災害医学論文集(災害事例別) JR福知山線脱線事故(2005) |
目次: EMERGENCY CARE、赤穂市民病院誌、看護、救急医学、救急医療ジャーナル、呼吸器科、循環器画像技術研究、心的トラウマ研究、生命倫理、全国自治体病院協議会雑誌、綜合臨床、地域医学、ナーシング・トゥデイ、日本救急医学会雑誌、日本航空医療学会雑誌、日本公衆衛生雑誌、日本集団災害医学会誌、日本手術医学会誌、プレホスピタルMOOK 4、臨床麻酔
■EMERGENCY CARE
■赤穂市民病院誌
■看護
■救急医学
■救急医療ジャーナル
■呼吸器科
■循環器画像技術研究
■心的トラウマ研究
■生命倫理
■全国自治体病院協議会雑誌
■綜合臨床
■地域医学
■ナーシング・トゥデイ
■日本救急医学会雑誌
■日本航空医療学会雑誌
■日本公衆衛生雑誌
■日本集団災害医学会誌
■日本手術医学会誌
■プレホスピタルMOOK 4 多数傷病者対応、永井書店、東京、2007
■臨床麻酔
特集【特異な経過をたどった症例・事例から学ぶ】
Abstract:JR福知山線脱線事故の乗客すべてを対象に質問紙調査を実施し,243名から有効回答を得た.全体の精神健康度は一般人口に比して良くないことが示唆された.PTSD症状を強く示す者が44.3%,女性の方が高く認められた.乗車位置とPTSD症状に相関はみられず,事故そのものが非常に衝撃度の強い事故であり,乗客全員の長期にわたる支援が必要なことが示唆された.PTSD症状の強い人は,生活面への影響が強く生じていた.PTSD症状の強さに影響する要因として,乗車位置や事故直前の異変の自覚,入院・通院期間に表される具体的外傷度の重傷度ではなく,調査時点での身体的健康の問題や,生活全般の支障の強さなどが強く関連していた.さらにPTSD症状と痛みは強い相関を示した.
Abstract:飛行機、列車、船舶などの大規模交通災害は大きな人的被害を出し、被害者や家族にもたらされる心理的影響は甚大である。その災害は明らかなトラウマ体験として認知されるものであるが、事故そのものの発生頻度が少ない、生存者が少ない、生存したとしても被害者は離散してしまうなどの特徴から、被害者や家族が受ける心理的問題についての研究はあまりなされていない。本研究では平成17年に発生したJR福知山線事故の負傷者を対象とした調査を行い、どのような心身の健康上の問題が遷延するのか、そしてどのような要因が発症と遷延化に影響するのか、という点について検討した。調査は面接によって行われ、58名の負傷者が協力した。構造化面接の結果、DSM-IVに基づくPTSD診断基準を完全に満たす者が16人(27.6%)、部分PTSDが11名(19.0%)、診断のつかない者が31名(53.4%)であった。PTSD診断のつく者は、生活の質(QOL)に関して国民標準値を大きく下回っている者が多く、また、身体の疼痛を慢性的に感じている者が、診断のつかない者より有意に多かった。精神的影響は身体面、生活機能などに大きな影響を残しており、継続した支援が必要と思われた。
Abstract:阪神淡路大震災を契機に指定された県下12の災害拠点病院の一つである当院における,災害拠点病院としての体制整備および救護活動(「台風23号但馬地域水害救護活動(平成16年10月)」「JR福知山線列車脱線事故(平成17年4月)」)について報告した.
Abstract:クラッシュ症候群(挫滅症候群)は地震などの大災害の際に落下物によって上下肢を長時間圧迫された症例に,救出後に生じる病態である.救出時は元気であった人が,救出後急速に全身状態が悪化して死亡する"rescue death"の原因として注意が喚起されてきた.古くは第一次世界大戦中にこのような病態が生じたことが報告されているが,クラッシュ症候群という名称は第二次世界大戦の空襲などの際に倒壊した建造物の下敷きとなり,救出された後に急性腎不全を発症し,全身状態が悪化して死亡するという病態に対して名づけられたものである.本邦では阪神・淡路大震災の際に有名となったが,今年JR福知山線の脱線事故の後に再びマスコミで報じられることとなった.本症候群はその発症の可能性が念頭に置かれていない場合,しばしば生命を脅かす事態に至る深刻な疾患であり,本稿において病態と治療方針を述べたい.クラッシュ症候群は「外傷性または外傷に伴う横紋筋融解症」と定義される.その名前から外圧による筋肉の挫滅によって発生すると考えられがちであるが,むしろ圧迫解除後の虚血肢再灌流が病態上重要である.
特集【培った経験を「トリアージ」に活かす しっかり聞いて,見て,送る】
Abstract:JR福知山線列車脱線事故における初動期の現場医療活動について報告し、災害医療の観点から検証する。事故概要:2005年4月25日9時18分JR福知山線で列車脱線事故が発生した。死者107名、負傷者549名(重症139名)の多数傷病者発生事案であった。現場活動:我々は事故発生から約40分後の10時01分に現場到着した。先着医療チームとして2次トリアージと応急救護所における緊急処置に従事した。また医療チームが順次現着した後は医療チームのcommanderを担当し、現場医療活動の統括にあたった。検証:ドクターカーシステムが整備、認知されており発災早期に医療チームの現場派遣が可能であった。また医療チームは統制がとられ適切にトリアージ、現場治療がなされたと評価される。その結果、科学的に証明することは種々の理由により困難ではあるが、preventable deathが回避できたと推測している。しかし、初動期において各機関は十分な情報収集と共有化が行えなかった。その結果、詳細な事故状況、通信手段、患者搬出の動線、搬送手段(救急車、ヘリなど)の状況、搬送医療機関の選定、医療チームの要請状況などの把握、整備、確立に時間を要した。今後は現場指揮本部を通じて消防、警察と早期から十分に情報共有を行い、トリアージ、処置、搬送の一連の連鎖が途切れることなく行われることが期待される。まとめ:災害医療は日常業務の延長にあり、本事案で明らかとなった課題を検証し、本邦における災害医療システムの構築、整備、啓蒙が望まれる。
Abstract:(目的)JR福知山線列車脱線事故において、現場近くの中学校校庭に設置された臨時ヘリポートへ派遣され、航空搬送患者へのstaging careを担当したので報告する。(結果)事故は9時18分発生、消防局やメデアなどの情報からヘリコプター搬送(以下ヘリ搬送と略す)が必要と判断。兵庫県、神戸市消防局航空隊による医師1名、看護師1名の現場投入を神戸市消防局に要請し11時2分中学校校庭に着陸した。ヘリ搬送目的で臨時ヘリポートへ移送された12名(男8名、女4名)の傷病者に対し、搬送前トリアージと応急処置を行った結果、重症(赤)10名、中等症(黄)2名で、神戸市内への8名の搬送はヘリ2機体制で、2名は大阪市ヘリにより大阪府内へ搬送となった。黄色タッグに分類された2名は近くの病院へ救急車で搬送した。現場での処置は静脈路確保5例、脱気2例であった。(考察)ヘリ搬送ポストでstaging careを担当したのは我々の医療チームのみで、災害現場での人員の配置の面で問題があった。その他の問題点を含めて、今後、集団災害時のヘリ搬送に際し、staging careの重要性を認識した準備と対応が必要と考えられた。
Abstract:2005年4月25日午前9時18分頃に発生し、107名の死者と555名の負傷者を出したJR西日本福知山線の列車脱線転覆事故に際して20の医療チームが現場に出動するなど、活発な医療救護が行なわれた結果、調査しえた範囲においては避けられる外傷死(preventable trauma death)を防ぐことができたものと考えられる。当日行なわれた救出救助、医療救護活動について、日本集団災害医学会山本保博理事長の指示により特別調査委員会が設置され、委員会は、現場活動、搬送、医療機関での対応、転院搬送などについて、活動にかかわった多数の関係者からヒヤリングを行い、また診療録を含む関係記録をできるだけ詳細に調査して医療救護活動の全体像の把握に努力した。その調査結果に基づき今後に残すべき教訓と課題を挙げた。
Abstract:平成17年4月25日、9時18分頃に発生したJR福知山線列車脱線事故において、済生会滋賀県病院は6名からなる緊急医療班を派遣し、「瓦礫の下の医療(CSM:confined space medicine)」を中心とする現場活動を行ったので当院活動記録にもとづき報告した。事故に関する情報が事故発生1時間20分後に厚生労働省より入電されたが、厚生労働省や滋賀県からの出動命令はなかった。災害現場は医療活動の需要は極めて高く、現場には数時間で往復できることなどの理由から病院から緊急医療班の派遣要請の出動許可を得た。災害現場発生後3時間40分後現地に到着し、現地消防救助隊よりマンションの地下駐車場に衝突し大破した第一車両の中に取り残された生存者に対して医療救助の要請を受けた。下肢の圧挫傷などの重症患者計4名に対して、急速輸液の実施などのCSMを実施し他施設と協同して消防救助隊との連携により全員を救助、救命できた。今回の列車事故でのCSMの特徴は、訓練を受けた3施設の医師が協同してCSMを行ったことであった。今回CSMにより、(1)死亡宣告による遺体搬出の迅速化と生存者への早期接触、(2)生存者に対する輸液・酸素投与、精神的援助等の医療管理、(3)傷病者のみならず消防職員の健康にも配慮、(4)現場における救出直後の突然死を回避などに貢献できたと考えられた。今回の経験から、(1)救助隊と合同訓練の実施、(2)医療チームと救助隊との連絡方法の取りまとめと周知、(3)必要な医療機器、資器材の準備、(4)救急救命士と救助隊の医療知識の充実、(5)医療チームの指揮命令系統の確立、(6)医療チームの交代制、(7)厚生労働省DMAT活動との整合性、(8)災害弱者(子供、女性、老人など)に対する対応確立などの取り組みがCSMを効果的に実施するために必要であると考えられる。
Abstract:兵庫県尼崎市で05年4月25日に起きたJR宝塚線(福知山線)の脱線事故では、企業を含めた近隣の人々が救助に大きな力を発揮した。地元企業を中心とした市民が素早く秩序だった救助活動をすることができた要因として、(1)日頃のつながりを生かしたスムーズな役割分担 (2)職場の資機材の活用 (3)敷地等の有効利用 (4)機転と工夫 (5)2次災害への十分な配慮--などが挙げられる。一方で、問題点もいくつか明らかになった。(1)搬出に際し、頸椎等の固定ができなかった (2)トリアージされないまま搬送された例があった (3)社有車等での搬送先が、直近の病院に集中 (4)民間車両のため、搬送に時間がかかった--などである。次の大災害に備え、近隣企業の潜在的な救助力を生かすために、地域での一層の工夫が必要である。
Abstract:平成17年4月25日に発生したJR福知山線列車脱線事故では6名の法医専門医を含む11名のスタッフが25日午後3時から28日午後6時まで24時間体制で検案に当たり、犠牲者107名中病院で死亡した6名および司法解剖となった運転士を除く100名を検案した。乗客106名の直接死因は、頭部損傷42名、頸部損傷14名、胸腹部損傷22名、骨盤骨折6名、窒息19名、外傷性ショック・挫滅症候群3名であった。また救急医療におけるpreventable trauma death検証のため検案所見からISS(Injury Severity Score)を計算したが、AIS-90(Abbreviated Injury Scale)では窒息や挫滅症候群が評価されていない事、検案のみでは臓器損傷が不明瞭である事などから、死因によっては必ずしも死亡者が重症傾向を示さなかった。検案時における死亡者のトリアージ黒タッグ装着率は、事故から12時間未満に検案した遺体では54%(25/46)、12時間以上経過後検案した遺体では89%(48/54)であった。
Abstract:平成17年4月25日JR福知山線列車脱線事故が発生し、未曾有の大惨事となった。現場近郊に位置し、平時、地域の中核病院としての役割を担っている当院は、その災害救急医療へも積極的に対応した。職員が役割を分担し、互いに協力した。病院トリアージを行い、その区部に応じて治療を行った。来院時心肺停止症例の搬入例はなかった。一時的に重症患者の収容限界を超えたが、2次転送の結果、各患者への治療が継続された。そして、後に救出され、長距離搬送が困難であった圧挫症候群の当院での受け入れが可能となった。結果的にPreventable Trauma Deathを防ぐことができた。これには現場トリアージの徹底や2次転送の必要性の認識、病院を超えた協力体制の向上が関与していると考えられた。ただし、現場における発災早期の受け入れ医療機関の情報把握、重症度と人数の適正なバランスを保った搬送先選定システム、院内では今回の事故対応を踏まえた災害対策の見直し、などに課題を残した。
Abstract:兵庫県広域災害・救急医療情報システムを中心に現時点での評価,検証を行い,またシステムのさらなる充実と今後のシミュレーション訓練に生かすべく検討を加えた.阪神淡路大震災後7年に兵庫県広域災害・救急医療情報システムが完成し,拠点病院から派遣された災害コーディネータを中心に,災害時シミュレーション訓練を行った.JR西日本の福知山線脱線事故の発生から,災害対策本部設置,当日の手術場の受け入れ状況などを,初期対応の一連の経過を検索した.事故時初期対応に関しては,兵庫県広域災害・救急医療情報システムが有効に働いた.有効に働けた要因は日頃のシミュレーション訓練であった。
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