災害拠点病院は何を根拠に備蓄量を決めればよいか

県立広島病院救命救急センター 金子高太郎、石原 晋

(第5回日本集団災害医学会、2000年2月)


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口演原稿

 1)「阪神・淡路大震災を契機とした災害医療のあり方」により、災害拠点病院にお いては、多数の重篤患者の救命医療を行うための高度の診療機能の維持、自己完結型 医療チームの派遣機能、地域の医療機関への応急用医療資器材の貸し出し機能などが 要求されており、備蓄が必要である。

 2)自己完結型の医療救護チームのための備蓄物品として、仮設テント、発電器、移 動式トイレ、飲料水などは具体的に列挙してあるが、救急医療資機材、応急用医薬品 などは完璧な必要量を想定することは不可能である。

 当院では、医療救護チーム3班が3日間自活できるだけの食料、生活用品等の装備 を行っている。更に医療活動に伴う消耗品に対しては、兵站・補給手段を情報伝達を 介して賄うことにより活動を維持する必要がある。

 3)多数の被災者に対する診療機能を維持するためには、患者用の簡易ベッドなどを 備蓄し、保管する場所が必要である。

 これらの患者に対する備蓄の内容や手段は、傷病別、またはゾーン別に検討する必 要がある。多種多様な災害の医療要請に全て応えられるような膨大な備蓄量を、病院 経営を圧迫しないよう死蔵せず、また職員に負担を与えずに回転させることは困難で ある。

 内科系の疾患では、災害時必要な薬剤の多くは慢性疾患の治療薬であり、NBC ハザ ードなどの特殊災害の場合、都市機能は破綻していないので外部から供給が得られ る。これに対して激甚災害の急性期に問題視される外科系の傷病に対して、ゾーン 1、2の地域では、広域患者搬送の手段と不足品に対する兵站・補給のシステムを早 期、2日以内に立ち挙げる必要がある。

 問題は、それらが立ち上がる発災後24から48時間までの、初療のための備蓄であ る。では何をどれだけ備蓄すれば良いのだろうか。明確な基準がない。

 4)県立広島病院では、備蓄量についての基本的算定根拠は、その物品の使用期限の 有無、ランニングストックの可否つまり平時の診療に使用できるか否か、および国庫 補助額とした。結果、平時の診療において稼働させながら、期限切れがでない最大量を求めた。

 5)具体的には、ポスターを参照されたいが、医療器具や医薬品などの滅菌期限や使 用期限があるものは、対象疾患を主に外傷に重点をおいてディスポ製品をもって整備 した。これにより平時の救命救急医療で稼働させながら、50名程度の災害時外傷初療 が可能となった。

 どのような大規模な毒物中毒事件であったとしても、病院設備や都市機能が破壊さ れている事態は想定しにくい。従って、備蓄量は1日分とし、地域で分散してストッ クした。

 6)結語

 1. 災害拠点病院の備蓄量を、ランニングストックを原則とし「平時の診療において 稼働させながら、期限切れがでない最大量」で算定した。

 2. この最小限度の備蓄で最大の患者に対応するためには、地域内での機能別備蓄の 推進や早期の圏外からの補給と広域患者搬送の立ち上げが重要であると考えられた。