気道異物に対する救急隊員並びに市民による異物除去の検討

(平成11年度自治省消防庁委託研究 報告書)

竹田 豊、越智元郎*、畑中哲生**、白川 洋一*

出雲市外4町広域消防組合、愛媛大学医学部救急医学*、救急救命九州研修所**

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目 次___

はじめに対象及び方法
結果(研究1)___結果(研究2)___
考 察結 語
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欧州蘇生会議 抄録(英文)

同 和訳

図入りの報告書
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はじめに

 日本おける窒息事故は、不慮の事故による死亡の中で交通事故に次いで多く、平成9年における死亡総数は 7,179人にのぼっている1)

窒息の主たる原因は食物に関する物だと考えられているが、その詳細は依然不明である。さらに、日本では窒息事故に対する処置の教育が一貫していない。また近年、掃除機を使用した異物除去の成功事例がテレビ、新聞等でよく見受けられるようになった。この掃除機による異物除去法については、まだ応急手当として確立されておらず、また合併症についても議論がなされていないのが現状である。こうしたことから指導者側、一般市民の間に混乱を来たしている。

 この研究の目的は気道異物による窒息事故に関する社会統計と臨床的背景を明らかにすることである。

対象及び方法

研究1:

 1998年1年間に多数の消防機関で経験した気道内異物症例に対する、市民および救急隊員による気道内異物除去法の有効性と併発症などを、レトロスペクティブに分析した。調査内容は救急要請があった気道異物事故とし、嘔吐物による気道異物事故は他の疾患と判別が出来ないため除外した。

 調査内容は、調査実施消防本部概要、気道異物患者概要、原因異物、救急要請要請時の口頭指導内容、市民による異物除去処置の有無・その内容、救急隊による異物除去内容、合併症、転帰などで、原因異物や市民処置の有無・内容など得られた臨床的情報について、死亡率と合併症発生率との関係を調査した。

研究2:

 全国の消防本部から抽出した消防本部に対してアンケート調査を行い、救急要請入電時の市民に対する口頭指導の方針、その内容を調査分析した。調査内容は、電話指導プロトコールの有無、気道異物に関する電話指導の方針、消防本部における市民に対する各処置の指導方針について調査した。

 統計処理はカイ2乗検定とロジスティックモデルを用い、カイ2乗検定は危険率 5%未満を有意と判定した。

結 果

【研究1】

〇調査実施消防本部概要:
調査実施消防本部は96消防本部、回収率83.5%。調査実施消防本部全管内人口は11,874,648人。これは1,998年推定全国総人口126,420,000人の9.4%にあたる。

〇気道異物事故概要:

調査気道異物件数810件、男性437人、女性370人、死亡者数は256人、死亡率31.3%であった。これらより1,998年の全国の気道異物事故状況を推定すると、気道異物件数 約8,700 件(6.9人/人口10万人/1年間)で死亡例に限っても約2,700人(2.2人/人口10万人/1年間)であった。(表1

表1.気道異物事故概要

 
 ・管内人口総数(人)11,874,648 
 ・全国推定総人口
   に対する比(%)
9.4 
 ・気道異物件数(件)810 
 ・死亡者数(人)256 
 ・死亡率(%)31.3 
 ・推定気道異物件数
        (件/年)
約8,700 
 ・気道異物発生頻度
    (件/人口10万人/年)
6.9 
 ・推定死亡者数
      (全国総数/年)
約2,700 
 ・死亡事故発生頻度
     (人/人口10万人/年)
2.2 

〇年齢:

年齢、年代別では、乳児、高齢者に気道異物事故が多く発生していた(図1-11-2)。年齢に対し多変量解析するとオッズ比:0.974(95%CI:0.967-0.981)となり、年齢が1歳増すごとに3%づつ生存率が低くなっていく。

図1-1.年齢別異物事故件数



図1-2.年代別異物事故件数

〇性差:
男性が437人(54.0%)。女性370人(45.7%)であった。性別を多変量解析すると男性がオッズ比0.65(95%CI:0.49-0.87)となり女性に比べ生存率が65%と有意な影響を与えた。

〇異物タイプ:

異物事故の原因は、餅18.5%、ご飯10.1%、果物・野菜9.0%、菓子(飴を除く)7.4%、肉5.1%などであった(図2)。異物タイプ別に多変量解析すると、その中で餅がオッズ比:0.56(95%CI:0.39-0.79) と他の異物に比べ生存率が56%と有意な影響を与えた。

図2.異物タイプ別事故件数

〇気道異物事故の季節性:
気道異物事故が一番多い月は、1月の15.9%、二番目は12月の11.4%であった。最も少ない月は、7月の5.3%であった。餅による気道異物事故は1月が最も多く、次いで12月、他の異物についてはあまり変化がなかった(図3)。

救急要請要請時の口頭指導:救急要請要請時に電話による異物除去の口頭指導を実施されていたものは42.0%。実施されていなかったものは38.0%であった(図4)。

口頭指導内容は、背部叩打法が最も多く64.6%。次いで指拭法 16.0%。ハイムリック法9.2%。掃除機による吸引が5.2%であった(図5)。

図3.月別気道異物発生件数eii


図4.口頭指導実施状況


図5.口頭指導内容


〇市民による異物除去:
市民による異物除去実施率は62.1%であった(図6)。救急要請受信時において異物除去の口頭指導を実施した場合、市民による異物除去実施率は84.4%であった。これに対し口頭指導を実施しなかった場合の市民による異物除去実施率は46.4%であった(図7)。

市民による異物除去実施の有無による異物除去効果は、実施されていた場合69.0%で異物除去に成功しており、未実施の場合は38.6%であった(図8)。

市民による異物除去実施による転帰は、実施した場合の生存率は76.3%。未実施だった場合の生存率は50.9%であった(図9)。

市民による異物除去努力を多変量解析するとオッズ比:3.0(95%CI:2.2-4.0) となり、異物除去成功、不成功に関わらず市民による異物除去努力が生存率を3倍高くした。

図6.市民による異物除去実施状況


図7.口頭指導の市民異物除去処置への影響


図8.市民による異物除去の効果


図9.市民による異物除去と転帰


〇異物除去実施者:
異物除去実施者別では、家族が66%と最も多く、次いで福祉施設職員の9.3%、看護婦8.3%、医師5.6%であった(図10)。

図10.異物除去実施者


〇異物除去法知識入手先:
異物除去法知識入手先は、不明の41.9%を除くと口頭指導の26.4%が最も多く、次いで医師、看護婦、福祉施設職員など医療関係者が18.1%であった(図11)。

図11.異物除去法の知識入手先


〇市民による異物除去法別の異物除去成功率、転帰:
異物除去法別実施率は、背部叩打を行ったものは53.1%、指拭法が18.6%、ハイムリック法が5.1%で、それらの成功率(それぞれ、61.1%, 61.8% and60.6%)には統計学的有意差はなかった(図12)。ただし、乳幼児における背部叩打法の成功率が有意に高かった。

救急隊員による異物除去法別:救急隊員による異物除去法では喉頭鏡、マギール鉗子による異物除去が最も多く全体の59.2%を占め、その成功率は78.6%と高率であった。次いで吸引器が多く21.3% 成功率70.9%。用手による除去法では、背部叩打法が最も多く12.4% 成功率は46.0%であった。指拭法は3.5%、ハイムリック法は2.7%施行されており、ハイムリック変法と呼ばれる側胸部下部圧迫法、胸部圧迫法は1%以下であった(図13)。

救急隊到着前、後の異物有無別の転帰:市民による異物除去が成功、または咳など患者本人による異物除去など、救急隊到着前に異物が除去できた場合の死亡率は12.4%であった。市民による異物除去が不成功、または市民による異物除去の試行がされなかったなど、救急隊到着前に異物が除去できなかった場合の死亡率は64.4%であった。救急隊によって異物除去に成功した場合の死亡率は62.5%。救急隊により異物除去を試みたが不成功であった場合の死亡率は53.2%であった(図14)。

図12.市民による異物除去の成功率(手技別集計)


図13.救急隊員による異物除去の成功率(手技別集計)


図14.救急隊員到着前後の異物の有無と転帰


【研究2】

〇調査実施消防本部の概要:

調査実施消防本部は181消防本部、回収率87.4%。

〇口頭指導プロトコールの作成状況:

成人に対する口頭指導プロトコールの作成状況は、プロトコールを作成し実施している本部が38.1%。現在は個人の裁量で実施し、プロトコールは作成時期を決め作成を予定している本部が33.1%。現在は個人の裁量で実施し、プロトコールは作成を予定しているが時期を決めていない本部が14.9%。個人の裁量で実施し、    プロトコールの策定予定はない本部が9.4%。口頭指導を実施していない本部が3.9%であった(図15-1)。乳幼児に対する口頭指導プロトコールの作成状況も成人に対するものとほぼ同じ結果であった(図15-2)。

図15-1.口頭指導プロトコール(成人用)作成状況

1:プロトコールに従い実施、2〜4:個人で実施(2:プロトコール作成予定、3:プロトコール作成予定―時期未定、4:プロトコール作成予定なし)、5:実施していない、6:回答なし)


図15-2.口頭指導プロトコール(乳幼児用)作成状況

1:プロトコールに従い実施、2〜4:個人で実施(2:プロトコール作成予定、3:プロトコール作成予定―時期未定、4:プロトコール作成予定なし)、5:実施していない、6:回答なし)


〇口頭指導プロトコール内容:
成人用プロトコールの第一選択では指拭法が最も多く69.6%。次いで背部叩打法27.5%。第二選択では背部叩打法の71.0%。次いでハイムリック法14.5%。指拭法7.2%であった。第三選択ではハイムリック法と第三選択なしが最も多く42.0%。三番目に掃除機による吸引が10.1%と続く。ハイムリック変法を口頭指導のプロトコールに入れていたところはなかった(図16-1)。

乳幼児用プロトコールの第一選択では指拭法が最も多く66.2%。次いで背部叩打法33.8%。第ニ選択では背部叩打法67.7%。第二選択なし23.1%。指拭法 6.2%であった。第三選択は第三選択なし89.0%。掃除機による吸引7.7%であった。ハイムリック法は1件、ハイムリック変法を口頭指導のプロトコールに入れていたところはなかった(図16-2)。

成人、乳幼児とも口頭指導のプロトコール策定基準として「口頭指導のしやすさ」「安全性」の理由が多かった。

図16-1.口頭指導プロトコール内容(成人用)


図16-2.口頭指導プロトコール内容(乳児用)


〇気道異物除去法指導内容:
救命講習等での成人に対する異物除去法指導内容は、背部叩打法については100.0%と全ての消防本部で指導をしていた。ハイムリック法は82.9%。ハイムリック変法は60.8%。指拭法は96.0%。掃除機による吸引は56.4%の消防本部で指導していた(図17-1)。

指導しない理由としては、ハイムリック法が「臓器損傷など二次損傷の恐れ」、ハイムリック変法は「手技が難しい」「講習時間がない。」という理由が多かった。掃除機による吸引を指導する理由として「最終手段として」「こういう方法もあるという紹介程度」「質問があれば」であった。指導しない理由としては「応急手当として確立されていない。」「衛生的問題」「口腔内、肺損傷など二次損傷の危険性」を挙げていた。

乳幼児に対する異物除去法指導内容では、背部叩打法が97.2%とほとんどの消防本部で指導をしており、ハイムリック法は11.6%。ハイムリック変法は14.4%。指拭法は85.1%。掃除機による吸引は20.4%の消防本部で指導していた(図17-2)。

指導しない理由としては、ハイムリック法、ハイムリック変法とも「臓器損傷など二次損傷の恐れ」。掃除機による吸引では「ノズルが口に入らない」「応急手当として確立されていない。」「衛生的問題」「口腔内、肺損傷など二次損傷の危険性」が多かった。

図17-1.気道異物除去法指導内容(成人用)


図17-2.気道異物除去法指導内容(乳児用)


考 察

 研究1の結果から、救急搬送を要した気道異物事故の発生率は 6.9人/人口10万人/1年間と計算され、気道異物のために救急医療サービスを受けた後に死亡した患者は 2.2人/人口10万人/1年間と計算された。これは、アメリカで報告された気道異物による死者発生率 人口10万人あたり年0.066人の実に33倍である
2)。また、日本の病院前救護における疫学データはウツタイン方式3)の導入後徐々に蓄積されているが、最も注目されている、初期リズムとして心室細動を呈する心原性突然死の発生率については 3.8人/人口10万人/1年間というデータがある4)。今回のわれわれの結果をみると、気道異物事故は心室細動を呈する心原性突然死をも上回る発生率を示し、病院前救護において迅速な対処が必要な傷病として、きわめて重要であると考えられた。また、気道異物事故における生存率に有意な影響を与える男性、高齢者、餅、市民による異物除去努力の4つの要因が明らかになった。

 その中の市民による気道異物除去努力に対して、救急要請入電時における口頭指導が大きく影響していた。救急要請入電時における口頭指導は、平成11年7月 救急要請受信時の口頭指導実施基準が定められたことにより推進されているが、まだ口頭指導のプロトコールを整備し実施している消防本部は38.1%と少なく、さらに強く推進する必要がある。 市民による異物除去法は、今回の研究では、乳幼児に対する背部叩打法が有効であった以外、それぞれの成功率に統計学的有意差はなかった。しかし、欧米においてはevidenceに基づき成人に対してはハイムリック法、乳幼児に対しては背部叩打法を指導している5),6)。わが国では、各応急手当普及啓発機関での指導方法が統一されていないばかりか、消防機関の応急処置指導要領には背部叩打法、ハイムリック法、側胸部圧迫法いわゆるハイムリック変法など、様々な方法が記載されており、どのような優先順位で施行すべきかが必ずしも明らかにされていない。また、掃除機による吸引という他国に例をみない手技が、今回の研究でも56.4%と多くの消防本部で指導されている。これについても、ほとんど判断材料となるデータが収集されていないのが現状である。市民による異物除去法について今後さらに研究の必要があると思われる。

 救急隊員による異物除去については、「救急隊員の行う応急処置等の基準」の改正により救急隊にも喉頭鏡、マギール鉗子による異物除去が認められ、今回の調査においても喉頭鏡、マギール鉗子による異物除去法が最も多く試行され、また成功率も高く処置拡大効果があった。しかし、その異物除去の成否は生存率には影響がなかった。この結果は、一般市民による気道異物除去努力が、患者の生存率にもっとも大きな影響を及ぼすこと、今後も気道異物事故に対する市民教育を推奨する必要性が大きいことを示唆している。

結 語

 気道異物事故は、病院前救護の中で重要な位置を占めている。また、気道異物事故における生存率に有意な影響を与える性別、年齢、異物のタイプ、市民による異物除去努力有無の4つの要因が明らかになった。

 気道異物事故での市民の異物除去努力は生存率を左右するが、その異物除去法は多岐にわたっている。異物除去法が多種あることは、応急手当の指導や市民による異物除去実施において混乱を招いていると思われる。新たに異物除去法について再考、統一する必要がある。また、掃除機を使用した異物除去法についても適切な位置づけをする必要がある。


文 献

  1. 国民衛生の動向 46 (9), 54-55, 1999

  2. The Fatal Cafe Coronary.JAMA 1982;247:1258-8

  3. Task Force of the American Heart Association, the European Resuscitation Council, the Heart and Stroke Foundation of Canada, and the Australian Resuscitation Council. Recommended Guidelines for Uniform Reporting of Data from Out-of-Hospital Cardiac Arrest: The Utstein Style. Circulation 84: 960-975, 1991

  4. 西原 功、平出 敦、森田 大ほか:大阪北摂地区における院外心停止症例の Utstein様式に基づいた記録集計結果.日本救急医学会誌 1999; 10: 460-82)日本救急医学会誌 1999; 10: 460-8

  5. Emergency Cardiac Care Committee and Subcommittees, American Heart Association. Guidelines for cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiac care. JAMA 268: 2171-2295, 1992

  6. Handley AJ, Becker LB, Allen M, et al.: Single rescuer adult basic life support. An advisory statement from the Basic Life Support Working Group of the International Liaison Committee on Resuscitation (ILCOR). Resuscitation 34: 101-108, 1997


FOREIGN BODY AIRWAY OBSTRUCTION ACCOUNTS FOR ~2700 ANNUAL DEATHS IN JAPAN

(Abstract for Resuscitation 2000, 5th Scientific Congress of the European Resuscitation Council, June 1-3, 2000, Antwerp, Belgium)

Takeda Yutaka1), EMT-P, Ochi G.2), Hatanaka T.3), Shirakawa Y.2)

1)Izumo City Fire Department, 2) Dept. of Emergency Medicine, Ehime University School of Medicine, 3)Emergency Life-Saving Technique Academy

Suffocation accounts for about 7000 deaths annually in Japan. Although fatal suffocation is believed mostly to be food-related, definitive data have never been available. Further, the lack of a consistent educational program in Japan for choking accidents appears to have caused confusion among lay people. The purpose of this study is to report on the demographic and clinical backgrounds of fatal choking due to foreign body airway obstruction (FBAO). In a total of 96 fire departments covering 11,874,648 populations, transportation records were reviewed of the food choking victims during the year 1998. Efforts to relieve FBAO taken by lay people, type of foreign body which patients choked on, and clinical information obtained from medical professions were evaluated in terms of their effects on mortality and morbidity. Out of 810 cases of FBAO, a "mochi" or rice paste was responsible for 18.3% of the cases, steamed rice for 10.7%, and meat for 4.8% of the cases. The overall mortality was 31.6% which translated into ~2700 annual deaths among the national population of ~126,000,000 (2.2 deaths / 100,000 / year). Back blows were tried in 36.8% of the cases, finger sweeps in 10.0%, and the Heimlich maneuvers in 1.5% of the cases, with no statistically significant differences in the success rates (64.0%, 76.5% and 42.9%, respectively). A multiple logistic regression analysis revealed 4 independent variables that affected the survivability in a statistically significant manner. The odds ratios of those variables were; sex (male):0.65( CI:0.49-0.87), age:0.974(CI:0.967-0.981), the type of foreign body (rice paste):0.56(CI:0.39-0.79), and the presence of any FBAO relieving efforts by lay people:3.0 (CI:2.2-4.0). Our data suggest that the presence of FBAO relieving efforts by lay people is the most significant variable that affects the survivability of the choking victims, and that an educational program for choking.


日本では異物による気道閉塞により年間2700人が死亡する。

欧州蘇生会議 第5回学術集会・抄録、2000年6月、アントワープ)

竹田 豊、越智元郎*、畑中哲生**、白川 洋一*

出雲市外4町広域消防組合、愛媛大学医学部救急医学*、救急救命九州研修所**

 日本では年間7000人が窒息で死亡する。窒息の主たる原因は食物に関する物だと考え られているが、その詳細は依然不明である。さらに、日本では窒息事故に対する処置 の教育が一貫しておらず、一般市民の間に混乱を来たしている。この研究の目的は気 道異物による窒息事故に関する社会統計と臨床的背景を明らかにすることである。人 口11,874,648人を管轄する96消防本部において、1998年の気道異物事故の搬送記録を 調査した。一般市民によって行われた異物除去努力、異物のタイプと医療従事者から 得られた臨床的情報について、死亡率と合併症発生率との関係を調査した。810件の 異物事故の原因は、餅18.3%、ご飯10.7%、肉4.8%であった。全体の死亡率は31.3%で 、これは日本全体(人口126,000,000人)では2700人の死亡に相当する(2.2 死亡 / 100,000 /年)。背部叩打を行ったのは36.8%、指拭法は10.0%、ハイムリック法は1.5% で、それらの成功率(それぞれ、64.0%, 76.5% and42.9%)には統計学的有意差はなかっ た。ロジスティックモデルを用いた多変量解析の結果、生存率に有意な影響を与える4 つの要因が明らかになった。これらの要因とそのオッズ比は、性別(男):0.65( CI:0.49-0.87), 年齢:0.974(CI:0.967-0.981),異物のタイプ (餅):0.56(CI:0.39-0.79), 市民による異物除去努力の有無:3.0(CI:2.2-4.0)であった。この結果は、一般市民による気道異物除去努力が、患者の生存率にもっとも大きな影響を及ぼすこと、今後も気道異物事故に対する市民教育を推奨する必要性が大きいことを示唆している。


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