研究テーマ − 研究紹介 《拡散強調画像表示の標準化》

研究の背景

急性期脳梗塞の画像診断において,MRIの拡散強調画像(DWI)は,CTにおける早期虚血徴候とともに中心的な役割を占める.具体的には,拡散強調画像において上昇輝度を示す部分を急性期虚血巣と考え,その輝度上昇の程度,範囲,分布は,治療戦略を決定する上で重要な情報となる.

しかし,輝度上昇の程度,範囲は,画像の表示条件(ウインドウ幅,ウインドウ値)に大きく依存する.このことを充分承知している診断医であれば,実際にモニタ画面上で画像を診断する際に表示条件を適宜変化させて適切な判断を行なうことが可能であるが,この操作を怠ったり,あるいは不適切な条件でフィルムに焼き付けた画像をもとに診断すると,治療選択を大きく誤る可能性がある.殊に,血栓溶解療法の適応を誤れば,重篤な出血性合併症を引きおこすこともあり事は重大である.

ASIST-Japan の取り組み

ASIST-Japanでは,DWIを撮影する際に必ず同時に撮影されるT2強調画像(b=0画像)の輝度を利用してDWIの表示条件を較正する方法を提案している[1].すなわち,

T2強調画像(b=0)画像の視床のROI値をAとするとき,
DWIのウインドウ幅 = A
DWIのウインドウ値 = A/2

拡散強調画像と同時に撮影されるT2強調画像(b=0)上で視床のROI値を計測し(図a),上式から求めたウインドウ幅,ウインドウ値を用いることにより,拡散強調画像の表示条件を標準化することができる(図b: 標準化前,図c: 標準化後).

この方法により,迅速かつ簡便にDWIの表示条件を標準化できるものと考えられるが,その臨床的有用性を確認すべく多施設読影実験が進行中で,まもなく解析結果を報告できる予定である.有用性を確認することができれば,DWIの評価における装置間,施設間,読影者間の格差を最小限にすることができるが,これは脳血管障害を対象とする今後の臨床試験において,拡散強調画像が標準診断法として採用されるために必須の条件である.

典拠資料
[1] 佐々木真理、藤原俊朗: 頭部領域での拡散強調画像の臨床. 日獨医報 50(4): 621-628, 2005