気が出てきました。遠慮
なく、情報提供、と少しの訓練、行いたいと思います。
→ AEDに関しては押せ押せ(^L^)でよいのではないかと思います。宜し
くお願いいたします。
> アメリカのような Good Sammaritan Law みたいなのがほしいですね。
>ちょっと観点が違うかもしれませんが。
>いや、法律が無くとも人助けに罪などあるはずないか、、
→ Good Samaritan Law と「緊急避難」とは趣旨が違いますが、いずれに
しても、現在Good Samaritan Lawに該当する法律がないから心肺蘇生法
やAEDによる早期除細動を推進できない、という風にわれわれ自身を限
定する必要はないと思います。
Good Samaritan Lawについては本メールの最後に少し資料を付けさせて
いただきます。
〇
「よきサマリア人法」(Good Samarian Law) について
「笹山登生の発言・寸感アラカルト」より
http://www.sasayama.or.jp/diary/2001nov21.htm
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最後に、アメリカの各州法にある
http://www.health.state.mo.us/Publications/400-20.html
という「よきサマリア人法」(Good Samarian Law)
http://www.soc.ocha.ac.jp/kotani/sillabo3allegato3
http://www.premack.com/columns/1996/960725.htm
(法律の中に「よきサマリア人条項」-Protection for ''Good Samaritan''-
http://cox.house.gov/
が設けられている場合もおおい) の精神を思い起こしてみよう。
これは、聖書の例え
http://shinrinomachi.tripod.co.jp/message1.html
のごとく、「緊急事態にある人をボランティアが手当てした場合、仮に、その
手当てにおいて、状況が悪くなったとしても、民事責任を免れる。」という法
律のようである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それでは御川先生、皆様、また。
From: 日本ファーストエイドソサエテイ(JFAS) 岡野谷純
Date: Mon, 30 Dec 2002 06:49:56 EST
Subject: [ibarakiems.2780] Re:看護師と救命士
・・さん、越智さん、・・さん、皆さん 岡野谷@JFASです。
あまりに活発なご意見の交換に圧倒されて、黙って拝見していました。
看護師さん、救命士さんたちが悩んでいらっしゃる事柄についても少しわかります。
その上で、私は一般市民として、皆さんのお話に口を挟ませて戴けましたら幸甚です。
なお、市民の本音もチラリと出てくるかもしれないので失礼があったらお許し下さい。
・・さんwrote:
>(引用部分省略)
すっきりさせるために何をしたらいいか。 シンプルに考えてみましょう。
何が人として正しいか、目的は何か・・と考えれば、話はとても単純です。
当然に、医師の指示がなくてもAEDのボタンを押せばいいのです。
でも・・、そんなことをしたら看護師の、救命士の資格を剥奪されるのでは・・
職を逸するのでは・・ と心配するから、とても壮大な悩みが生まれてくるのですよね。
では、法律と人命とどっちを優先するのか・・。酒田の救命士さんが言い放った言葉
ですが、法律が職を守っているのですから、この疑問には答えられません。
それなら、疑問の大元に聞いてみればいいのです。これもシンプルな解決方法。
私自身はAEDの一般使用が世界レベルに可能になってくれることを心待ちにしている
市民の一人です。ただ、話題になっている報道に関しては「一般使用は違法ではない」と
いう文脈にどうも疑問がありました。なぜって、どう考えても現状の医師法には抵触して
います。 報道に手放しでは喜べませんでした。
さて、報道やうわさに関して疑問に思った時には、情報の大基の発信源に訊ねるのが
一番であると思います。報道されたこと自体を題材に、あるいは前提に会話をするのは、
時として全く無意味な議論となることもあります。
・・という訳で、年末の納め会も始ろうという時間に、厚生労働省、医政局医事課企画
法令係に今回のAED報道についてお話を伺ってみました。
2日間に亘り、30分以上の長い質疑応答の時間を戴き、正式なコメントを戴きました
のでご報告申し上げます。なお、ご担当者には師走の忙しい時期に丁寧にお答え
戴き大変感謝しています。 ありがとうございました。
1)報道の内容について:
まず、医事課では記事の全文を把握していませんが、内容については正しい報道と
はなっていません。今回の報道は誤報です。(と、はっきりおっしゃっていました。)
2)取材の方法について:
確かに22日頃、電話でこのような質問を受け、3)の見解と同じお答えをしました。
直接来局しての会見ではありません。
3)厚生労働省の見解:
現状では、AEDの使用に関する厚生労働省のスタンスはなにも変わっていません。
また「医師法などに違反しない」という見解は一切述べていません。
以下、見解の要約:
少なくとも、もし一般市民がAEDを使用すれば明らかに医師法に違反するでしょう。
けれども、状況が本当に緊急避難的な行動であったのであればその「違法性が阻却
される」ことになると考えます。よって市民がAEDを使用したことで法的に罰せられる
ことはありません。但し、これは「医師法に違反しない」ということではありません。
※これなら納得がいきます。違法性が阻却されるとは、本来違法な行動ではあるが、
事情を鑑みて違法とはみなさない・・ということです。但し、これはあくまで厚生労働省の
見解であり、裁判所の判断ではありません。
厚生労働省は、スタンスは何も変わっていないとおっしゃいましたが、10年前、5年前の
回答とは明らかに方向が変わっています。医療のガイドラインや救命に関する法律を
少しでも世界基準に近づける努力を、厚生労働省も真剣に模索していらっしゃることを
感じました。
その他にも、救命士が使用した場合やAED講習などついて幾つか質問し明快な回答を
戴きました。ご興味のある内容であると思いますので少しずつお話していきたいと思います。
では。 皆様にとって来年が更に健康でよりよい一年になりますように。