(消防庁救急救助課長 通知)

救急業務の高度化の推進について


消防救第 204 号
平成13年7月4日

都道府県消防主管部長 殿

消防庁救急救助課長__

救急業務の高度化の推進について(通知)

 標記については、円滑な救急業務を遂行する上で極めて重要な事項であることか ら、これまでにも「
救急隊員の行う応急処置等の基準の一部改正について」(平成3 年8月5日付け消防救第78号)、「救急救命士の資格を有する救急隊員による救急 業務の開始について」(平成4年5月19日付け消防救第66号)、「消防機関と救 急医療機関との連携強化について」(平成9年8月4日付け消防救第178号)等に より推進しているところでありますが、この度、「救急業務高度化推進委員会報告 書」(平成13年3月)において、救急救命士に対する指示体制及び救急隊員に対す る指導・助言体制の充実、救急活動の医学的観点からの事後検証体制の充実、救急救 命士の研修の充実等のいわゆるメディカルコントロール体制の構築の重要性が指摘さ れるとともに、その具体的な方策を進めるために、消防機関と救急医療機関との更な る連携の強化や都道府県の調整機能としての役割の重要性が指摘されたところであり ます。

 ついては、本報告書の内容を十分に参考の上、特に下記事項に留意して、いわゆる メディカルコントロール体制の構築を積極的に進め、救急隊員の資質を向上し、地域 における救命効果の更なる向上を図るよう格段の配慮をお願いします。また、貴都道 府県内市町村(消防の事務を処理する組合を含む。)に対しこの旨周知されるととも に、よろしくご指導願います。

 なお、本件については、厚生労働省とも協議済みでありますので、貴都道府県衛生 主管部局、地域の医師会等とも十分協議され、救急業務の更なる高度化に努められる ようお願いします。また、別添のとおり、「病院前救護体制の確立について」(平成 13年7月4日付け医政指発第30号厚生労働省医政局指導課長通知)が都道府県衛 生主管部局長あて発出されていることを申し添えます。



 目 次

1 消防機関と救急医療機関との更なる連携の強化

(1)都道府県単位の協議会
(2)メディカルコントロール協議会

2 救急救命士に対する指示体制及び救急隊員に対する指導・助言体制の充実

3 救急活動の事後検証体制の充実

(1)救急活動記録票等の項目の変更
(2)消防本部における救急活動の事後検証の実施
(3)医学的観点からの救急活動の事後検証の実
(4)その他

4 救急隊員の再教育

(1)救急救命士の資格を有する救急隊員の病院実習による再教育
(2)救急隊員のその他の再教育


関連資料

医政指発第30号(平成13年 7月 4日)
厚生労働省医政局指導課長発 各都道府県衛生主管(部)局長宛
病院前救護体制の確立について(通知)


1 消防機関と救急医療機関との更なる連携の強化

 救急業務を円滑に実施するためには、消防機関と救急医療機関の連携が必要不 可欠であり、特に、それぞれの地域におけるプレホスピタル・ケアに係る諸課題に ついて恒常的に協議する場が必要である。また、いわゆるメディカルコントロール 体制の構築を進める上で、都道府県単位の協議会はその体 制構築のための協議の場 として調整機能を担うことが期待される。

 このため、「消防機関と救急医療機関の連携強化について」(平成9年8月4 日付け消防救第178号)に基づき都道府県単位の協議会が設置されている都道府 県においては、(1)に示すとおりその構成員及び協議事項の追加、変更等を行 い、都道府県内の各機関の調整が可能な協議会となるようその体制を整えること。

 また、現在、都道府県単位の協議会が設置されていない都道府県においては、 都道府県消防主管部局と都道府県衛生主管部局とが協議のうえ、早急に 当該協議会 の設置を図ること。

 更に、(1)イに示すとおり救命救急センター等地域の中核的な救急医療機関 のメディカルコントロールに係る担当範囲ごとに協議会(以下「メディカルコント ロール協議会」という。)を設置すること。なお、メディカルコントロール協議会 については、原則として、都道府県が設置することとし、都道府県単位の協議会と 十分に連携して運用されたいこと。

(1)都道府県単位の協議会

ア 構成

 都道府県単位の協議会の構成については、次の者が構成員として必ず    含まれるようにするとともに、イに示す役割を果たし、ウに示す協議事項に関 し実質的な調整が可能となるような構成とすること。

 都道府県消防主管部局、都道府県衛生主管部局、都道府県の医師会、都道府県内の消防機関、救命救急センター等に所属する救急医療に精通した医師及びメディカルコントロール協議会の代表

 なお、既存の都道府県単位の協議会の構成や協議事項には多様なものがあると考えられることから、当該協議会に上記の者をその構成員とするメディカルコントロールに関する事項を専門的に取り扱う分科会を設置する等の方法により、必要な協議・調整が行われる場を確保することも考えられる。

イ 役割

 少なくとも以下の役割を担うものであること。

 ア)都道府県内の医療資源や救急搬送需要等を勘案して、地域の実情に応じ、救急救命士に対する指示及び救急隊員に対する指導・助言、救急活動の医学的観点からの事後検証、救急救命士の再教育等の役割を担うメディカルコントロールを担当する救急医療機関を選定し、その担当範囲の区域割 りを調整・決定すること。

 イ)メディカルコントロール協議会の構成等に関する調整を行うこと。

 ウ)必要に応じ、都道府県内のメディカルコントロール協議会間の調整や隣接県の都道府県単位の協議会との調整を行うこと。

 なお、メディカルコントロールを担当する救急医療機関の担当範囲の区域割りに当たっては、以下の事項に留意して行うこと。

  1. メディカルコントロールを担当する救急医療機関の担当範囲の区域割りに当たっては、救命救急センター等中核的な救急医療機関を中心として行うものとし、その際には、二次医療圏又は複数の二次医療圏の単位によりその設定を行うこと。

  2. 複数の二次医療圏をまたがる消防本部については、いずれかの協議会又は双方の協議会に参加すること。

  3. 都道府県内にメディカルコントロールを担当する救急医療機関が偏在するなどメディカルコントロール協議会の担当範囲の区域割りが一つしかない場合は、その担当範囲は都道府県の単位となることも有り得ること。

ウ 協議事項

 ア)都道府県内のメディカルコントロールを担当する救急医療機関の選定に関すること。

 イ)メディカルコントロール協議会の担当範囲の区域割りの調整・決定に関すること。

 ウ)メディカルコントロール協議会における決定事項等に関する調整・助言に関すること。

 エ)その他地域のプレホスピタル・ケアの向上に関すること。

(2)メディカルコントロール協議会

ア 構成

 メディカルコントロール協議会の構成については、次の者が構成員として必ず含まれるようにするとともに、イに示す役割を果たし、ウに示す協議事項に関し実質的な調整が可能となるような構成とすること。

 都道府県消防主管部局、都道府県衛生主管部局、担当範囲内の消防機関、担当範囲内の郡市区医師会、担当範囲内の救急医療機関及び担当範囲内の救命救急センター等に所属する救急医療に精通した医師

イ 役割

 メディカルコントロール協議会の担当範囲内の救急業務の高度化が図られるよう、救急救命士に対する指示体制や救急隊員に対する指導・助言体制の調整、救急活動の事後検証に必要な措置に関する調整、研修等に関する調整等いわゆるメディカルコントロール体制の構築に係る実質的な調整を行うこと。

ウ 協議事項

 ア)救急救命士に対する指示体制及び救急隊員に対する指導・助言体制の調整に関すること。

 イ)救急隊員の病院実習等の調整に関すること。

 ウ)地域における救命効果など地域の救急搬送体制及び救急医療体制に係る検証に関すること。

 エ)救急活動の事後検証に用いる救急活動記録様式の項目又は検証票様式の項目の策定に関すること。

 オ)救急業務の実施に必要な各種プロトコールの策定に関すること。

 カ)傷病者受け入れに係る連絡体制の調整等救急搬送体制及び救急医療体制に係る調整に関すること。

 キ)その他地域のプレホスピタル・ケアの向上に関すること。


2 救急救命士に対する指示体制及び救急隊員に対する指導・助言体制の充実

 救急救命士は、救急救命士法施行規則第21条に定める特定行為(除細動等の高度な応急処置)を実施するに当たっては、具体的な指示を医師から受けることとされている。そのための指示体制の確立については、「救急救命士養成所の臨床実習施設における実習要領及び救急救命士に指示を与える医師の確保について」(平成4年12月1日付け消防救第151号)、「消防機関と救急医療機関との連携強化について」(平成9年8月4日付け消防救第178号)等によりその推進をお願いしているところであるが、常時かつ迅速な指示体制の確立という観点からは、未だ不十分な消防本部が存在する状 況である。このため、(1)から(3)及び(6)に留意し、早急に常時かつ迅速な指示体制の確立を図ること。

 また、救急隊員が救急業務を実施する際の病院選定、応急処置等について医師から指導・助言を受けられる体制を構築することは、傷病者に対する的 確な応急処置等の実施という観点から非常に重要であることから、(4)か ら(6)に留意して救急隊員に対する常時かつ迅速な指導・助言体制の構築 を推進すること。

 (1)各消防本部においては、既存の指示体制を十分考慮しつつ、原則として、メディカルコントロールを担当する救急医療機関との間に指示体制を構築すること。

 (2)現在、救急救命士に対する指示を依頼している救急医療機関に対しては、救急救命士に対する常時かつ迅速な指示が可能となるよう依頼すること。

 なお、当該救急医療機関において常時かつ迅速な指示体制が構築できない場合については、メディカルコントロールを担当する救急医療機関に対し補完的な指示を行うことを依頼すること。

 (3)救急救命士に対する指示体制の構築においては、救急救命士に対する指示を依頼する救急医療機関との間で契約を締結すること等により常時かつ迅速な指示が行われることを確保するよう努めること。また、各消防本部においては、実効性のある指示体制が構築され、円滑に運営されるよう、必要な予算上の措置を講ずること。

 (4)各消防本部は、常時かつ迅速な指示体制を構築している救急医療機関に対し、救急隊員に対する指導・助言を行うことを依頼すること。

 (5)救急隊員に対する指導・助言体制の構築においては、救急救命士に対する指示を依頼する救急医療機関との間で契約を締結すること等により常時かつ迅速な指導・助言が行われることを確保するよう努めること。また、各消防本部においては、実効性のある指導・助言体制が構築され、円滑に運用されるよう、必要な予算上の措置を講ずること。

 (6)なお、救急救命士に対する指示を行う医師を指令室その他の医療機関以外の場所に常駐させている場合であって、(1)から(5)によりがたいときは、(1)から(5)について弾力的に運用しつつ、常時かつ迅速な救急救命士に対する指示体制及び救急隊員に対する指導・助言体制の構築に努めること。


3 救急活動の事後検証体制の充実

 救急業務高度化推進委員会報告書で指摘されているとおり、救急活動時における応急処置等の適切さについて、より専門的な立場からの事後検証体制、とりわけ、医学的観点からの事後検証体制は充分でない状況である。救急隊員の医学的な知識・技術を更に充実し、地域における救命効果を更に向上さ せるために、救急隊員の行った救急活動の事後検証を実施し、救急隊員の行う応急処置の質を保障する必要がある。

 このため、各消防本部においては、次の事項を参考として、救急活動について消防本部における事後検証及び医師による医学的観点からの事後検証を 実施するよう努めること。

(1)救急活動記録票等の項目の変更

 各消防本部においては、医師による医学的観点からの事後検証の結果を含め、客観的に救急活動の事後検証が可能となるようにメディカルコントロール協議会で定めた項目について記載できるよう、救急活動記録票等を変更すること。

(2)消防本部における救急活動の事後検証の実施

ア 各消防本部においては、医師による医学的観点からの事後検証を受ける前に、すべての事例において、迅速性、協調性、他隊との連携等の観点を含めた救急活動全般に関する検証を実施すること。

イ 各消防本部における検証の実施に当たっては、検証実施者は、当面、救急隊を管理する職にある者とすること。

ウ 各消防本部における検証に当たっては、医師による医学的観点からの検証を受ける事例を(3)アに基づき選定すること。

(3)医学的観点からの救急活動の事後検証の実施

 消防長は、(1)に示す救急活動記録票等をメディカルコントロールを担当する救急医療機関の医師に定期的に送付し、医学的観点からの事後検証を受ける体制を整えること。また、事後検証の結果、医師の直接の指導が必要な場合には、消防長は、当該救急隊員が事例研究、症例研究等の研修の場において医師から直接の指導が受けられる体制を確保すること。

 なお、当面は、現在各消防本部において用いている救急活動記録票等に医師が検証した結果を記載する検証票を添付して、事後検証を受けることも考えられること。

ア 対象事例

 心肺機能停止状態の傷病者を搬送した事例並びに救急事故等報告要領(昭和39年5月4日付け自消甲教発第18号各都道府県知事あて消防庁長官通知)における死傷者の分類(第二救急報告4)のうち重症及び死者の事例並びに救急隊員が医師に対し指導・助言を要請した事例を対象とすること。

イ 検証結果の活用

 消防長は、救急活動の事後検証の結果を記録、保管するとともに、当該救急活動を行った救急隊員に対しその結果を伝えること。

 また、当該検証結果については当該救急隊員の教育、訓練に役立てられるよう、個人単位で記録するように努めること。

 なお、消防庁においては、これらの事項について円滑に救急活動の事後検証が実施できるよう救急活動の事後検証のマニュアルを作成する予定であるが、本マニュアルは上記の内容を変更するものではないことを申し添える。

(4)その他

 消防長は、救急活動の事後検証を依頼する救急医療機関との間で契約を締結すること等により、医学的観点からの救急活動の事後検証の確実な実施を担保するよう努めること。また、各消防本部においては実効性のある医学的観点からの救急活動の事後検証体制が構築され、円滑に運営されるよう、必要な予算上の措置を講ずること。

 更に、消防長は、救急活動の事後検証の実施に当たり、傷病者のプライバシーの保護が十分に図られるよう必要な措置を講ずること。


4 救急隊員の再教育

 救急救命士の資格を有する救急隊員が行う高度な応急処置の質の更なる向上を 図るためには、座学はもとより、病院実習及び事例研究、症例研究等による教育・ 訓練が不可欠である。救急救命士の資格を有する救急隊員の資格取得後の教育につ いては、「救急救命士の資格を有する救急隊員に対して行う就業前教育の実施要領 について」(平成6年4月1日付け消防救第42号)により就業前教育が実施され ているところである。また、救急隊員の再教育については、「救急隊員の教育訓練 の充実、強化について」(昭和60年4月8日付け消防救第32号)及び「救急隊 員資格取得講習その他救急隊員の教育訓練の充実強化について」(平成元年5月1 8日付け消防救第53号)により実施されているところであるが、更に、次の事項 に留意して、救急隊員の教育の更なる充実を図ること。

(1)救急救命士の資格を有する救急隊員の病院実習による再教育

ア 研修期間

 救急救命士の資格を有する救急隊員が救急医療機関において受ける病院実習については、2年間で128時間以上の実施に努めること。

 なお、病院実習を行う医療機関は、現在、就業前教育等の際に病院実習を依頼している医療機関やメディカルコントロールを担当する救急医療機関等とすることが望ましい。

イ 研修内容

 消防庁においては、救急救命士の資格を有する救急隊員の再教育としての病院実習ガイドラインを作成する予定であるが、当面の間は、「就業前教育の実施要領」に準じた内容について、病院実習を受けること。

  ウ その他

 消防長は、救急救命士の資格を有する救急隊員の病院実習を依頼する救急医療機関との間で契約を締結すること等により、救急救命士の資格を有する救急隊員の病院実習の確実な実施を担保するよう努めること。また、各消防本部においては、救急救命士の資格を有する救急隊員が病院実習 をより確実かつ効果的に受けられるために必要な予算上の措置を講ずること。

 更に、消防長は、救急救命士の資格を有する救急隊員が病院実習をより効果的に受けられるよう、病院実習を依頼する医療機関と十分に協議を行うこと。

(2)救急隊員のその他の再教育

ア 事例研究、症例研究等への参加

 消防長は、救急隊員が事例研究、症例研究等に月に1回程度参加できるよう配慮すること。このため、事例研究、症例研究等を消防本部主催で開催すること等も考えられること。

 また、各消防本部においては、事例研究、症例研究等の開催に伴う所要の経費について、必要な予算上の措置を講ずること。

イ 各種学会、シンポジウム等への参加

 各種学会、シンポジウム等への参加は、救急隊員の教育として非常に有用であることから、消防長は、救急隊員の積極的な参画を促すとともに、組織として救急隊員が事例を発表し、参画できるよう配慮すること。

(厚生労働省医政局指導課長 通知)

病院前救護体制の確立について


医政指発第30号
平成13年7月4日

各都道府県衛生主管(部)局長殿

厚生労働省医政局指導課長__

病院前救護体制の確立について

 標記については,医療計画作成指針(平成10年6月1日健政発第689号厚生省健康政策局長通知)において,促進を図るようお願いしているところであるが,今般,別添(写)のとおり「
救急業務の高度化の推進について」(平成13年7月4日消防庁救急救助課長通知)が各都道府県消防主管部長あて発出さ れたので,消防主管部局及び都道府県医師会等関係団体との連携強化など,病院前救護体制の確立に向けた取り組みの一層の促進をお願いする。

 なお,医療計画作成指針第3の5の(3)の1)における「二次医療圏単位の協議会」については,今般の消防庁救急救助課長通知における「メディカルコントロール協議会」と一体的な運用を図るなど,各 地域の実情に応じた弾力的,効率的な運用にご配意願いたい。


日本救急医学会ホームページ