阪神・淡路大震災では救急災害医療の重要性が認識されるとともに数多くの問題点が指 摘された。
〔被災地内の医療機関の問題点〕
〔医療救援側の問題点〕
災害時の負傷者救助では、救出にかかる時間の経過とともに救命率が加速度的に低下す ることが知られている。阪神・淡路大震災では、自衛隊や消防などの公的機関による系統 的な救出活動の立ち遅れが指摘されているが、医療救助活動の遅れも問題点の一つである 。救急救助活動が迅速に行われていれば、かなりの数の人命が救われていた可能性が指摘 されている。
縦割り行政に代表されるように我が国の社会構造では救助チームと医療チームが一緒に 活動する行動パターンが確立されにくい。欧米では災害時に両者が一つのチームとして活 動する体制が確立しており、参考にすべきである。
救命救急処置や緊急手術の可能な移動病院の準備とヘリコプターなどの搬送手段を持っ たチームの養成は一つの方向であるが、省庁間や医師会との連携がうまく運ばず現実化は まだ遠い。また仮に実現したとしても、医療チームの編成や所属の問題、ボランテイアの 場合のチームワークや指揮命令系統の問題、移動病院やヘリポートの設置場所確保の問題 、等運用上の課題は多い。しかし前向きに検討すべき課題である。
阪神・淡路大震災でとくに大きな問題となったのは情報通信連絡機能の途絶であるがこ れは日常の通信連絡が電話に依存し過ぎていた結果である。無線系メディア、パソコン通 信、衛星通信などの災害に強い通信網の確立と利用が求められる。また、医療関連情報の 混乱をくい止めるために、地域の医療機関、医師会、保健所、行政機関、消防機関等の相 互の情報ネットワークの確立も必要である。
被災地内の病院は機能が麻痺している可能性が高く、傷病者を被災地外の病院へ搬送せ ねばならないが、陸路が遮断されている状態では非常に困難なことである。当然ヘリコプ ターによる搬送を考えるが、阪神・淡路大震災では殆ど利用されることはなかった。日常 的な救急活動においての救急ヘリコプターの導入により、災害時のより積極的なヘリコプ ターの活用が行えるであろう。
被災地内では医療の需給バランスが極端に崩れるという点からは、被災地外の周辺医療 機関が後方病院として機能することが重要であり阪神・淡路大震災では大阪の医療機関が 後方病院として活動した。大学病院は人的にもスペース的にも医療技術的にも潜在的な余 力があり、災害時の医療支援拠点病院としての大きな能力をもっている。現在我が国にお ける救急医療の基幹病院は私立大学病院が担っており、国公立の大学病院は救急医療に積 極的に取り組んでいるとは言いがたい。救急医療なくして災害医療はあり得ず、災害医療 体制を整備するためにも国公立大学病院の救急医療の内容を改善する必要がある。 阪神・淡路大震災を契機として災害医療教育の重要性が認識されるようにはなってきた が、専門家が殆どいないことや、教材が不十分なことをはじめとして問題は多い。最大の 問題は実地訓練を行う機械が無い点である。これには模擬災害での訓練や virtual reality などのハイテクを使用して対応していくべきである。
大災害時は医療従事者自身が被災者となるという発想のもとに、我が国の災害医療を見 直す必要がある。
PTSDの支援の方法としては、行動療法的な方法が有効である。具体的には、心身のリラクセーション、条件刺激に曝露するflooding,系統的脱感作、ストレス免疫訓練などの方法が用いられている。
今回の経験から心のケアのためのプログラムの試案を述べてみる。 プログラムには短期的なものと、長期的なものの2種類がある。
◯避難や退避、移転等の防護対策
◯ヨウ素剤の投与、汚染検査・被ばく線量評価また除染等の被ばく、汚染に対する処置や放射線の健康影響への説明
◯地域住民への被ばくや汚染の防止を中心とした放射線防護対策
◯地域住民の避難や移転時の個々人の被ばく線量の評価と汚染検査、除染等の処置またそれを行う場所の確保
◯医療要員の役割分担及び研修実施訓練
神戸市立中央市民病院看護部副部長 都築朝子氏が神戸・淡路大震災(平成7年1月17日)のときに得た教訓をもとに災害対策として検討しておきたいことをまとめた。
状況により変化することではあるが、だれがするのか、どこでするのか、を考えておく必要がある。
2)診療スペース
収用可能な空間と使用できる設備を検討し認識しておく必要がある。日頃から知らないものはつかえない。
災害時は多くのことに人の手を要する。そしてそのための連絡網は実際的でなければ機能しない。これまでは院内組織にしたがった連絡路としていたが、電話が通じない場合も想定して地域別に編成し直した。
2)確保した人材をいかに配置するか
部署によって閑忙の差が生まれる可能性もあり、実際の調整が必要と思われる。災害時の配置体制を明確にしておきたい。
3)ボランティア
救援活動へのボランティア活動の参加があり少しゆとりが生まれた。当院ではこれまでボランティアを導入して来なかったが、今回を契機に、どのような人に何を分担するかを含め導入を検討している。そのためには、日頃からボランティアへの理解を深めておく事が必要であり、いざと言うときの有効な活動に結び付くと考える。
災害は時、場所、規模を選ぶことなく起こり、予測できないものも多い。発生時はその場に居る人が機転を利かして対処するしかないし、知恵があれば危機を切り抜けることができる。危機のときには力を合わせ、協力することができる。“待ち”の姿勢では対処できない。また、時には組織がかえって自立性を阻むこともあるが、それを乗り越え、リスクを負う勇気が必要である。人はその瞬間において、人のもつ最高の分別を示すものであり、だれから指示されるのでなく、自らの判断により動くしかないと痛感する。だからこそ平時に資質を培っておかなければならない。災害看護教育は重要であり、そこで働く人こそ財産である。
1997年には日本で異なる火山ガス成分が原因となった災害が続いて発生した。本報告ではこれらのガス事故の概略とこれまでに日本で発生したガス災害の事例、その対策について述べる。