災害医学・抄読会 2001/11/02

チェックリストを用いた災害訓練の評価

井 青司、日本集団災害医学会誌 6:37-42, 2001


 災害訓練において「大地震が発生し、多数の傷病者が発生し、入院を要する傷病者を4施設 に搬送する」との災害想定に、4つの大量患者受け入れ施設から訓練評価を要請された。当 院の常備救護班員より、医師・看護婦・事務職各1名を1チームとして各施設にそれぞれ検証 チームを派遣した。その際、事前にチェックリストを作成し、これを用いて訓練評価を行っ たので、その有用性について報告する。

【チェックリスト作成に至る経緯】

 当院が訓練評価を依頼された背景には、当院が災害拠点病院として県下の公的病院の災害時 救護班要員訓練を毎年行っており、災害訓練に対する評価を得ていたことが挙げられる。し かし、実情として、今まで他の施設の訓練評価を行った経験がないにも関らず、同時に4施 設を検証しなければならないことになった。急遽チェックリストを作成し、検証班の打ち合 わせを行い訓練検証に臨んだ。

【チェックリスト作成の目的】

 チェックリスト作成の目的としては訓練施設に有益な助言を行うことを主眼とし、訓練評価 に不慣れな班員であってもこれを用いることで問題点の見落としを防ぎ、班員の個性や主観 に囚われず客観的評価を行うことにあった。以下に具体的な目標を挙げる。

  1. 訓練施設に有益な助言を行うこと
  2. 班員の個性に囚われず客観的評価を行うこと
  3. 訓練評価に不慣れな班員でもチェックリストを用いることで問題点の見落としを防ぐこと
  4. 施設間の比較検討およびデータベースとして保存すること

【チェックリストの内容】

 チェックリストに盛り込む項目としては訓練だけにとどまらず、災害に取り組む全体像をつ かめるようにと試みた。

  1. 施設の防災体制(防災マニュアル、備蓄食糧、医薬品リストの有無など)
  2. 患者受け入れ訓練自体の評価(職員の招集方法、職員の配置、現場指揮者の有無、対策本 部の機能評価、連絡調整、トリアージ正解率など)

 また、フリーコメント欄を設け、写真撮影など記録することを推奨したり、否定的見解で はなく建設的な肯定的評価を行うべきであるとする留意事項を加えたりするなどの工夫を入 れた。

【結果】

 結果として、チェックリストを用いることで見落としが少なかった。訓練時間などを考慮す ると、今後まだまだ、削除・追加・改変などの余地はあるものの、医師・看護婦・事務職の それぞれの立場から訓練を評価することは意義があることが確認された。今回の訓練に参加 した施設の事情は様々であったが、検証により以下の事項を共通して確認できた。

  1. 参加者は熱心に取り組み、トリアージの基本は概ね実施されていた。
  2. トリアージ・重症エリアなどの現場に指揮を行うオフィサーが不在であった。
  3. 施設内の対策本部の中枢機能(指示・連絡・後方支援の準備)が不十分で問題があった。
  4. 事務職の役割認識が不十分であった。
  5. 施設の建築構造に起因するものの、連絡・運搬・患者の動線などに問題があった。
  6. 訓練動員数が不十分であった。

【考察】

1.訓練評価の必要性とその方法

 災害訓練に対する評価は、他施設の評価を行うことへの苦手意識も手伝って、その多くが 単にいくらかの印象を述べるに過ぎない講評が多いように思われる。災害訓練後の検証や評 価について、その重要性は誰もが認めるものの、実際に評価に盛り込む項目や方法論につい ては、未だ標準となるものが示されていないのが現状である。

 一方、防災に強い関心を持つ施設では、独自に訓練を始めつつあり、災害拠点病院などに 助言・指導などの他に、訓練についても率直で厳正な検証を望みつつあるのが実感される。 災害拠点病院は他施設の行っている訓練の是非についての疑問に答えなければならない時代 を迎えている。これは、防災訓練の評価・検証の方法について真に標準となるものが必要と なってきたことを意味すると思われる。

 今回のチェックリストの作成による評価では見落としが少なかったことを考えると、検証 に不慣れな班員を時間的余裕のない状況で検証班として派遣するためには、評価に客観性を 持たせるという意味でチェックリストを作成した上評価することが最善と考えた。

2.職種別の評価

 それぞれ職種の異なる者を1チームとして派遣したのは、それぞれの立場でそれぞれの職 種の動きをよく把握できると考えたからであるが、結果としてそれぞれの立場でそれぞれの 職種の動きを注意深く検証することで共通の認識と職種独自の発見をしており、その狙いは 正しかったと思われる。

3.評価の標準化と個別化

 前述のようにチェックリストの使用によって評価に客観性を持たせることには成功した が、災害には多種多様な設定が必要であり、今後、それぞれの状況設定に応じて検証するた めのチェック項目やチェックリストが必要であると思われる。

 ただ、どの災害訓練でも共通に評価・検証しなければならない項目も存在するはずであ り、問題は、どの項目を重要と考えて盛り込むかにある。それにより、ある程度標準化され たチェックリストも作成可能かも知れない。


訓練での使用経験からみた本邦のトリア−ジタッグの問題点

溝端康光ほか、日本集団災害医学会誌 6:17-23, 2001


【トリアージ・タッグの統一モデル】

1.タッグの形状および寸法

2.タッグの紙質

3.タッグの形式

4.タッグ用紙の枚数

5.タッグに用いる色の区分

【記載方法及び記載内容】

 トリアージ・タッグの表面は、タッグのNo.や氏名、年齢、性別、住所、電話番号などを記載 し、トリアージ実施者またはその助手が記載する。トリアージ・タグの裏面は、災害現場や 収容医療機関等で医療従事者が搬送・治療上とくに留意すべき事項、あるいは、応急処置の 内容などを記載するようになっている。

【記載上の注意事項】

  1. トリアージを迅速に行うために、事前に、傷病者本人、家族、トリアージ実施補助者など が、指名、年齢、性別、住所、電話番号を記載する。
  2. 複写された文字(青色)と区別できる ように黒色のボールペンなどを使用する。
  3. 一時的に多数の傷病者がトリアージエリアに殺 到した場合は、トリアージ実施者は、氏名・性別・電話番号、トリアージに必要なNo.、トリ アージ実施年月日・時刻、トリアージ実施者氏名を記載し、同時にトリアージ区分にあった色 を残してもぎ取り、さらに区分を記載する。年齢、住所については、その後の応急処置の際 に記載するなど混乱を避ける配慮をする。
  4. 再トリアージの際には、実施者が必ず記載内容 について確認し、トリアージを実施する。

【記載情報】

 トリアージ・タッグがいかに優れたものであったとしても、災害時の混乱した状況下では、 トリアージ・タッグへの記載情報そのものが不十分になることが否めない事実である。した がって『トリアージ・タッグの記載情報を完結させるのは記録者自身である』という認識を常 に持つことが求められる。また様々な理由で記録が十分にできなくなるこがあり記載の優先 順位を決めることが重要である。優先順位は以下のとうりである。1)氏名>2)性別>3)電話 番号>4)年齢>5)住所

【トリアージの変更】

 トリアージは一度だけ行えばよいというものではなく、時々刻々変化する傷病者の状態に合 わせて、様々の局面で、必要に応じて何度でも行うことになる。


第6章 コソボ:人道援助機関にとってのクロンダイク(ゴールドラッシュ)

国際赤十字・赤新月社連盟 世界災害報告 2000年版 p.110-127


 北大西洋条約機構(NATO)は、アルバニア系住民に対して 犯した戦争犯罪で起訴されているスロボダン・ミエロビッチ大統領率いる セルビア系中心のユーゴスロビア系政府に対し、この半世紀の間ヨーロッパ大陸で 前例のない厳しい爆撃を行った。この紛争により、100万人以上の難民がコソボを 離れざるを得なかった。

 しかし、初期の人道援助は、多くの意味において、現代ヨーロッパの難民危機に おいて、十分に対応できるものではなかった。集中的なメデイアの報道により、 数百の援助機関がコソボに群がり、また、各NATO加盟国の人道的、政治的 関心とあいまって、支援活動の調整は困難であった。「コソボでは、様々な 人々が事業を展開しており、さながら人道援助機関にとっての クロンダイク(ゴールドラッシュ)のようだ」と赤十字国際委員会保健医療担当 調整官、フォーク・ランペンは語った。

<調整の欠如で生じた混乱>

 1999年初めに何万という難民がアルバニア、マケドニア、モンテネグロに 脱出を開始した時には、その危機の規模が余りに大きく、初期の 人道援助は対応できなかった。それでも、いくつかの援助機関は、 難民救助のために数日で現場に到着した。しかし、国連を含む 国際援助機関は、近いうちに大規模な危機が発生するという警告が十分 なされていたにも関わらず、効果的な援助を開始するまでにNATO と同じくらいの時間内を要した。

 さらに、最も問題とすべきことは、これまでの緊急事態と同様、 国連およびNGOによる人道活動の効果的な調整が行われなかった ことであろう。そのため、救援活動や物資の重複が生じたり、 多くの団体のプロジェクトが不適切で短期間に終わったり、実際 必要数の2〜3倍ともなる海外からの医療チームの過剰が 生じるなどの問題が発生した。また、不適切な医薬品が企業や ドナーから大量流入してくるという特殊な状況の中で、 製薬会社が不要な在庫を処分するために、人道危機を利用すると いうような事態まで発生した。

 以上の状況により、WHOはNATO軍による空爆に先立ち、 WHOの緊急援助部門が行った保健医療ニーズの事前調査に基づき、 コソボ危機における公衆衛生支援の調整を行った。

 以上の事態より、今回の対策の問題点を考えてみる。

<調整の改善点>

  1. 倉庫、輸送、通信などの共有資源に優先順位をつけ、異なった 援助提供者の援助物資などの供給を連携させる。

  2. さまざまな期待や解釈を避けるため、主導的役割を担う援助機関の 役割を明確にする。

  3. 突発型の危機に効果的に対応するために、他の機関からのスタッフを 一時的に動員できるような「緊急対応のメカニズム」の仕組みを 検討する。

  4. 他の人道援助機関との事前協定および資金拠出の義務化によって、 より強力な調整機能を果たす。

  5. 軍と共同で緊急対応策を構築することにより、情報の共有をはかる。

  6. 調整は十分に訓練されたスタッフが行う。

 コソボでは、現在緊急事態は脱出できたが、長期的フォローが必要な様々な問題が 出現している。そのため、現在の問題点とその対策を考えてみる。

<コソボの現在の問題点>

  1. 過剰な援助が外国からの支援への依存体質をさらに助長している。

  2. NGOの多くは長期的な人道援助の経験に乏しく、ほとんどの援助機関は1 年以上滞在することはない。

  3. トラウマ(心的外傷)に対処する専門的手法の調整が必要であるため、 長期間対応可能な現地の専門家を適切に訓練することが重要である。

  4. アルバニア系の人々もセルビア系の人々も、他方の医師の治療を拒否するなど の、民族的警戒が回復を遅らせている。

  5. 大部分を補助金に頼っている福祉制度から脱却し、健康保険制度を取り入れられる ようにする。

<今後の方針>

 現在のコソボが直面する主要な問題は、持続可能な公衆衛生サービスを構築するため、 いかにして過剰な国際的な緊急援助から脱皮するかということである。コソボの 保健医療制度は、歴史、紛争、および善意の援助という三重苦から解放されなくて はならない。この制度は費用負担者、スタッフ、受益者により再構築されなくてはいけない。 国際社会の役割は、コソボの人々がこの地域の長期社会経済ニーズに現実的な方法で 対応できるように、手助けすることである。


第5章 チェルノブイリ:長期にわたる災害

国際赤十字・赤新月社連盟 世界災害報告 2000年版 p.92-109


 世界最悪の原子力事故として知られる爆発事故が、1986年4月26日、現在のウクライナ北部の チェルノブイリ原子力発電所で起こった。この爆発により推定1億5,000万から2億キュリーの 放射能が大気中に放出され、700万人以上が住む約15万5,000平方キロメートルの地域が汚染 された。事故から約15年たち、チェルノブイリはメディアの関心対象ではなくなってきた が、この事故で被害を受けた人々の体・心・生活に与えた影響は大きく、現在でも非常に多 くニーズが満たされないまま残っている。

身体への影響

 事故後拡散した危険な放射能物質としてヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90、プル トニウム239などが挙げられる。

ヨウ素131半減期8日で、甲状腺癌の原因となる。
セシウム137消滅まで今後300年かかる。食物連鎖に入り込み、野生食物に蓄積する。
ストロンチウム90分解に西暦2266年までかかる。骨髄を冒す。
プルトニウム23924万4000年存在し続ける。塵として吸い込むことにより肺癌を引き起こす。

 現在チェルノブイリ事故が原因とされる唯一明白な病気は、ヨウ素131を原因とする甲状腺癌 である。チェルノブイリ事故の影響を受けた地域における、事故前の甲状腺癌の年間報告例 は、100万人に0.5件から1件であった。事故後この内いくつかの地域では、甲状腺癌が100倍 まで急増した。

 甲状腺癌の発生率が急増した原因として、チェルノブイリ付近の地域性も挙げられる。この 付近では昔からヨウ素欠乏症が多くみられ、人々の体は放出されたヨウ素131を吸収しやすく なっていた。最も被害を受けたのは、胎児と事故当時4歳未満であった子供たちで、両者をあ わせると甲状腺癌患者の42%にものぼった。彼らの被爆理由として、事故当時汚染されてい ない食料が手に入りにくく、汚染した牧草を食べた乳牛のミルクを飲むしかなかったこと、 予防用のヨウ素錠剤の備蓄が無かったことが挙げられる。事故後、生乳飲用が即座に停止さ れ、ヨウ素錠剤が予防策としてただちに配布されていれば、甲状腺癌の発生の急増は予防で きたかもしれない。また、甲状腺癌は早期に発見して治療すれば、治癒率は95%にのぼる。 現在までにいくつかの都市では健康診断が実施されてきたが、今後の課題は都市より離れた 地域に住む人々にも十分な検査・治療を提供できる活動を行っていくことであると考えられ る。

 現在チェルノブイリ事故との明らかな関連性が示されているのは甲状腺癌のみである。しか しチェルノブイリの被害を受けた人々では、白血病の発生率も全国平均の4倍にのぼってお り、広島・長崎での原爆投下後初めにみつかった癌の症例が白血病であったことからも、白 血病発生率の増加へのチェルノブイリの影響を否定することはできない。

 チェルノブイリ事故は、甲状腺癌発生率の増加、白血病発生率の増加にととまらず、他の癌 や先天異常、妊娠期の異常の増加にも影響していると言われている。

2.心への影響

 チェルノブイリ事故後、当時のソビエト政府は、情報を提供することにより集団パニック が引き起こされることを危惧し、情報を隠蔽した。しかし十分な情報を得られないまま避難 生活を送ることは、人々に心理的ストレスを与えることとなってしまったのである。さらに 1991年、ソ連という国は崩壊し、独立共和国となった。一生保障されていたことが突然過去 のものとなり、自由市場システムに取って代わられたのである。この政治体制の変化は、 人々の生活を困窮させ、よりいっそう心理的ストレスを与える結果となった。チェルノブイ リ事故発生の結果、300万もの人々が慢性的なストレス障害に苦しんでいる可能性がある。あ る報告によれば、汚染地帯から避難した子供達が神経精神病にかかる率は、10倍から15倍に 増加したとも言われている。現在も人々は政府に対して不信感を抱いている。そしてこの不 信感は、未だ解明されていない放射能の影響について様々な憶測をもたらし、パニックを長 引かせているのである。現在ではこれらの事態をうけ、人々に状況を理解してもらい、生活 の質の改善をはかるためのボランティアが行われている。他の多くの人道支援事業とは異な り、心のケアプログラムは目に見えない援助であるため、結果が現れるにも時間がかかる が、こういった努力を続けていくことがこれから大切になってくると考えられる。

3.生活への影響

 チェルノブイリ事故での放射能による土壌汚染は、木々を枯らし、水を汚し、大地を汚染 した。結果、農業生産はほとんど不可能となり、住民の栄養摂取事情もかなり悪化してい る。新しい政治体制の下、奮闘しなければならない過度期の国々の将来は大きく損なわれた のである。

[学生の考察]

 事故はほんの一瞬の油断で起こり得る。日本でも、1999年9月30日、東海村の原子力施設で 過去最悪の原子力事故が発生した。事故や災害は、その緊急事態が去ると、関心が薄まって いく傾向がある。しかしその爪跡が我々の人生よりもはるかに長く残っていくことを忘れて はならない。1986年に子供だった人々が年齢を重ねていく間、放射能による発癌の危険性は 消えないし、その子供にも何らかの影響が現れるかもしれないのである。私たちは、チェル ノブイリ事故、東海村事故を知るものとして放射能が人々にもたらす身体的影響、精神的影 響をこれからも学び続けなければならないし、これらの人々に適切な援助を提供していかな ければならない。

「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」および 「原子力災害対策特別措置法」について

月刊消防


 平成11年9月30日に東海村の核燃料加工施設において、わが国初の臨界事故が発生 した。同事故の教訓を踏まえ、このような事故が再び起きることのないよう、 安全規制体制の抜本的強化を図ると共に、万が一の事態に備えた万全の原子力防災 体制を構築するため、「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」および「原子力災害対策特別措置法」が、慎重な審議を経て平成11年12月13日に可決、 同年12月17日に交付された。「炉規制法一部改正法」は平成12年7月1日に施行された。

「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」概要

  1. 原子力施設のハード面にかかわる規制の強化

    • 加工業者に対し、定期検査、解体届出などの規制項目を追加した(第16条)

  2. 原子力施設のソフト面にかかわる規制の強化

    • 現行の定期検査ではチェックしにくい保安規定の遵守状況について、国が定期的に ソフト検査を行う(第12、22、37、43、50、51、56条)

    • 前記のソフト検査に関する事務に従事するものとして、科学技術庁および通産商業省 に原子力保安検査官を設置する(第17条)

  3. 現場における安全文化を高めるための規定

    • 全事業に対し、原子力事業者が核燃料物質の取り扱い等に関する保安教育を 従業者に対して施す義務を法律上明記した(第12、22、37、43、50、51、56条)

    • 従業者の安全確保改善提案制度の創設。原子力事業者がこの法律またはこの法律に 基づく命令の規定に反する事実がある場合に、従業者はその事実を主務大臣に 申告することができる。ただし、原子力事業者は、申告をしたことを理由に 解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない旨規定した(第66条)。

「原子力災害対策特別措置法」概要

  1. 初期動作の迅速化、国自治体の連携強化に関する規定

    • 一定の事象が発生した場合に、直ちに市町村長、都道府県知事および主務大臣への 通報を事業者に義務づける。これに対し、主務大臣は、都道府県知事または 市町村長から要請があった場合、速やかに職員を派遣する(第10条)

    • 主務大臣は、原子力事業者等から異常な水準の放射線量の検出等の報告を受けたときは 初期動作を開始し、あらかじめ定められた手順に従い、直ちに内閣総理大臣に報告する(第 15条)

    • 内閣総理大臣は原子力緊急事態宣言を発出し、緊急事態応急対策を実施すべき区域や 緊急事態の概要を公示すると共に、関係市町村等に避難等必要な措置を指示し、 同時に本部長として「原子力災害現地対策本部」を設置する(第15、16条)。

    • 国は現地に、「原子力災害現地対策本部」を設置し、国と自治体の現地対策本部の連携 を高めるため、オフサイドセンターに「原子力災害合同対策協議会」を設置する(第17、23 条)

    • 主務大臣は緊急時における応急対策の拠点となる施設としてオフサイドセンターをあらかじ め指定する(第12条)

    • 国が作成する計画に基づいて、国、自治体、原子力事業者等による総合防災訓練を 実施する(第13条)

  2. 国の体制強化に関する規定

    • 防災にかかわる事業者への指導、緊急時における情報の収集等をおこなうため、 科学技術庁及び通産産業省に原子力防災専門官を置き、原子力事業所の 所在する地域に配置する(第30条)

    • 原子力災害対策本部長(総理大臣)は関係行政機関、関係自治体に対し、 応急対策について必要な事項を指示することができる(第20条)

    • 原子力災害対策本部長(総理大臣)は防衛庁長官に対し、自衛隊の派遣を 要請することができる(第20条)

    • 原子力安全委員会・調査委員の技術的助言を法的に位置づけた(第20条等)

  3. 原子力事業者の防災対策上の責務の明確化に関する規定

    • 通報を行うために必要となる放射線測定設備の敷地内への設置及び 記録の公表を義務づけた(第11条)

    • 異常事態の通報を義務づけた(第10条)

    • 「原子力事業者防災義務計画」の策定、原子力災害の発生または 拡大を防止するための原子力防災組織の設置及び これを統括する原子力防災管理者の選任を義務づけた(第7、8、9条)


 原子力災害には以下のような特性がある。

  1. 五感に感じられない放射能汚染等に対し、迅速に広域的措置を講じることが必要である。

  2. 災害対応を実効的に行うための特別な訓練や装備、専門家の助言が必要である。

  3. 災害の拡大防止のためには、事故の原因者でありその施設について熟知している原子力事業 者の責務の明確化が必要である。

 上記2つの法律の整備により、より早く事故情報を得、原子力事業者からの情報で 事故の規模の大きさや二次災害の可能性の有無を確認することができれば、 被ばく者をより少なくし、また治療開始時刻を早めることができる。 原子力事故は万が一にも起こってはならないが、事故がおきないとは 言い切れない。万々が一の事故のための対策を各医療機関においても 練っておくことが必要ではないだろうか。


トルコ・マルマラ地震被災地の実情について

山下 亮、月刊消防 22巻 8号(通巻 252号)p.50-55, 2000


 1999年8月17日に発生したトルコ・マルマラ地震は17000人以上の死者と多くの行方不明者を 出した。各国からの被災地への国際支援やボランティア団体の活動など、衣食住への継続的 な様々な支援活動が行われてきた。 トルコ地震被災地支援調査団の見聞では行政や民間団体等の応急対応について学ぶべきもの は多かった。

 トルコ・マルマラ地震の発生して直ちに被災地で救助活動を組織的に行ったのは救命ボラン ティア組織であり、救助救急組織としての消防組織ではなかった。トルコの消防隊員の総数 は18678人とのことであるが、自治体に属して公務を行っており活動は限られた範囲にとど まっている。

☆ ☆

 これについてトルコ大使館から提供された資料では以下のように説明されている。

 トルコにおける自然災害に対する救助支援組織としては市民防衛隊が存在している。トル コ・マルマラ地震でもこの組織は活動している。指揮系統が整うまでに多少の時間がかかっ たが3時に起こった地震に対して7時30分には被災者の救助活動をはじめている。 市民防衛組織の組織内容としては内務省に直属しており、中央においては順番に大臣、次 官、副次官および市民防衛本部長、地方においては県長官(官選)、市長官(官選)が責任 者である。

 市民防衛組織の隊員教育は市民防衛学校で行われている。

 隊員以外への教育は地方市民防衛組織の講演で行われている。また国民教育省に属する学校 では市民防衛が授業の中で教えられている。

☆ ☆

 また、あるマスコミの人がどのように震災を見ていたかについては以下のように説明されて いる。

〇地震教育について

〇地震時の政府の対応について

〇地震後の政府について

〇トルコ人の地震時の対応について

トルコの建物について

トルコの赤十字社について

総括

 政府の発表では地震の4時間後から消防組織が行動していたとあるが現実には一番早かった行 動を挙げていると思われ、市民の感じるところとはかなりずれがある内容になっている。こ のことは日本でも同じだと考えられ、大規模な組織では指示系統がしっかりするのに時間が かかるため、災害時の救命活動には非政府組織の活動や地域単位での組織のほうが適してい ると考えられる。地域単位での組織活動を展開するためにも地震教育などの災害教育は大切 なものだと考える。


災害時の避難者に対する心理的支援プログラム

槇島敏治:日本集団災害医学会 6: 31-36, 2001


 災害発生時において、長期間にわたり避難所での生活を強いられる避難者の心理的・身体的 ストレスは計り知れないものがある。近年では阪神・淡路大震災後の避難所生活において大 きな問題とされた。以降「災害時の避難者に対する心理的支援プログラム」の作成が求めら れ、日本赤十字社(以下日赤)において研究されてきた。

 その研究をふまえ、平成12年3月31日の有珠山噴火に伴う避難者に対して、日赤にとって初め ての系統的に組織された心理的支援活動が実施された。 その活動の具体的内容・結果を分析・評価することは、心理的支援プログラムを改良するた めに必要不可欠であると考えられる。

【初期調査】

 平成12年3月27日に始まった有珠山周辺の火山性地震の活性化に伴い、3月29日には周辺住民 に避難勧告が発令され、住民は数ヶ所の避難所に分かれて避難した。この中で避難者の多 かった伊達市のカルチャーセンターとコミュニティーセンター、および長万部市のスポーツ センターについて調査をおこなった。

 調査の結果、行政の指示により生活する上での基本的な援助はあったものの、 プライバシーが保てない・床が硬くて眠れないといった避難生活そのものから来る問題、自 宅などの財産に対する被害の問題、情報不足による将来への不安という問題がみられた。

【具体的プログラムの作成】

 初期調査の結果をふまえ、伊達日赤病院に「心のケア・センター」を設置し、心理的プログ ラムを作成した。避難者のストレスは前記の3つが中心で、比較的均一なものだったが、それ に対する反応は個人によって異なる。よって、心理的支援の手段も集団を単位として行える ものから個人ごとに行うべきもの、そして専門家の介入の必要なものとがあると考えられ た。

 そこで下記のように3段階の心理的支援のプログラムを作成した。

  1. MASS CARE

    ストレスが軽度で自覚していない避難者を対象に、健康教室やレクリエーションを通じてス トレス発散・身体的疲労の解消を図る。

  2. PRIVATE CARE

    ストレスによる身体症状がある患者・MASS CAREでは対応が不十分と考えられるストレス症状 が高い避難者を対象とする。医師・看護婦のほか、心理療法士・カウンセラーをはじめ理学 療法士・作業療法士が避難者に対して個別にケアを行う。

  3. SPECIAL CARE

    自発的に心理的支援を求める者・よりストレス症状が強い避難者を対象とする。 臨床心理士による電話無料相談・精神科医師による個別治療を提供する。

【プログラムの実施】

MASS CAREとしては、

週数回のレクリエーション会
子供や老人を対象に遊びや会話の相手をする(不特定に対し)
健康教室(健康体操の指導)
ストレス解消法のプリントの配布 等が実施された。

PRIVATE CAREとしては、

マッサージ
会話の相手をする(ストレスが高いと思われる避難者に対し)
カウンセラーによるカウンセリング 等が実施された。

SPECIAL CAREとしては前述のように、

臨床心理士による電話無料相談
精神科医師による個別治療を提供する 等が実施された。

【考察】

 今回、避難が行政の避難指示により同時に行われたため、避難者の境遇はほぼ一定であり、ストレスの程度も均一に近いと推測されていた。このことは支援計画を立てる上で好都合であった。しかし時間の経過とともに避難指示が解除になり一時帰宅が許される避難者がでる一方で、自宅や畑に噴火の直接被害を受ける避難者も生じ、受けるストレスに差がでてきた。こうした状況の変化に合わせて、心理的支援プログラムを逐次修正していく必要があった。よって今後は、あらかじめ修正を視野に含んだ柔軟なプログラム作成が望ましいと言える。

 心理的支援プログラムの実施にあたって、MASS CARE ・PRIVATE CAREに関しては、ボランティアや学生、理学療法士や作業療法士など幅広い職種の多くの人々の協力により、多彩な支援が可能となった。心理の専門家のみが支援にあたったならば実施は不可能であったことは容易に予想される。

 一方より高度なPRIVATE CARE、またはSPECIAL CAREに関しては、十分な対応ができていないのが現実である。それらを実施するには一定以上の技能を持った人間が求められるが、現在は人数・技能ともに不足している。実際の支援活動の大部分をボランティアに依存している現状で、今後より多くの被災者に対応するためには、平時から心理的支援の専門ボランティアを養成し、人数を確保しておくことが重要だと思われる。


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