越智元郎1)、冨岡譲二2)、坂口秀弘3)、石原 晋4)
1)愛媛大学医学部救急医学、2)日本医科大多摩永山病院救命救急センター
3)熊本赤十字病院麻酔科、4)県立広島病院救命救急センター
(1999年6月1日、救急医療メーリングリスト(eml)有志)
第2回目の脳死臓器移植が実施された直後の5月15日、日本救急医学会中国四国地方会において、担当医として初回の脳死臓器移植 に関与された西山謹吾医師(高知赤十字病院救命救急センター)の 講演を聞く機会を得た。
西山医師が講演の中で強く強調されたことは、報道陣の無神経な 報道姿勢によって、患者および家族のプライバシーがおかされ、診 療を遂行する上でもいくつもの障害を生じたという点であった。そ の最たる例は、ほぼ公的な報道機関といっても過言ではないNHK (日本放送協会)が、臓器提供者の住所を町名まで報道したことによって、 患者が事実上特定されてしまったことであった。不当に公表された情報はまさに救急医 が責任を負うべきドナー側の情報であり、その後の報道加熱 につながったNHKのこのような報道姿勢に対しては、一救急医である筆者自身強い憤 りを禁じ得ない。同時に、筆者が所属する日本救急医学会として、 明確な抗議の姿勢を打ち出していただく必要があるのではないかと 思い至った。
一方で、1997年に脳死移植法案が成立した後に、脳死移植に関する報道の ルールを作るために報道機関、厚生省、日本救急医学会などが協議の場を設け た。この際、日本救急医学会としてはリアルタイムでの情報開示はすべて不可 とする立場を取り、報道機関の要望とは合致せず、何らかの発表ルールのとりまとめには 至らなかった。このことが、その後の脳死移植の現場における混乱のもととなっていると いう意見もある。
上記のように、発表・報道の一定のルール作りのための事前の協議がまとまらなか ったことについて、われわれ日本救急医学会の側にも一部の 責があるのではないだろうか。第1、2例の経験を踏まえて、今後 二度と臓器提供者や家族のプライバシーが踏みにじられるような事 態を避けなくてはならない。日本救急医学会としては、再度厚生省 や報道機関に呼びかけ、患者のプライバシーを守り、同時に適切な 情報開示をするための具体的な手順等の作成を急ぐべきであろう。
なお本論議は「救急医療メーリングリスト(eml)」において取り
上げられたものであり、以下のインターネットサイトにその詳細が
収載されている。
http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/99/j6hodo.htm
越智元郎、玉木基之、安行由美子、東藤義公、若林 正、冨岡譲二
日本放送協会(NHK)は来年には放送開始75周年を迎えると伺っています。この間、貴局がわが国の公共放送として果たしてこられた役割は大きく、その放送内容は私共国民の目から見て大変安心のできるものでした。ところが本年2月、高知県における脳死移植に関する貴局の報道姿勢は、私共のこれまでの信頼を揺るが
す、ある意味でショッキングなものでした。以下は私共、救急医療関係者のインターネットを介した意見交換の場である、救急医療メーリングリスト(eml)での論議をまとめたものですが、ご高読の上、ご検討をいただきたくよろしくお願い申し上げます(1999年6月26日発送)。
第2回目の脳死臓器移植が実施された直後の1999年5月15日、日本
救急医学会中国四国地方会において、担当医として初回の脳死臓器移植に関与された西山謹吾医師(高知赤十字病院救命救急センター)の講演を聞く機会を得ました。
西山医師が講演の中で強く強調されたことは、報道陣の無神経な報道姿勢によって、患者および家族のプライバシーが侵害され、診療を遂行する上でもいくつもの障害を生じたという点でした。その最たる例は、ほぼ公的な報道機関といっても過言ではないNHKが、臓器提供者の住所を町名まで報道したことによって、患者が事実上特定されてしまったことでした。不当に公表された情報はまさに救急医が責任を負うべきドナー側の情報であり、その後の報道加熱につながったNHKのこのような報道姿勢に対しては、私共は強い憤りを禁じ得ません。
NHKに対してはその後多くの批判が寄せられたとお聞きしています。しかし、NHK中央放送番組審議会、四国地方放送番組審議会
(ともに3月開催)の記録を見る限り、「マスコミ報道に対する批判」として一括りにまとめておられるに過ぎません。この記録の中には、
公共報道機関であるNHKが他にさきがけて、臓器提供者や家族が特定されうる情報を繰り返し報道したことについて、何らの謝罪も載せ
てはおられません。また、どのような状況においても臓器提供者が特定されることがあってはならないという、臓器移植の特殊な状況につ
いて理解を欠いていたNHKの現場担当者や責任者に対して、具体的な指導は行われなかったのではないでしょうか。
その後の第2、第3例の脳死移植報道において、NHKがその報道姿勢をより抑制のきいたものに変化させておられるのは、私共も感じ
ています。しかし最初の段階での自らの誤りについて、何らの自己評価も行わず、密かに内部での方針変更のみにとどめてよいのでしょう
か。NHKが今後の脳死報道をすべて適切に実施されたとしても、
100年後の歴史評価においては第1例の脳死移植報道の嵐の中で
公共放送NHKが国民の幸福を平然と侵害する態度を示したことは、
報道機関の自己中心性の好例として記録されることになるのでは
ないでしょうか。
一方、1997年に脳死移植法案が成立した後に、脳死移植に関する報道のルールを作るために報道機関、厚生省、日本救急医学会などが協
議の場を設けられました。この際、日本救急医学会としてはリアルタイムでの情報開示はすべて不可とする立場を取り、これに対し報道側
はリアルタイムでの報道に固執し、結局事前の報道ルールのとりまとめには至りませんでした。このことが、その後の脳死移植の現場にお
ける混乱のもととなったと考えられます。
すでに4例の脳死移植が行われた現在においても、関連機関が歩み
寄り、適切な報道が可能となるようなルールづくりを目指す必要があります。NHKが各報道機関のよき取りまとめ役となり、再度厚生省
や日本救急医学会などに呼びかけ、患者のプライバシーを守り、同時に適切な情報開示をするための手順等の作成への道を開くことが、脳
死移植報道においてNHKがおかした過ちを償うための最善の道ではないかと考える次第です。
なお本論議は「救急医療メーリングリスト(eml)」において取り上
げられたものであり、以下のインターネットサイトにその詳細が収載されています。
★皆様からのご意見をweb担当者までお送り下さい。 2.NHK脳死移植報道に関する疑問
―NHKへの意見書―
http://ghd.uic.net/99/j6hodo.htm3.交信記録・脳死報道に関する論議(抜粋)
救急医療メーリングリスト(eml)より
★eml非公開ホームページ上の交信記録へ(要パスワード)