発言3、発言2へのコメント

(9/03/96、救急医療メーリングリストeml 1596、谷川攻一)


杉本さんのメール(発言2)について

 災害訓練は手段であって、目的ではありません。この間も書かせていただきましたが 災害訓練は大規模な総合訓練だけではありません。机上訓練、縮小模型を使用した訓 練、救急出動や救急外来で診る患者を災害時のように重傷度分類するトリアージの日 の設定などなど、過去の災害事例を参考に、いろいろと工夫して訓練が出来るように 思います。鵜飼先生もおっしゃるように、要は、災害医療に対する真摯な姿勢が重要 ではないかと思います。Dr. Safar の提案する抜き打ち的災害訓練が出来れば、すば らしいことだと思いますが、それは究極の答えではないと思います。つまり、全米病 院協会の災害訓練も抜き打ち的災害訓練も、いずれの訓練も過去の実際の災害の経験 をもとに組み立てられざるを得ず、従っていずれにせよ恣意的にならざるを得ません 。もちろん、災害対策における問題点をより鮮明にするのは抜き打ち的災害訓練であ ることは間違えありません。ただ、それでもなお、災害は予想できない形で襲ってき ます。1000通りの災害対策訓練をしても、その通りに災害はやってこないでしょ う。また、せっかくそのような訓練をしても、訓練後そこで生じた問題点を解決しよ うとする方向にことが進まないことも十分あり得ます。Dr. Safar のフラストレーシ ョンは鵜飼先生が論壇で述べられているのと同じように、既存の災害訓練のマンネリ ズムに対するそれではないかと思います。

 それでは、どんな災害訓練をしても無駄か、というとそうではないと信じます。災害 にはパターンがあり、それぞれにおいて共通する因子が存在し、それらが規模を変え 、組み合わせをかえて、時間的、空間的な自由度を持って発生してきます。従って、 どの因子に焦点を絞って訓練を行うのか、という目的意識が重要になるのではないか と思います。ある時は医療面に、ある時は情報面や救助面に、またある時は搬送面に というようにです。災害発生時にはこうした経験をいかに個々の状況に合わせて系統 立てて且つ柔軟に応用して行くのかがキーポイント、と私は理解しています。中華航 空機事故の経験では災害マニュアルは役に立たなかったが訓練は役に立ったといわれ ています(事例から学ぶ災害医療、p120,南江堂)。勝手な解釈ですが、これは 訓練の中で提起された様々な問題点へ対処しようとする姿勢が現場で臨機応変な対応 となって現れてのではないかと考えています。

救急救命九州研修所 谷川攻一(eml 1596、9/03/96)


発言4、鵜飼論文へのコメント

(9/03/96、救急医療メーリングリストeml 1601、小村隆史)


 小村@防衛研究所です。

 以下述べる意見は、著者個人のものであり、防衛庁・自衛隊、防衛研究所等の意見を代表するものではありません。また、他に引用する場合には、必ず著者の許可が必要です。(連絡先 komura@nids.go.jp

 私も、鵜飼先生の論壇投稿論文やその後の皆さんの意見を読ませてい だだき、コメントさせていただく次第です。

 まず、鵜飼先生のおっしゃる通り、防災訓練で最も重要なのは、災害 に対して真摯に取り組む姿勢だということに、私も全く同感であること を最初に述べておきたいと思います。併せて私は、どのような訓練であ れ、やらないよりかはやったほうがいいと思っていることも、表明して おきたいと思います。
 総じて防災訓練がマンネリ化しつつある、これは皆さんのご指摘の通 りであると思います。では、マンネリを打破するためにはどうすればよ いのか、いくつか考えるべき点があると思います。

 まず、防災訓練の目的の明確化が必要だと思います。防災計画立案に あたっての問題点の把握、防災計画の実効性の検証、災害時の役割の自 覚、関係機関の人間との顔合わせや能力・特性についての相互理解など、 防災訓練の目的といっても、様々なものがあります。
 ついで、防災訓練の形式の明確化が必要だと思います。実際に人や物 を動かす実働訓練か(それも実体験中心か、誰かが対応の見学が中心か)、 地図や見取り図を用いた図上演習か、大別するとこのどちらかですが、 当然バリエーションもあるでしょう。参加規模や訓練の長さも大きな問 題です。たたき台を作るための少人数でのブレストか、なるべく多くの 人に経験してもらうことを主眼とする大規模なものか、電話連絡網のチ ェックのためだけの十数分で終わるものか、3日とか5日の連続したシ ナリオの中で行うものか、考えておく必要があるでしょう。

 明確にすべき点はまだまだあります。
 想定されている災害は何でしょうか。またその規模は?被害の推移と 関係機関の動きを把握した災害全般の推移のシナリオはありますか。
 事前に研究会は開きましたか?訓練中、記録をとる人、対応の可否を 検証する役割の人はいますか。そして反省会は行いましたか。
 そもそもどのくらい訓練に労力を投入するつもりですか?10人のメ ンバーを半年間、兼務でよいから張り付けることまで考えましたか?
 そういった、個々具体的な問題点を一つ一つ片づけていかないと、本 当に成果の出る訓練は出来ないと思います。

 こう書くと、今の防災訓練は問題点だらけでうんざりするように思わ れるかもしれません。しかし、防災はそんな、眉間にしわを寄せながら 考えるものとは違うと思っています。
 例えば、病院の見取り図と周辺の2万5千分の一の地図を前に、ビー ルを飲みながら、警察署はここ、消防署はここ、駅はここ、学校はここ、 井戸はここ、近くの病院はここ、近くの広場はこことここ、人が集まり そうなのはここ、病院に人が来るとしたらこの道、この市の人口が○○ 人だから△△人くらいは負傷者が出るかも、といった、雑談ベースでの 情報確認だけでも、立派な防災訓練であると思います。
 私個人は、防災仲間とのいわゆるノミニケーションを意識して図るよ うにしています。このようなアルコール付きブレストも、一見そうとは 見えないかもしれませんが(事実そうでない場合もままあるのですが)、 防災訓練の一つではないでしょうか。

 災害対策は、関係機関が膨大な数に登るため、その全体像がなかなか つかめみにくいという特性があります。また、被災現場のナマの声でも 肝心なものほど伝わりにくいようにも思います。例えば、発災当初行政 が一番困ったことはコピー機が使えなかったことであるとか、自衛隊の 無線機が市街地で使えず、関係機関との調整に一番役立ったのは隊員の 私物の携帯電話だったとか。
 今後は、トップダウンの災害対策ではなく、「情報の共有化・権限の 分散化」(厚生省山本氏)に基づく災害対策へと、シフトさせていかな くてはならないと思います。個人としても、公人としても、可能な限り の情報提供をしていきたいと思います。例えば、自衛隊の指揮所演習の ための訓練ノウハウは大変優れたものと思っていますし、指揮所の作り 方、状況表示や地図の使い方といったノウハウも、もっと積極的にPR し、関係する方々と共有すべき性格のものと思います。そしてそのこと が、防災訓練をより実践的なものにするうえで、大きく役立つものと私 は考えております。

小村 隆史(9/03/96、eml 1601)


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