(地震防災対策強化地域の指定等)
第3条 内閣総理大臣は,大規模な地震が発生するおそれが特に大きいと認められる地殻内において大規模な地震が発生した場合に著しい地震災害が生ずるおそれがあるため,地震防災に関する対策を強化する必要がある地域を地震防災対策強化地域(以下「強化地域」という。)として指定するものとする。
4 内閣総理大臣は,第1項の規定による強化地域の指定をしたときは,その旨を公示しなければならない。
<政令・告示>
大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)第3条第1項の規定に基づき地震防災対策強化地域を次のとおり指定したので,同条第4項の規定により公示する。
東海地震に係る地震防災対策強化地域
県名 神奈川県
県名 山梨県
県名 長野県
県名 岐阜県
県名 静岡県
県名 愛知県
備考 この表に掲げる区域は,昭和54年8月7日における行政区画その他の区域によって表示されたものとする。
2 前項の規定により国が行う補助の割合は,次の各号に掲げる病院の区分に応じ,それぞれ当該各号に定める割合とする。
第88条 第81条から前条までの規定は,平成7年1月17日から適用する。
内閣総理大臣 村山富市
政令第40号内閣は,阪神,淡路大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律(平成7年法律第16号)第2条第1項の規定に基づき,この政令を制定する。
阪神・淡路大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律第2条第1項の政令で定める市町村は,豊中市,神戸市,尼崎市,明石市,西宮市,芦屋市,伊丹市,宝塚市及び川西市並びに兵庫県津名郡津名町,淡路町,北淡町,一宮町,五色町及ぴ東浦町並びに三原郡緑町とする。
附則
この政令は,公布の日から施行する。
内閣総理大臣 村山富市
大蔵大臣 武村正義
文部大臣 与謝野馨
厚生大臣 井出正一
農林水産大臣 大河原太一郎
通商産業大臣 橋本龍太郎
運輪大臣 亀井静香
建設大臣 野坂浩賢
自治大臣 野中広務
御名御璽
平成7年3月1日
内閣総理大臣 村山富市
政令第42号内閣は,阪神・淡路大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律(平成7年法律第16号)第18条第1項及び第2項第2号,第21条,第22条,第23条第2項並びに第54条第3項並びに厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第129条第3項の規定に基づき,この政令を制定する。
(政令で定める病院及びその施設)
第1条 阪神・淡路大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律(以下「法」という。)第18条第2項第2号の政令で定める病院は,次の表の上欄に掲げるとおりとし,同条第1項の政令で定める施設は,同表の上欄に掲げる病院ごとに,それぞれ同表の下欄に掲げるとおりとする。
病院
施設=当該病院の有する施設
病院
施設=当該病院の有する施設のうち,救急医療を行うために必要なもの
病院
施設=当該病院の有する施設のうち,精神障害の医療を行うために必要なもの
第3条 地震防災緊急事業5箇年計画は,次に掲げる施設等の整備等であって,主務大臣の定める基準に適合するものに関する事項について定めるものとする。
第6条 国は,この法律に特別の定めのあるもののほか,地震防災対策の強化のため必要な財政上及び金融土の配慮をするものとする。
事業の区分 | |
へき地における公立の診療所であって政令で定めるものの改築 国の負担割合 | 2分の1 |
平成7年7月14日
地震防災対策特別措置法施行令第1条地震防災対策特別措置法(以下「法」という。)第3条第l項第7号の政令で定める医療機関は,国及ぴ地方公共団体の救急医療の確保に関する施策に協力して,休日診療若しくは 夜間診療を行っている病院又は救急医療に係る高度の医療を提供している病院(これらの病院のうち,国,労働福祉事業団及び医療法(昭和23年法律第205号)第7条の2第1項各号に掲げる者の開設するものを除く。)とする。
地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号。以下「法」という)第3条第l項及び第4条第1項の規定に基づき,同法第2条第1項の地震防災緊急事業5箇年計画に定める施設等の整備等及び国の補助の特例の対象となる地震防災緊急事業に係る主務大臣の定める基準を次のように定める。
平成8年3月19日
厚生大臣 管直人
第1 法第3条第l項の地震防災緊急事業5箇年計画に定める施設等の整備等に係る主務大臣の定める基準は次のとおりとする。1 法第3条第1項第7号の医療機関のうち,構造耐力,保存度及び外力条件にかんがみ,大規模な地震の発生により倒壊その他の事故による被害を受けるおそれがある施設及び設備の改築又は補強であること。
地震防災対策特別措置法施行令(平成7年政令第295号)第2条第2項の規定に基づき,厚生大臣が定める公立の診療所を次のように定める。
平成8年3月19日
厚生大臣 管 直人
次に掲げる要件を満たす診療所1 当該診療所からの距離が4キロメートル以内の区域に他の医療機関が存しないこと。
2 市町村の区域内の町又は字であって,前号に規定する区域内にその全部の区域が含まれるものの人口(当該診療所に係る地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)第4条第1項の事業の実施年度の前年度の3月31日において住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)に基づき住民基本台帳に記録されている住民の数をいう。)の合計が干人以上であること。
3 当該診療所から最寄りの医療機関に通常の経路及び方法により30分以内に到達することができないこと。
第1条 この法律は,地震による建築物の倒壊等の被害から国民の生命,身体及び財産を保護するため,建築物の耐震改修の促進のための措置を講ずることにより建築物の地震に対する安全性の向上を図り,もって公共の福祉の確保に資することを目的とする。
第2条 学校,体育館,病院,劇場,観覧場,集会場,展示場,百貨店,事務所その他多数の者が利用する建築物で政令で定めるものであって政令で定める規模以上のもののうち,地震に対する安全性に係る建築基準法(昭和25年法律第201号)又はこれに基づく命令若しくは条例の規定(第5条において「耐震関係規定」という。)に適合しない建築物で同法第3条第2項の規定の適用を受けているもの(以下この章において「特定建築物」という。)の所有者は,当該特定建築物について耐震診断(地震に対する安全性を評価することをいう。以下同じ。)を行い,必要に応じ,当該特定建築物について耐震改修(地震に対する安全性の向上を目的とした増築,改築,修繕又は模様替をいう。以下同じ。)を行うよう努めなければならない。
(耐震診断及び耐震改修の指針)
第3条 建設大臣は,特定建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るため,特定建築物の耐震診断及び耐震改修に関する指針を定め,これを公表するものとする。
(指導及び助言並びに指示等)
第4条 所管行政庁(建築主事を置く市町村又は特別区の区域については当該市町村又は特別区の長をいい,その他の市町村又は特別区の区域については都道府県知事をいう。ただし,建築基準法第97条の2第1項又は第97条の3第1項の規定により建築主事を置く市町村又は特別区の区域内の政令で定める建築物については,都道府県知事とする。以下同じ。)は,特定建築物の耐震診断及び耐震改修の適確な実施を確保するため必要があると認めるときは,特定建築物の所有者に対し,前条の指針を勘案して,特定建築物の耐震診断及び耐震改修について必要な指導及び助言をすることができる。
第5条 建築物の耐震改修をしようとする者は,建設省令で定めるところにより,建築物の耐震改修の計画を作成し,所管行政庁の認定を申請することができる。
3 所管行政庁は,第1項の申請があった場合において,建築物の耐震改修の計画が次に掲げる基準に適合すると認めるとき は,その旨の認定(以下この章において「計画の認定」という。)をすることができる。
4 第1項の申請に係る建築物が耐震関係規定に適合せず,かつ,建築基準法第3条第2項の規定の適用を受けている耐火建築物(同法第2条第9号の2に規定する耐火建築物をいう。)である場合において,当該建築物について壁を設け,又は柱若しくははりの模様替をすることにより当該建築物が同法第27条第1項,第61条又は第62条第1項の規定に適合しないこととなるものであるときは,第1号及び第2号に掲げる基準のほか,次に掲げる基準に適合していること。
4 第1項の申請に係る建築物の耐震改修の計画が建築基準法第6条第1項の規定による確認又は同法第18条第2項の規定による通知を要するものである場合において,計画の認定をしようとするときは,所管行政庁は,あらかじめ,建築主事の同意を得なければならない。
7 所管行政庁が計画の認定をしたときは,計画の認定に係る第3項第4号の建築物については,建築基準法第27条第1項,第61条又は第62条第1項の規定は,適用しない。
(計画の変更)
第6条 計画の認定を受けた者(以下この章において「認定事業者」という。)は,当該計画の認定を受けた計画の変更(建設省令で定める軽微な変更を除く。)をしようとするときは,所管行政庁の認定を受けなければならない。
(報告の徴収)
第7条 所管行政庁は,認定事業者に対し,計画の認定を受けた計画(前条第1項の規定による変更の認定があったときは,その変更後のもの。次条において同じ。)に係る建築物(以下・この章において「認定建築物」という。)の耐震改修の状況について報告を求めることができる。
(改善命令)
第8条 所管行政庁は,認定事業者が計画の認定を受けた計画に従って認定建築物の耐震改修を行っていないと認めるときは,当該認定事業者に対し,相当の期限を定めて,その改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
(計画の認定の取消し)
第9条 所管行政庁は,認定事業者が前条の規定による処分に違反したときは,計画の認定を取り消すことができる。
(住宅金融公庫の資金の貸付けの特例)
第10条 住宅金融公庫が,認定建築物である住宅の耐震改修をしようとする認定事業者に対し,住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)第20条第4項の規定による限度において同法第17条第5項の規定により資金を貸し付ける場合における当該貸付金の同法第21条第1項の表1の項に規定する当初期間の利率は,同表5の項の規定にかかわらず,年5.5パーセント以内で政令で定める率とする。
第11条 国及び地方公共団体は,建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るため,資金の融通又はあっせん,資料の提供その他の措置を講ずるよう努めるものとする。
(研究開発の促進のための措置)
第12条 国は,建築物の耐震診断及び耐震改修の促進に資する枝術に関する研究開発を促進するため,当該技術に関する情報の収集及び提供その他必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(国民の理解を深める等のための措置) 第13条 国及び地方公共団体は,教育活動,広報活動等を通じて,建築物の耐震診断及び耐震改修の促進に関する国民の理解を深めるとともに,その実施に関する国民の協力を求めるよう努めるものとする。
第15条 第7条の規定による報告をせず,又は虚偽の報告をした者は,20万円以下の罰金に処する。
第16条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業務に関し,前弍条の違反行為をしたときは,行為者を罰するほか,その法人又は人に対しても各本条の刑を科する。
1 この法律は,公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(建設省設置法の1部改正)
2 建設省設置法(昭和23年法律第113号)の一部を次のように改正する。
建設大臣 森 喜朗
内閣総理大臣 村山 富市
建築物の耐震改修の促進に関する法律の施行期日を定める政令をここに公布する。
御名 御璽
平成7年12月22日
内閣総理大臣 村山富市
政令第428号内閣は,建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成7年法律第123号)附則第1項の規定に基づき,この政令を制定する。
建築物の耐震改修の促進に関する法律の施行期日は,平成7年12月25日とする。
建設大臣 森喜朗
内閣総理大臣 村山富市
建築物の耐震改修の促進に関する法律施行令をここに公布する。
御名 御璽
平成7年12月22日
内閣総理大臣 村山富市
政令第429号建築物の耐震改修の促進に関する法律施行令
内閣は,建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成7年法律第123号)第2条,第4条第1項から第3項まで及び第l0条の規定に基づき,この政令を制定する。
(特定建築物の要件)
第l条 建築物の耐震改修の促進に関する法律(以下「法」という。)第2条の政令で定める建築物は,次に掲げるものとする。
2法第2条の政令で定める規模は,階数が3で,かつ,床面積の合計が干平方メートルとする。
(都道府県知事が所管行政庁となる建築物)
第2条 法第4条第1項の政令で定める建築物のうち建築基準法(昭和25年法律第201号)第97条の2第1項の規定により建築主事を置く市町村の区域内のものは,同法第6条第1項第4号に掲げる建築物(その新築,改築,増築,移転又は用途の変更に関して,法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定により都道府県知事の許可を必要とするものを除く。)以外の建築物とする。
2 法第4条第1項の政令で定める建築物のうち建築基準法第97条の3第1項の規定により建築主事を置く特別区の区域内のものは,次に掲げる建築物(第4号から第6号までに掲げる建築物にあっては,地方自治法(昭和22年法律第67号)第281条の3第3項の規定により都知事が第4号から第6号までに規定する処分に関する事務を特別区の長に委任した場合における当該建築物を除く。)とする。
6 都市計画法第12条の4第1項第3号に掲げる再開発地区計画の区域(都市再開発法(昭和44年法律第38号)第7条の8の2第2項第3号に規定する再開発地区整備計画が定められている区域に限る。)内の建築物で次のイからハまでに掲げるもの
(所管行政庁による指示の対象となる特定建築物の要件)
第3条 法第4条第2項の政令で定める特定建築物は,次に掲げるものとする。
2 法第4条第2項の政令で定める規模は,床面積の合計2000平方メートルとする。
(報告及び立入検査) 第4条 所管行政庁は,法第4条第3項の規定により,前条第1項の特定建築物で同条第2項に規定する規模以上のものの所有者に対し,当該特定建築物につき,当該特定建築物の設計及び施行に係る事項のうち地震に対する安全性に係るもの並びに当該特定建築物の耐震診断及び耐震改修の状況に関し報告させることができる。
2 所管行政庁は,法第4条第3項の規定により,その職員に,前条第1項の特定建築物で同条第2項に規定する規模以上のもの,当該特定建築物の敷地又は当該特定建築物の工事現場に立ち入り,当一特定建築物並びに当該特定建築物の敷地,建築設備,建築材料及び設計図書その他の関係書類を検査させることができる。
(認定建築物に係る住宅金融公庫の貸付金の利率)
第5条 法第10条の政令で定める率は,年3.1パーセントとする。
1 この政令は,法の施行の日(平成7年12月25日)から施行する。
(建設省組織令の一部改正)
2 建設省組織令(昭和27年政令第394号)の一部を次のように改正する。
8 建築物の耐震改修の促進に関する法律の施行に関すること。
建設大臣 森 喜朗
内閣総理大臣 村山富市
以上のようになる。
世界最大の地震災害は1976年の中国唐山地震M7.8で,死者24万人,負傷者17万人を出し,日本では1923年の関東大震災M7.9で14万人が死亡している。昔と比較して建物の材質,耐震構造,建築基準などが変わったので,同じ規模,震度の地震であっても死者の数は明らかに減少している。しかし負傷者の数は死者の数ほど減少していない。軽症という部類のその数はまだまだ多いように思われる。これは屋内での受傷例がほとんどで,本棚,食器棚,電気製品,装飾品などの落下,転倒によるものであるが,昔と比べて家具類が多くなったためと思われる。
人的被害は人口密度によって大きく変わるが,同じ震度5であっても大都市周辺では必ず負傷者が出るのに比べて,公園や空き地が多く,家々が密集していない地域では同じ震度5であっても負傷者が出ない場合もある。都市型地震災害では直接的な家屋の倒壊がなくとも,これに付属している家具,ガラス窓,看板,塀などが落下,倒壊して大きな人的被害を引き起こす。各地で起こった地震災害の疾病の特徴は,次のようである。
(1) 宮城県沖地震(表1)
(2) 日本海中部,北海道南西沖地震(表2)(表3)
(3) 釧路沖,三陸はるか沖地震(表4)(表5)
(4) 兵庫県南部地震(表6)
2) 捻挫
3) 挫滅創
4) 切創
5) 骨折
6) 挫滅症候群(Crush syndrome)
7)Compartment syndrome
地震災害時の外傷はその90%が外科および整形外科的疾患である。したがって外傷の処置にはたくさんの医薬品と衛生材料を使うことになる。治療にあたっては一つ「流れ」を作るようにすればよい。そのためにはまずトリアージをしっかりとやること,次に医療チームを結成し役割分担を決めること,経験の豊かな外科系医師がメディカルコーディネーターとなって指揮をとること,そして医薬品や医療器材の補給と管理ができる人がいることである。これまでの調査によれば災害医療を最も阻害したものは「水不足」であり,最も消費したのはガーゼ,包帯の「衛生材料」である。局所麻酔薬,創洗浄のための生理的食塩水,消毒薬,縫合セット,点滴,ギプス,抗生物質,鎮痛薬,破傷風トキソイドなども不足になる。
外傷のガイドラインを考える時,治療に伴う医薬品や衛生材料なども念頭に入れて考えていかなければならない。
第二次世界大戦中,ロンドンはドイツ軍の空爆を受け多くの市民が建物の下敷となった。数時間後に瓦礫より救出された負傷者は,病院収容後,一見軽微な四肢外傷以外に外出血や内出血がないにもかかわらず,挫滅肢の浮腫・低血圧の出現に伴い数時問後に突然に全身状態が悪化していった。急速輸液に反応し全身症状は改善したが,急速に無尿となり数日後には死亡した。1941年にBywatersらl)が,これらの症例をまとめて発表したのが挫滅症候群(Crush syndrome)のはじまりである。その後の研究で,初期の低血圧は挫滅筋に伴う浮腫形成による循環血漿量の低下が原因,無尿はこの低血圧と挫滅筋より溶出されるミオグロビンによる腎尿細管障害に基づく急性腎不全が原因であることがわかった。しかし,挫滅症候群の動物実験モデルが作成できないことと,災害時には医療機関が混乱しており十分な医学データが集積できないことが多く,病態生理は十分に解明されていない。また,治療法,特に筋膜切開を行うか否かは施設により異論のあるところである。
長時間にわたり建物の倒壊物などによる圧迫が,四肢・臀部などの筋容量が多い筋に加わることにより,圧による直接の筋挫滅損傷・筋内の静脈潅流障害・血流障害のため筋虚血を起こす。同時に直接加わった圧力あるいは血流障害のため精神虚血障害を起こす(挫滅外傷)。上腕・前腕の筋群は,それぞれ3区画・2区画,大腿・下腿の筋群はそれぞれ2区画・4区画のコンパートメントで包まれているので,上記の障害のため浮腫を形成し,コンパートメント内圧は上昇し,さらに潅流障害が加わる悪循環を形成する(コンパートメント症候群)。虚血あるいは挫滅による壊死筋細胞には,水分・塩化ナトリウム・カルシウムが取り込まれ,循環血漿量の低下からショックヘ,さらに腎前性腎不全へと移行する。低カルシウム血症は,高カリウム血症の催不整脈性を高める。また細胞内の高カルシウム濃度は,細胞毒性のプロテアーゼを活性化さす。壊死筋細胞より血中に溶出するカリウムは催不整脈性を,プリンは腎毒性を,ミオグロビンは酸性尿あるいは乏尿のもとで腎毒性を示す。乳酸は代謝性アシドーシスを,トロンボプラスチンはDICを惹起する。このように,全身症状を呈する挫滅外傷を挫滅症候群という。上記の病態は救出により四肢の圧迫が解除されると急速に進行する。動物実験(ラット)では,最短2時間の圧挫後に,ショック・アシドーシス,高カリウム血症のために急性死が起こりうることが確かめられている10)(Crush release death syndrome)。
救出後しばらく経過すると,患肢の弛緩性麻痺・感覚障害,特に痛覚消失・触覚消失が出現する。患肢の浮腫は,救出直後はないが,時間とともに進行し著明な浮腫を形成する。その間,末梢動脈は触知可能であり,触知不能な時は血管損傷など他の原因を捜す必要がある。輪液を十分にしなければ,容易に低血圧・ショック・腎不全へと移行,乏尿・無尿となる。
尿は,ミオグロビン尿を示す。色調は,尿のpHによるが,ピンク色から黒褐色を呈す。尿検査試験紙では,ミオグロビン尿は潜血反応が陽性を示し,色調も類似しているので間違えないようにする必要がある。特に,腰部圧迫のため骨盤骨折が合併している症例では注意が必要である。
2)筋膜切開
一方,筋膜切開を行えば,皮下組織・筋組織からの出血の制御が非常に困難であること,創感染より敗血症に移行し,逆に死亡率が上がるなどの理由により,筋膜切開は適応はないとする考えもある14)。 筋膜切開の是非を決めるには,筋膜切開施行群と非施行群の予後比較データや長期の機能予後のデータの集積が望まれる。
開放性損傷を伴う挫滅症候群に対しては,筋膜切開と創洗浄・汚染筋や壊死筋の徹底したdebridementが,絶対適応である。
3)四肢切断 壊死筋の徹底したdebridementにもかかわらず,敗血症が制御できないとき,血液浄化法(HD,CHDH)を行っても,代謝性アシドーシスや高カリウム血症が制御できないときは,救命のために四肢切断の適応がある。
不幸にも,阪神・淡路大震災では多くの挫滅症候群の負傷者が生じたが,これを機会に施設間の予後比較のための重症度判定基準や長期の機能予後をも考慮した統一された治療法の確立が望まれる。
2) Zei Yong,S.;Medical support in in the Tangshan earthquake.A review of the management of mass casualities and certain major injury. J Trauma. 10:1130,1987.
12)Jone.R.N.:Crush syndrome in a Cornish tin mine.In‐jury 15:282,1984.
14)Michaelson,M.:Crush injury and crush syndrome.World J.Surg. 16:899,1992.
災害時に起こる感染予防は大きく3点に分けることができると考える。
2)抗生剤の創感染予防に対する効果は様々の議論があるが, 受傷後2時問内(Golden time,第1次大戦当時は12時間とされていたが徐々に短くなっ てきた)に静脈内広範囲スペクトル抗生剤投与を行うことがよいとされている。十分 な抗生剤があれば,抗生剤人りの生食水による洗浄,抗生剤の局注なども考えられる が,効果に関してははっきりしない。
3)破傷風に対する予防。発症すれば致命的病 態となりうるので,予防処置を講ずる必要がある。10年以内に破傷風トキソイド接種 を受け,完全免疫となっている例には追加免疫としてトキソイド接種を,それ以外の 例にはトキソイドと破傷風免疫グロブリンの投与を行う。
2)次いで壊死組織や,壊死となりそうな組織を鋭的に切除するdebridementを行う。この 操作に関してはかなり経験が必要であるが,鋭的に切除したときの組織からの出血を 目安にするとよい。
3)dejbridementが終了した段階で,滅菌生食水で繰り返し創内 を清浄化する。
5) 駆血帯の使用は他の止血法が可能になるまでの短時間以外には使用してはならない。
6) 止血あるいは縫合に使用する糸は吸収糸あるいはモノフィラメントの合成糸を使用す べきである。
7)骨折等がある場合,その固走等のための異物はできるだけ使用しな いこと。
8)創の閉鎖は原則として行わず創縁の消毒後に滅菌ガーゼを当て,包帯固定 を行う。
9)創の経過を毎日観察し4-5日後に感染の傾向がなければ2次的に創を閉鎖 するのがよい。
10)感染創とならない自信がある小さな創に関しては1次的に創を閉 じてよいが初期の医療不足等を考えると,絆創膏固定,ステープラー等の使用を考えてよい。
2) 杉本毒,田端孝:創処置の基本.救急医学13(10):1989
3) 星秀逸:四肢外傷とその対応.救急医学1310:1525-1532,1989.
4) 藤井干穂:救急医療システム:感染防御.綜合臨休42:1289-1293,1989.
5) Burkle.F.M.Jr.,Sanner,P.H.,WolcottB.W.:大災 害と救急医療,青野允等訳,情報開発研究所.Gustilo,R.B.and Anderson,J.T.:Prevention of infection in treatment of one thousand and twenty five open fractures of long bones.J.Bone Joint Surg‐58-A:453-458,1976.