「Resuscitation」誌のILCOR-CoSTR 関連文献

論説2: 蘇生医学における国際協力
(Editorial 2: International Collaboration in Resuscitation Medicine)


Resuscitation (2005) 67, 163-165
Douglas Chamberlain, Richard O. Cummins, William H. Montgomery, Walter G.J. Kloeck, Vinay M. Nadkarni
(最終更新 070527)

多くの国の研究者は複数の言語で出版して、蘇生の実行のために科学的な基礎を築いているところである。我々がこの科学的な基礎の情報を一所に集めて、その意味するところを全て判断することが出来れば、国際ガイドラインは自ずと出来てくる。

−Richard O. Cummins and Douglas Chamberlain (ILCOR共同議長)

 10年以上もの間、臨床医と研究者は共同で、最も有効な蘇生科学を確認し、評価し、解釈しようとした。Circulation誌(Resuscitation誌で同時に出版される)へのこの補足は科学が意味するところ、蘇生がどのように科学に追随するかについてのコンセンサスにたどり着くための、これらの協力の最新の試みを表している。我々は蘇生の国際ガイドラインを作ることは出来なかった。しかし、やったことは十分に価値がある試みだ。CPRとECCの、国際ガイドライン2000会議1を基にし、2005年1月、380人もの専門家が276の蘇生のトピックスを批評し、数え切れない論文を読みこなし、6日もの間続いた会議に参加した。そして、この会議では、潜在的な利害対立(potential conflicts of interest)に関する情報開示と開示と、現在実行されているガイドラインを裏付けるよいエビデンスのないものを識別することに、特に注意が払われた。

 われわれは50年もの間に続いた、こういった努力の系図をたどることが出来る。救助呼吸2と胸骨圧迫3、そして両者を効果的に組み合わせること4について報告され、これはCPRのトレーニングとそれを実行するためのガイドラインを策定を速やか実現することの必要性を生み出すことになった。1966年、医学会(the Institute of Medicine)が、心肺蘇生(CPR)と緊急心臓治療(ECC)の技術に関するエビデンスを個々に評価し標準的な方法を推奨するための最初の会議を開催した5。AHAは1973年と1979年に行われた、その後の会議を後援した6,7。国際的には、他の蘇生協議会においても並行して、心肺停止患者に胸部を圧迫し呼気吹き込みをするという、新しいまた奇妙な技術の訓練をすることの必要性が日増し高まっている現実に直面した8。そして蘇生技術や訓練技術に関するバラツキ(variations)は、様々な国で、避けることのできない問題となってきた。

 新しい薬剤や医療材料の進歩に伴って、蘇生の指導者たちはたくさんの、解決を要する疑問に直面した。多数の小さな国レベルの会議で、答えが他の国でもはや出ているかもしれない、英文または非英文雑誌で刊行されているかもしれない、といった質疑応答が行われた。国ごとに蘇生法(resuscitation practices)が異なることが次第に認識されるにつれて、国際的な専門家を一カ所に集めると効率がよいということに一気に関心が高まった(sparked interest about gathering)。AHAは1985年にそのような会議を招集し、多数の国から蘇生の指導者を集めて、緊急心臓治療(ECC)と心肺蘇生(CPR)の指針とガイドライン9に関する AHAの検討作業を目の当たりにさせた。会議の冒頭では、海外からの参加者は受動的な立場(Passive observation)にとどまった。しかし、これらの多国籍の専門家はほどなく、蘇生の結果を改善することに情熱を捧げ、すぐに熱と光を生み出す能力を示すことになった。

 1992年、AHAが次のガイドライン会議を招集したとき、関係者の40%以上はアメリカ国外から参加した9。1992年の会議のとき、CPRとECCでの国際関係についてのパネルで、蘇生の実行についてのエビデンスの国際的な基本を造る必要があると、認められた。しかし、不十分だったのは、増えてくるエビデンスの本体をとらえ、評価する機構の欠如だった。このときのパネルで、世界の蘇生の文献を体系的に評価する、国際的な蘇生の指導者のもっと大きなグループを造ることが必要だ、とされた。1993 年、このときのパネルの多く、Richard O. Cummins、Douglas Chamberlain、William MontgomeryおよびWalter Kloeckなどのメンバーの指導の下、Indernational Liaison Committee on Resuscitation(ILCOR)が創設された。ILCORを形成した団体は、アメリカ心臓協会、ヨーロッパ蘇生協議会、カナダ心臓脳卒中財団、南アフリカ蘇生協議会、オーストラリア蘇生協議会であった。また後には、ラテンアメリカ蘇生協議会(現在はインターアメリカ心臓財団の一部を構成されている)、ニュージーランド蘇生協議会も加入した。

 国際協力により、鋭い視点を持つことが出来、ILCORは、標準的な蘇生と、ガイドラインをサポートするエビデンスを体系的に評価し始めた。この作業の過程で、ILCORメンバーは一次蘇生処置、二次救命処置、小児、新生児の蘇生処置の手技に関して、国際間で多くの相違点があることを発見した。2005年、ILCORは18の科学的な推奨勧告を発表した。それは、これらの国際的な差異を説明し取り除き、減らすという目的に沿ったものであり、主にエビデンスに基づいたガイドラインであることを保証するための ものであった10

 1993年から2005年の間に、ILCORは22回の公式会議を召集した。専門家の一般のグループによる国際的な科学の評価がエビデンスに基づく蘇生ガイドラインとその実行の「最高の1セット」につながらなければならないという確信は、これらのILCOR会議によって導かれた。この信念はいくつかの国際的なコンセンサス声明11-13と同様に、2000年と2005年に行われた国際的な心肺蘇生(CPR)と緊急心臓血管治療(ECC)のエビデンス評価会議において浸透して行った。ILCOR後援の初めての主要な会議である2000年ガイドライン会議1,14では、エビデンスを集め評価するための、洗練されたプロセスが採用された。この過程は2005年にさらに進化した。実際的な洞察をもとに、会議参加者は、知識における重要なギャップ(key gaps)があることを互いに認識しつつ、異なる水準のエビデンスを治療推奨に織り込む方法を定めた。

 エビデンスに基いてガイドラインを策定する経験は、ILCOR指導部に乗り気のしない結論を押しつけることとなり、国際的なCPRとECCガイドラインの「最高の1セット」というの目標には届かなかった。広範な科学的コンセンサスに到達することは不可能ではないが、各地域のガイドラインとトレーニングツールを用いて治療推奨を局地化することもまた必要であると認められた。疑う余地なく、国際的な協力により、エビデンスをより完全に集積し分析することが可能なものとなった。しかし、エビデンス評価の議論は必ずしも(心肺蘇生の)トレーニングと実践(training and practice)の標準化にはつながらなかった。国際ガイドラインを追求する上で、いくつかの障害に直面することになった。

  1. 現在利用できるエビデンスは、国際ガイドラインをサポートすることができない、つじつまの合わないか、矛盾しているか、より決定的でないイメージを発表するかも知れない。例えばCPR換気は、この障害の1つの例だが、換気方法の詳細を微調整することは、2000年のガイドライン会議でかなりの時間とエネルギーを費した。専門家はたくさんの換気変数(例えば(単位時間当たりの)回数、吸気圧、吸気時間、吸気/呼気比率)を考慮に入れ、現場と病院における、そして一般の救助者と医療関係者による、それぞれの最適気道装置について討議した。2005年のコンセンサス会議で、これらの同じ蘇生の専門家の多くは、胸部圧迫のみのCPRがより効果的かもしれない、そして、おそらく、換気が完全に最初の蘇生アクションから除かれなければならないと主張した。

  2. 多くの質問(questions)において、良質なエビデンスは無作為抽出臨床試験の形であるが、この方法による研究成果は単に存在しない(is simply not available)段階であり、今後もその状態が続くだろう。(その結果、)多くの質問に対する最終的な答えを選び出してゆくことを妨げ続けるだろう。例えば、一般市民を訓練して、彼らが生命に関わる蘇生行動を的確かつ正確に実施できるようにし、またその技術を何年も保持するにはどのような方法がベストか、というような問題に答える場合に。

 ILCORと国際協力は成熟し続けた。(しかし、)振り返ってみれば、国際ガイドラインの最高の1セットのゴールは、まだ理想主義的で、時期尚早である。蘇生における多くの問題は局地的な修正と解決を必要としている。蘇生コミュニティの共通の目標は、心血管疾患と脳卒中の罹患率と死亡率の率を減らすことであり、これはこれまでに増して重要である。この出版物(訳者註:CoSTRのこと)における推薦し得る治療は、知られている最も良質な科学に基づき、効果的な国際協力によって到達された。コミュニケーション技術における指数関数的な進歩により、国際的な共同研究や検討作業を可能とし(make a reality)、現行のガイドラインと相違があれば緊急に見直しをすることができる。われわれは次回の国際的な共同会議が召集されるであろう2010年までの継続的なチェックとアップデートを楽しみにしている。

 ”蘇生における問題は世界中で似通っているが、われわれの知恵、知識あるいは経験は単一なものではない。従って、わてわれはわれわれ全体のために効果的に協力して行かねばならない。

―Douglas Chamberlain


References

1. American Heart Association in collaboration with International Liaison Committee on Resuscitation. Guidelines 2000 for Cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care -- an international consensus on science. Resuscitation 2000;46:1-447.

2. Safar P, Escarraga LA, Elam JO. A comparison of the mouthto- mouth and mouth-to-airway methods of artificial respiration with the chest-pressure arm-lift methods. N Eng J Med 1958;258:671-7.

3. Kouwenhoven WB, Jude JR, Knickerbocker GG. Closed-chest cardiac massage. JAMA 1960;173:1064-7.

4. Safar P, Brown TC, Holtey WJ, Wilder RJ. Ventilation and circulation withclosed-ch est cardiac massage in man. JAMA 1961;176:574-6.

5. Cardiopulmonary resuscitation: statement by the Ad Hoc Committee on Cardiopulmonary Resuscitation, of the Division of Medical Sciences, National Academy of Sciences, National Research Council. JAMA 1966;198:372-9.

6. Standards for cardiopulmonary resuscitation (CPR) and emergency cardiac care (ECC). JAMA 1974;227(Suppl.): 833-68.

7. Standards and guidelines for cardiopulmonary resuscitation (CPR) and emergency cardiac care (ECC). JAMA 1980;244:453-509.

8. Chamberlain D. Editorial introducing ERC guidelines. Resuscitation 1992;24:99-101.

9. Guidelines for cardiopulmonary resuscitation (CPR) and emergency cardiac care (ECC). JAMA 1992;286:2135-302.

10. The Founding Members of the International Liaison Committee on Resuscitation. The International Liaison Committee on Resuscitation (ILCOR) -- past, present and future. Resuscitation 2005;67:157-61.

11. Chamberlain DA, Hazinski MF. Education in resuscitation. Resuscitation 2003;59:11-43.

12. Nolan JP, Morley PT, Vanden Hoek TL, Hickey RW. Therapeutic hypothermia after cardiac arrest. An advisory statement by the Advancement Life Support Task Force of the International Liaison Committee on Resuscitation. Resuscitation 2003;57:231-5.

13. Jacobs I, Nadkarni V, Bahr J, et al. Cardiac arrest and cardiopulmonary resuscitation outcome reports: update and simplification of the Utstein templates for resuscitation registries. A statement for healthcare professionals from a task force of the international liaison committee on resuscitation (American Heart Association, European Resuscitation Council, Australian Resuscitation Council, New Zealand Resuscitation Council, Heart and Stroke Foundation of Canada, InterAmerican Heart Foundation, Resuscitation Council of Southern Africa). Resuscitation 2004;63:233-49.

14. Proceedings of the guidelines 2000 conference for cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care: an international consensus on science. Ann Emerg Med 2001;37:S1-200.


フロントペ−ジへ