災害医学・抄読会 2004/06/18

ボランティアが直面した心の問題

(倉戸ヨシヤ:現代のエスプリ1996年2月別冊、p.173-182)


 「阪神・淡路大震災」において、「巡回臨床心理活動」での経験を中心にボランティアの臨床心理士が直面した心の問題について述べてある。

 「巡回臨床心理活動」は、被災地の臨床心理士がたまたま避難所を訪問し、精神科医とともに被災した人に声をかけていたことを日本臨床心理士会がサポートしたものである。全国の臨床心理士会に呼びかけてボランティアを募集して、被災した人への「心のケア」を行ったものである。

【さまざまな問題点】

  1. 行政や避難所のリーダーから了解を取り付けることができず、入所拒否を受けること

     臨床心理士であるという、専門性を振りかざして避難所に入所しても、せっかくの専門性を生かす以前に抵抗にあってしまう。まずは挨拶や態度を通して伝わる人間的な側面を大切にして接し、ボランティアとは何かを理解してもらうことから始まる。

  2. 避難所へ入っていくことへの抵抗

     多くのボランティアは、避難した人々の驚愕した様子に圧倒され、生き残っていることや、無傷であることに対するばつの悪さ・罪の意識から、無傷の自分がのこのこ出てきて被災した人に受け入れられるだろうかとの考えが頭をよぎるのである。しかし、被災したかたがたも、分かってもらいたいという気持ちと、被災したものにしか分かりっこないという気持ちに揺れているのである。

     ボランティアの中には、緊張のあまり身動きがとれなかったり、「人の家に土足で踏み入るようなことはできない」とリタイアしたりしたものもいた。しかし、心の専門家として、不安におびえたり、途方にくれている人々の傍らに寄り添い、ともに嘆き・痛みを分かち合ってほしいものである。

  3. ボランティアのためのサポートシステム

     活動に従事したボランティアの中には、疲労困憊して休息が必要となったものや、身体の不調をきたしたものがいた。自ら休んだり、一時退去する勇気をもたなければならない。また、危機管理のマネイジメントとして、サポートシステムを整備することも必要である。

  4. 昼間に限られた巡回活動

     口論、酔っ払い、ペットの持ち込み、大きい話し声、睡眠困難など、夜に起こる問題が多いことは、巡回活動が昼に限られたことは改善が必要な点である。

【「心のケア」とは】

 「巡回臨床心理活動」は、被災した人の「心のケア」にあたることを目的としているが、究極的には、やがて被災した人が喪の作業を十分にし、被災の経験を「てこ」に再び起き上がる勇気の得られること、生きる勇気の得られることなどを願っているが、そのような被災した人の一連の心の変容過程の最初の段階に付き合うことといえる。これには、ボランティアの側の、よほどの人格的な成熟さと危機においても関われる力量が要請される。

 「心のケア」とは心を痛めている人に寄り添い、ともに嘆き・苦しみを分かち合い、心を配ることをいう。筆者が経験した74歳の男性の例では、最初「何で生き残ったのかわからない、死にたい」と震災の痛手で一面しか見えなく、うちひしがれている状態から、筆者と話をすることにより、違う見方ができるようになり、生きる希望のきざしを垣間見ることができるようになった。

 震災の後、すぐに喪の作業をできる人ばかりではないため、どのように関わるかを見立てること、落ち着いて話のできる隔離された場所を利用すること、さらには、最初から深く関わりすぎないことなどの、注意点を述べている。

【ボランティアとは】

 ボランティアとは、自発性に基づいて主体的に動き、連帯性と社会性があり、無償性の活動であるといえる。その中でも、自発性と主体性が何よりも特徴的である。しかし、昨今のボランティア活動と同様、巡回活動の場合にも、専門性を重視し、その役割を強調しすぎたためか、活動の枠組みや路線をあらかじめ設定したり、自由な活動を制限していた嫌いがあったかもしれない。また、ボランティア側も被災した人やその震災後ストレスにどう対処したらよいか、一定のモデルやマニュアルがあることを期待していた人もあった。

 しかし、活動のオリエンテーションでは、日ごろの各自の心理臨床活動の理念と方法論を手がかりに、「心のケア」の専門家として自ら臨機応変にやってほしいということを強調した。

【ボランティアの心の変容過程】

 ボランティアの中には過去に自然災害や交通事故など、自ら被災体験の持ち主である人が何人かいたが、ボランティアとしての役割を担っていく過程を示すと次のようになる。


第1部 救援、復興および根本原因

(国際赤十字・赤新月社連盟:世界災害報告 2001年版、p.8-33)


 ラテンアメリカから南アジアまでに及ぶ、数年ごとに大規模な洪水・暴風雨および地震に見舞われる地域は、次の大惨事が起きる前に復興を遂げることができない。しかも貧困者の中でも最も貧しい層が、危険の高い地域に押しやられ人口過密となっているために大災害を引き起こす、といった社会的・政治的・経済的なレベルでの災害と、一時しのぎだけで根本原因をそのままにする無計画な人道援助による災害、といった「人為災害」があり、これらの地域の災害は一概に「自然災害」とはいえないのである。このことをふまえ、以下に救援活動の意義について検討した。

I.根本原因について

 国際的な人道援助には、救援を最も必要としている地域よりも、メディアに報道されてよく知られた場所ばかり物資の配布が集中する実態がある。そして、その緊急支援の多くが食糧支援に限られていた。ひとつの家庭では消費しきれぬほどの食糧援助だけでは長期的な復興は望めない。事実、1年後、その地域は復興を認めなかった。その原因の一つとして、メディアの関心の薄れと共に人道援助も消えていく実態が挙げられる。しかも、食糧援助を代表とする緊急援助は、その後に生産的なものを残さず、生活の質を向上させるに至らないのである。むしろ、過剰な援助によって住民に期待と依存が植え付けられ、災害対策やコミュニティー参加に対する住民の意識が非常に低くなるため、最貧困者はますます災害に対して脆弱になり、資金もないため、自己の力では変えることのできない構造的な貧困と無力化に追い込まれていく。このように無計画な人道援助が、復興を阻害してしまっていたのだ。

II.復興・開発と救援とは

 的確な目標を定めて計画された救援は、住民が着実な復興プロセスを開始することのできるしっかりした土台を提供することができる。たとえば、高波によって塩分を含みすぎた土壌でも育つ種の提供や、耕作に必要な農具・肥料を与え、農業指導を施すという救援が、食糧問題や地域経済の再生に結びついていく。また、暴風雨や高波などに強い民間住宅の建設が、災害復興の土台として大きく貢献するのだ。このように、コミュニティーの災害対策や復興対策を行うことが、最大の「人為/自然災害」防止策となりうる。しかし、ここで問題になるのが、救援が「開発的」になると、国際社会は緊急事態は終わったとみなし、援助資源を撤退させていくことだ。したがって、復興・開発と救援とは同時期に進められなければならない。そのために、緊急的な災害だけでなく、緩慢に起こっている災害の綿密なモニタリングと、ターゲットになる被災者に関する知識が必要となる。その上で、被災者の能力を活用し、多様なニーズを満たした救援を計画し、外部からの援助介入活動が終了した後も人道的活動が継続できるように、地元の機関を発達する援助が必要である。

III.資金援助について

 資金援助についても、救援と同様に、緊急時に大量に早期的に使用される傾向にある。しかし、資金は緊急時に乱用するものではなく、長期的に適切に使用されるべきである。現地パートナーに資金を投入することで、災害に対応できるよう訓練し能力を育成しなければならない。住民の脆弱性を左右するのは、物理的な環境ではなく、生計への持続可能な支援や資金援助である。その資金援助とは、数年間にわたる資金供与の書面による見通しとするべきで、1年ごとの追加支出では根本的な構造改革には至らない。また、U.で述べたように、復興・開発と救援とは本来ならば同時に行われる必要があるが、現在のところ、この二つにあてる資金の財源が異なるため、統合して行うことができない。資金援助は、長期的に復興・開発か救援か足りないところを補うように行われる必要がある。

IV.まとめ

 災害は、紛争や気候変動、ずさんな開発プラン、構造的貧困、経済と機会の不均衡さといったものから引き起こされる。これらは、人道機関のみで対処するには範囲を明らかに超えている。したがって、災害対策であれ、ヘルスケアであれ、小額融資であれ、何か提供できるものを持っているすべての人が貢献できるような、包括的な援助プログラムが必要である。以上のことから、災害のサイクルを打ち破り、復興を根付かせるためにいかの三点がポイントとなる。

  1. 災害に見舞われやすいすべての地域の開発に「リスク要素」を注入すること:
    リスク分析・災害対策は開発段階の一部とならなければならない。地元機関は、災害に迅速かつ効果的に対応できる能力を育成されなければならない。必要な資源供給のために、救援と開発を統合し、リスク減少への投資を優先する必要がある。

  2. 援助の強化を図る最初の段階で緊急救援を計画すること:
    大災害が起こったときに、よりよい分析と地元機関とのパートナーシップによって、一時凌ぎの援助を越えて、将来の災害が引き起こすリスクを減らすような復興を目指した、緊急支援を行う必要がある。

  3. 人道的活動の限界や根本原因とその解決について議論を重ねていくこと:
    持続可能な復興は、人道機関だけの能力の範囲をはるかに超える仕事で、構造的な根本原因は解決できないだろう。しかしこれを、災害を引き起こす数々の要因に対して何も行わないことの口実にはせず、人道機関はドナーや政府、一般市民と共に、これを究明していかなければならない。


D 海難事故

(小井土雄一:山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、p.125-132)


 海難事故とは航海中の船舶が何らかの災害に遭遇し、乗員の生命が危険に曝されること

1、海上災害の分類

 海上災害は以下のように分類される。

  海上事故
  1)海難事故
   a.船舶自体に起因:船舶の衝突、乗り揚げ、転覆、爆発、浸水、機関故障など
   b.船舶以外に起因:台風および異常気象による二次的な遭難、転覆など
  2)危険物等の大量流出事故:海洋汚染、火災、爆発などの発生

2、海難の状況

 要求助船舶が30年前に比べて約3割減少している。(台風および異常気象に起因する海難を除く) 減少した理由として船舶自体のハイテク化、衛星通信・位置管理システムの導入、航行管制システ ムの整備、海難防止思想の啓蒙、気象庁による気象情報などの高度化などの海難事故に対する対策 を講じてきた成果である。

 船舶の種類別の海難事故件数を見てみると漁船、貨物船は年々減少しているが、プレジャーボート は上昇している。この理由はレジャーとしてプレジャーボートが気楽に楽しめるようになった一方 で、これらの人々の運行に関する知識・技術が十分でない事、また、海難に対する低い意識で海上 に出ることに起因していると考えられる。

 乗船者のうち死亡・行方不明者は漸減しており、海難事故の発生件数減少の割合以上に死亡・行 方不明者が減少している。その理由は通信の能力などの船舶自体のハイテク化にもよるが、海上保 安庁を始めとした捜索、救助・救急活動の体制の充実によるところが大きい。

 海難の種類は乗り揚げ、衝突、機関故障の順となっている。その理由として見張り不十分、操船 不適切、気象・海象不注意、機関取扱不良などの運航に関する知識・技術の不十分と不注意による ものがほとんどである。

3、危険物などの大量流出事故の状況

 原油や液化ガスなどの専用船舶が海難事故に遭った場合は、船員の危難だけでなく船舶から危険 物などが大量流出することにより海洋汚染、火災、爆発などの海上災害が問題となる。

 海上災害に対する対応策として、巡視船艇・航空機の出動体制の確保、防災資機材の配備の強化 や油の拡散・漂流予測の高度化を図るため、現場の巡視船からリアルタイムに海象のデータを取得 できる「船舶観測データ集積・データシステム」を導入し、予測結果などを電子画面上に表示する ための沿岸海域環境保全情報の整備を図っている。

4、海上災害発生時の指揮命令系統

 海上事故が発生した場合は速やかに海上保安庁に連絡する。海上保安庁は自らの情報収集と関係 省庁、関係都道府県の情報を統合し官邸に連絡する。災害の規模により国は警戒本部(海上保安庁長 官が本部長)、非常災害対策本部(国土交通省)を立ち上げる。実際の救助活動は関係事業者、指定 行政機関、地方公共団体および公共機関により行われる。

5、災害医療からみた海難事故

  通常の災害医療の流れ  洋上の災害医療の流れ
     発災          海難発生
     |            |
     救出           捜索
     |            |
   現場トリアージ        救出
     |            |
   現場応急処置         搬送
     |            |
 搬送トリアージ後方搬送    医療施設治療
     |
   医療施設治療

 洋上の場合、救助船などの船内で現場トリアージ、・応急処置が行われ、空路による搬送の為の搬 送トリアージが行われると考えられる。しかし、実際は捜索活動が難渋を極め、救出順に直接医療 機関へ搬送されるのがほとんどである。

 今後の課題としては捜索救助(search and rescue)に医療チームも同行し、救助直後より治療を開 始する体制(SRM)が必要になってくる。

6、洋上での急患搬送

 洋上救急体制:洋上の船舶内において傷病者が発生し緊急に医師の加療を要する場合に、海上保 安庁の巡視船・航空機により協力医療機関の医師・看護師などに急送し、救急処置を施行しつつ最寄の病院に搬送するものである。

 過去15年の洋上の疾病構造は1番が循環器系、2番が消化器系、3番が骨折。死亡例は循環器が圧倒 的に多い。

 また、大きな船舶には、応急処置ができる船舶衛生管理者が乗船している。しかしながら、注射 薬の全て、および内服薬の施行にあたっては必ず医師(または医療通信)の助言により施行しなけ ればならない。また、船員の生命の急迫の危険がある場合でも、時間的余裕があれば必ず医師に報 告し、かつ助言を求めることを義務付けている。

7、おわりに

 海難事故に対する予防策、対応策はハイテク化により格段の進歩を遂げているが、海難事故は人 為的災害の意味合いも強くこれからも完全に防ぎえないと考えられる。今後も起こることを前提に 対応策を充実すべきである。また、危険物の流出事故などに関しては、タンカーの大型化と航海の 頻度の増加を考えると、流出事故が起こる可能性はますます高く、船舶事業者、海上保安庁、関係 機関がいったいとなった対応策が必要と考えられる。


第5章 群衆転落の事故のメカニズム

(明石市民夏まつり事故調査委員会:第32回明石市民夏まつりにおける花火大会事故調査報告書  2002年1月、p.106-114)


I.群衆なだれの発生

 この歩道橋で発生した事故はそのメカニズムからいうと「将棋倒し」ではなく「群集なだれ」と いうものである。群衆なだれには将棋倒しに比べて 1)密度が10/m2以上で発生、2)転倒前から力が作 用、3)前から後ろに転倒、4)塊状に多方向に転倒する、という4つの特徴がある。今回の事故も証言 などによりその条件をみたしている。またその発生にはつぎの3つの条件が欠かせない。第一に、過 密による不安定な力の均衡の成立であることと、第二に、密集の中でつっかい棒をはずす役目をも つ「人のいないスペース」の成立であることと、第三に、その隙間への転倒を助長する「強い群衆 圧力」の存在である。

II.群衆なだれの誘因

 今回の事故では事前に3つの状況が生まれている。

  1. 対抗流の交錯:駅に向かう流れが会場に向かう流れを圧縮して、群衆の密度を高めたこと が要因の一つとなっている。

  2. 群衆圧力の波:寄せ波のような群衆圧力の波が繰り返されることで、過密な状態を打ち壊 して群集なだれをつくる要因となった。

  3. 小さな群衆転倒事故:今回の事故ではいくつかの小さな転倒事故が連続して起きたという 特色を持つが、ただしそれが直接的な原因となったかどうかは断定的なことはいえない。

III.群衆なだれの発生時刻等

 発生時刻や発生場所は今回の事故の発生の理解を助ける情報を含んでいる。

  1. 発生時刻:証言と現場のビデオ映像を見る限りでは20時45分までには、最初の事故はまだ 起こっていないことがわかる。

  2. 発生場所と発生範囲:1回目の転倒は、歩道橋の南端より北に25mの広い範囲でおっこてい て、転倒者は南端より北5mの所に集中している。それは二回目の転倒が南端より北5mの所を起点に して起こっていることのよい理解となっていいる。

  3. なだれに巻き込まれた人数:群衆なだれにより形成された小山の中心部の面積は、20〜30 m2と推定される。この面積に、推定される群衆密度を掛け合わせると、なだれに巻き込ま れたおおよその人数が300〜400人と推定できる。

W.群衆なだれのメカニズムからの原因考察

 群衆なだれは、極限状態の過密状態が作り出されたこと、それに加えてなだれの誘因となる隙間が 生み出されたことにより発生した。

  1. 過密群集の生成要因:その誘因は二つあり、歩道橋の南端部の階段付近で通行の阻害が起 きたこと、分断入場などの有効な群集規制がなされなっかたことの二つである。通行阻害の要因と しては夜店の設営とそこでの混雑が考えられる。

  2. 誘発隙間の生成要因:次の三つが考えられる。1)子供の転倒やうずくまり、2)群衆の 後ずさりや引き剥がし、3)西端のフェンス倒壊。1.については子供がうずくまったあとに転倒が 始まったとの証言があるが断定はできない。2.については、警察による群衆整理後いわゆる「戻れ コール」のあとになだれが起きたとの証言もあるが、断定はできない。3.については、1回目のな だれとの関わりが疑われるが、その作り出した隙間は大きくなく、それが誘因になったとは断定で きない。

 最後に群衆なだれを生み出す危険な過密状態が成立してそれが継続されると、その不安定さゆ えに、きっかけがなんであれ群衆なだれが発生するのは避けられないのである。それゆえに問題に すべきは、隙間がなぜできたかではなくて、なぜ危険な過密状態が作り出されたかである。


II 病院の施設・設備自己点検

(石原 哲・編著:病院防災ガイドブック、真興交易医書出版部、東京、2001、p.13-14, 21-27)


 災害時において、病院は医療救護活動の重要な拠点となることから、電気、通信、上下水道など のライフラインに大きな被害が生じても、限られた医療機能を最大限に活用して、負傷者への医療 救護活動を行うことが強く求められる。そのため、医療機能の確保に必要な施設・設備などの耐震 対策を講じるとともに、日頃から、施設・設備の自己点検を実施することが重要である。特に電 気、ガス、水道については設備の点検を定期的に行い、可能な限り耐震設備を備えておく必要があ る。

1. 水

 平常時の1日平均使用量を確認し、自院の給水方式、給水方法も確認しておく。

2. 受水槽および高置水槽

 水を一時的に蓄える受水槽は、ライフライン途絶時に有効である。また、飲料水のほか、雑水に 分けた複数の受水槽が確保されていればさらに有用である。新耐震基準以降の設置か否か、耐ス ロッシング現象構造になっているか確認する。

3. 水道の代替

 井戸水供給は可能か、既存の井戸水の水量・水質、受水槽簡易タンク、防火用貯水層・雨水など の注水設備、簡易浄水器などの保有、独自輸送手段、行政からの給水を確認する。

4. 電気

 受電方式、配電方式、据え付け、自家発電、非常用コンセントの識別、ポータブル発電器、蓄電 池設備、無停電電源設備、配電車の契約を確認する。

5. 医療ガス

 医療ガス会社との優先供給契約、酸素・笑気・窒素の備蓄量を確認する。

6. 通信

 厚生省が推進している広域災害情報システムへのアクセスが重要である。機関コード、所属、パ スワードは一度登録しておくことが必要で、日頃からアクセスしておくことが重要である。

  1. 電話回線、災害時優先回路、携帯電話、ファックス回線、インターネット回線、衛星携帯 電話および防災無線(複数の通信回路を用意しておくことと、平常時通信訓練が必要)を使用す る。

  2. ナースコール、館内放送、電話を非常電源に設置し、バッテリー内蔵型も考える。

7. 輸送手段

 病院救急車の確保、民間救急搬送会社の救急仕様車の活用、ヘリコプターの使用、水路、列車を 確認する。

8. マンパワー

 職員非常召集、地区医師会災害時連絡網、病院周辺在住の自病院以外の病院勤務医師らの支援態 勢、NGOの受け入れ、町会・自治会等相互応援協定書を確認する。

9. 酸素配管図

 酸素配管図は、全部署にわたり把握が必要である。中央配管が亀裂を起こした場合は、酸素ボン ベに切り替えが必要であり、部分的に損傷を受けた場合には、シャットオフバルブの閉鎖が必要で ある。よって、各部署の担当者が個々のシャットオフバルブ閉鎖でどの範囲が供給停止となるかを 把握しておく必要がある。


わが国における化学災害対応の現状と問題点

(奥村 徹ほか、救急医学 26:211-214, 2002)


【近年の化学災害・事故】

 化学工場での事故、搬送途上の事故、化学テロ、毒劇物混入事件などの故意による化学災害など がある。化学災害は汚染や危険を伴うが、消防関係者、警察関係者、医療関係者に二次被害がでる こともある。

【化学災害対策の現状】

  1. 経済産業省によってPRTR(pollutant release and transfer resister;化学物質排出量・ 移動量の登録)制度が2001年から施行されている。PRTRとは、事業者が、対象となる化学物質ごと に、環境中への排泄量や廃棄物などの移動量を推計により自ら把握し、国などに報告し、その結果 を何らかのかたちで集計し公表することである。

  2. 危険な化学物質輸送に関して、国連は「危険物輸送に関する国連勧告」を1957年に出して いる。この勧告では、数字を車体に表示することによって、積載する危険物、毒劇物が分かるよう にしている。日本は海上および航空機輸送に関しては国連勧告に従っているが、陸上輸送では国連 勧告を順守していない。また危険物質を運搬するドライバーは、運搬中の危険物質名と処理上の注 意を記したイエローカードを持参していることになっているが、実際には守られていないため、事 故発生時に運搬物質名の特定に時間がかかる。欧米のように車体に大きく運搬物質が一目でわかる 図案にして表示し、その場で迅速な対応がとれるシステムが好ましい。

  3. 現場での化学災害の対応では、医療従事者、警察関係者、消防関係者の連携が欠かせない が、これらが地域で一堂に会して化学災害対策を検討する場がない。今後は地域ごとに化学災害を 想定し、各関連機関が集結して、対策会議、シミュレーションなどを実施する必要がある。

【医療機関における化学災害対策の現状】

  1. 2000年1月に東京都および政令指定都市の消防機関、各都道府県の災害基幹医療センターに 化学災害対策の実態をアンケート調査した結果、消防機関では化学災害を想定していない機関は一 つもなかったが、医療機関ではまったく化学災害を想定していない施設が68.2%もあり、関心の低さ が目立った。

  2. 個人防護装備、廃液の貯留、臥位対応の除染の3条件を満たす集団除染システムをもってい たのは、医療機関、消防機関通じて皆無であった。消防機関では、集団除染を消防の責務とすべき かどうかはっきりしておらず、集団除染の責任の所在を明確にすることが必要であると思われた。 そこで平成13年に内閣官房から都道府県に出された通達によって、現場除染は警察と消防が共同で 行うべきであると明言された。しかし化学災害対策の負担や頻度を考えると、市町村の枠内での自 治体消防の責務というよりも広域的に考える必要もあると思われる。

【化学災害対策の基本】

 化学災害対策の基本となるのは、「化学物質による危険、汚染からの被災者、救助者、医療従事 者、医療機関を守る」という概念である。このための具体的な方法は以下のとおりである。

  1. 個人防御:病院における個人防護装備はレベルC(米国環境保護庁分類)防護服が使用されることが多い。

  2. ゾーンニング:汚染の強い順から、ホットゾーン(危険地帯)、ウォームゾーン(準危険地帯)、コールドゾーン(非危険地帯)に分けて区域分けし、往来を制限して汚染、危険を囲い込む考え方である。

  3. 避難誘導:欧米では非難の原則を、upwind(風上へ)、uphill(より高いところへ)、upstream(より上流へ)とする。

  4. 除染:ウォームゾーンにおいては除染を行う。除染には肉眼的除染(目に見える明らかな汚染をフーラーズアースなどの粉を使って吸着して拭い取ること)、乾的除染(衣服を着替えることによる除染)、水的除染(水を大量に使って洗い流す除染)の3つの方法がある。

  5. 検知:除染の過程では、まず汚染を評価し、除染後に汚染を再評価し、除染が適切に行われたか確認する検知が必要となる。


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