小児救急用テープ "pediatric emergency scale tape"(PESテープ)の試作

生垣 正*、遠山芳子*、杉本祐司*、二上 昭*
  遠山一喜**、山元康徳**、小泉千春**、山本 健***

*市立砺波総合病院麻酔科、 **高岡市民病院麻酔科、 ***金沢大学医学部麻酔・蘇生学教室

(麻酔 48:86-90, 1999、eml-9 1140)


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 目次

要旨   はじめに  1. 材料と方法
2. 結果  3. 考察   Abstract    参考

要旨

 小児救急傷病者に対して,身長の実測値から,使用器具のサイズや薬物投与量などを 推定する蘇生術用テープが考案されている。

 われわれはさらに改良を加えた小児救急用テープ (PESテープ) を試作した。本テー プから得られる気管内チューブのサイズ,チューブの挿入長および体重などの推定値 の信頼性を確認するために,実際の小児麻酔症例で検討したところ,ほぼ満足な結果 を得た。本テープは,小児救急傷病者を最初に治療する医師,看護婦,あるいは救急 救命士にとって有用である。


はじめに

 小児の薬物投与量や気管内チューブ(endotracheal tube: ETT)などの使用器具のサ イズは,年齢や体重によって異なる。他方,心肺蘇生術を必要とする救急にさいして ,年齢や体重が不明のことも多い。そのためAmerican Heart Association (AHA)1)は 蘇生術用テープの使用を推奨している。その理由として,ETTサイズおよび体重は年 齢よりも身長に相関すると考えられること1), 2), 3), 4),さらに体重から計算される薬物投 与量があらかじめ記載されていれば,蘇生術の際に,身長を測定することによって即 座に対応処置を知ることが可能になること1), 2)が挙げられる。

 われわれは,すでにアメリカで作製されている"BROSELOW PEDIATRIC EMERGENCY TAPE" ("Broselow Tape", ARMSTRONG MEDICAL INDUSTRIES, INC., Lincolnshire, IL., 1993 EDITION)を改良して,より使いやすい小児救急用テープ,"PESテープ"を 試作した。


1. 材料と方法

 "PESテープ"は幅10 cm,長さ180 cmである(図1)。テープを長軸方向に4つのゾーン に分割した。それらは,両端の"scale zones"と,中央の"devices zone"および" weights and dosages zone"である。

 "scale zones"は身長を測定するために1 cmごとに目盛りを印した。

 "devices zone"は,3.5〜6.5mmまで0.5 mm刻みの7種類のETT内径サイズ(ETT-ID, mm) に対応させて,7つの区画を設定した。各区画には,ETT-IDの他に,気管内チューブ 挿入長である口唇-先端長(lip-tip distance: LTD, cm),喉頭鏡サイズ,サクション カテーテルサイズ,尿道カテーテルサイズ,胃管サイズおよび血圧カフサイズを書き 込んである。以上のデータはLutenら3)の報告から引用した。

 "weights and dosages zone"は,身長を50 〜165 cmまで5 cm間隔の階級に分類し, 24の区画を設定した。各区画はその区画の中央値の身長における平均体重と,その平 均体重におけるアトロピン,エピネフリン,リドカインの静脈内投与量,および除細 動に使用する設定エネルギーの推奨値(ジュール)を記載した。平均体重の両側には ,その身長における体重分布の5%値(痩)および95%値(肥満)を記し,体格の評 価をもとに,これら3つの数値を参考にして,より正確に体重を推定できるようにし た。体重はGarlandら4)の身長体重換算表から引用し,薬物投与量と除細動設定値はAHA1)の推奨値から計算した。

 1996年11月1日〜'97年10月31日までに,市立砺波総合病院と高岡市民病院において気 管内挿管を行った小児の予定全身麻酔症例(n=45)を対象として,この「PESテープ」 の信頼性を検討した()。手術の2日前の術前診察時に体重,身長を実測し,性別 および生年月日を記録した。担当麻酔科医は,麻酔導入前に仰臥位で"PESテープ"を 患児の体側にあて,"scale zone"でその身長を測定した(図2)。気管内挿管は全身麻 酔のもとで,喉頭展開の4分前にベクロニウム(0.12 mg・kg-1)を静注して行った。 ETT-IDとLTDはテープの"devices zone"による指示値を選択した。なおETTは全症例カ フなしを使用した。

表."PESテープ" の試用の対象症例

対象症例:45症例(男児 24症例、女児 21症例)
年齢分布:3カ月〜11歳9カ月身長分布:53.0 cm〜145.0 cm
年齢症例数(男,女)身長症例数(男,女)
1歳未満4 ( 1, 3)70 cm未満4 ( 1, 3)
1〜4歳未満11 ( 4, 7)70〜100 cm未満11 ( 3, 8)
4〜8歳未満17 ( 8, 9)100〜120 cm未満16 ( 9, 7)
8〜12歳未満13 (11, 2)120〜145 cm未満14 (11, 3)


2. 結果

 「PESテープ」によるETT-ID指示値は45症例のうち,担当麻酔科医により36症例は適 切と判定され,2症例は太すぎ,7症例は細すぎると判定された。2症例は,挿管そ のものは円滑に行えたので,そのまま麻酔が継続された。術中,術後にとくに問題は なかった。逆に細すぎると判定した7症例のうち5症例では,テープの指示値より0.5 mm 大きいサイズの気管内チューブを再挿管した。残りの2症例はそのまま麻酔を続行 したが,問題はなかった。なお,38症例は鋼線入りチューブ(wire reinforced ETT: wrETT)を挿管したものである。

 "PESテープ"によるLTD 指示値は担当麻酔科医により,32症例は適切と判定された。5 症例で指示値が大きすぎ,気管支内挿管となった。気管支内挿管は聴診によって確認 し,適切と判断される位置までチューブを戻した。3症例において担当麻酔科医は, 指示値が小さすぎると考えたが,指示値どおりの挿入長で麻酔を維持した。麻酔中不 測の抜管等の問題は起きなかった。5症例は,LTD指示値の評価が記載されなかった 。

 全45症例のうち44症例では,体重の実測値は身長から予測される体重分布の5〜95% 値の範囲内であった。1症例のみは5%値よりも更に小さかった。


3. 考察

 小児救急蘇生用テープの制作を試みた。"Broselow Tape"との主たる相違は,身長を 実測する目盛りを書き込んだことと,体重の推定値の求め方として,身長だけではな く体格も考慮したGarlandら4)の5 cm 刻みの身長体重換算表を採用したことである。

 身長からの体重推定は,本来ならば本邦の小児から得られたデータを用いることが望 ましいが,厚生省ではこれに合致する統計は発表していない。われわれは,各年齢の 身長や体格は人種,地域,および時代などによって明らかに異なるが,身長と体重の 関係は,人種,時代などによって変わらないものと仮定しても大きな過誤はないと考 え,体重の推定に海外のデータを使用した。今回の試用の結果,痩や肥満の体格を考 慮すると,"PESテープ"によって臨床使用に十分な正確さで体重を推定できることが 確認できた。

 ETTサイズは,臨床的には外径が重要である。しかし,市販品は内径を基準にして製 作されている。そのため,同一内径であってもメーカーによって外径は異なる。さら にwrETTは同一内径の標準型ETTより,外径が0.3〜0.5 mm大きい。今回wrETTの使用が 多いにもかかわらず,適切なサイズ値とされた症例が多かった。このことは,"PESテ ープ"のETTサイズの指示値は標準型ETTの指示サイズとしてはやや小さいことを示し ている。しかし,素早い換気の開始が求められる救急においては,これはむしろ望ま しいことと考えられる。AHA1)も成人の気管内チューブでは,男子では8.0〜8.5 mm, 女子では7.5〜8.0 mm(ETT-ID)と小さい値を推奨している。こうした点を考慮すると ,小児の麻酔で通常カフ無し気管内チューブが使われるが,救急では細めのサイズで ,カフ付き気管内チューブを選択するのが望ましいのかもしれない。

 LTDの値について,Lutenらはその出典を示していないが,これらの値は奥山ら5)の報 告と矛盾せず,さらにETT-IDの30倍という記憶しやすい数字である。また範囲ではな く,一つの数字を提示する方が救急の場にはふさわしいと考えられる。試用した結果 は気管支内挿管症例はあるが,術中不測の抜管という事態はなく,ほぼ適切なLTD値 と考えている。なぜなら,心肺蘇生術では素早い換気が優先され,たとえ気管支内挿 管になったとしても,その後に聴診器などを用いETTを適切な位置に修正すればよい からである。

 われわれの施設では,"PESテープ"を救急外来で評価するほどの小児の症例はないの で,麻酔症例で「気管内チューブのサイズと挿入長」および「身長からの体重の推定 」に関してのみ検討した。薬物投与量に関しては,一般に体重から計算されるが,身 長から求められる理想体重によって計算すべきであるという意見もある2)。平均体重は必ずしも理想体重と言えないけれども近似値と考えることができるとすれば,この テープではいずれの考え方にも対応できる。すなわち,理想体重で投与量をきめるの であれば,身長に相当する区画の数値(図1)を選択し,体重に基づく場合には,推 定した体重に近似の平均体重の区画の数値を選択すればよい。なお,除細動の設定エ ネルギー量は体重に基づく方が良いと考えている。以上を考慮した上で,"weights and dosages zone"から所定の区画を選択すれば治療方針が立つであろう。

 心肺蘇生術を必要とする場合には,最初に対応するスタッフの処置が決定的に重要で あることが多く,しかも小児救急の専門医ではない場合が少なくない。それゆえ,的 確な対処方針を提示することが重要であり,"PESテープ"がその役割を果たすと信ず る。

 次に,このテープが実際に使われるためには,広範な普及が必要である。今後の検討 としては,小児救急だけではなく,成人をも含む1次2次救命処置を網羅したものに することを考え,テープの裏面に成人の救命処置を記載することを考えている。すな わち,救急に携わる医師,看護婦,救急隊員のみならず心肺蘇生法の市民講習会の参 加者にも役立つものにしたい。他方,救急用品や救急薬品メーカーの協力を得る方法 や救急車に常備されるようにする方法も考えていきたい。

 小児救急で心肺蘇生用の使用器具のサイズと薬物の初期投与量を即座に提示するテー プを試作し,実際の麻酔症例で検討し,その有効性を確かめた。予後に大きく影響す る最初の迅速な治療のさいに役立つものと確信している。

 本論文の要旨は,第44回日本麻酔学会総会(1997年,新潟市)で発表した。 試作品を作るにあたって,小野医療器株式会社と天池和行氏の御協力・援助に感謝し ます。


引用文献

1) American Heart Association : Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiac Care. JAMA 268 : 2171,1992

2) Lubitz DS, Seidel JS, Chameides L, et al: A rapid method for estimating weight and resuscitation drug dosages from length in the pediatric age group. Ann Emerg Med 17 : 576,1988

3) Luten RC, Wears RL, Broselow J, et al: Length-based endotracheal tube and emergency equipment in pediatrics. Ann Emerg Med 21 : 900, 1992

4) Garland JS, Kishaba RG, Nelson DB, et al: A rapid and accurate method of estimating body weight. Am J Emerg Med 4 : 390, 1986

5) 奥山みどり,今井真,菅原かおり,ほか:カフ触知法による小児における気管内チ ューブの固定. 麻酔 44:845,1995


Abstract

Prototype of a New Pediatric Emergency Scale Tape: PES Tape

Sei Ikegaki, Yoshiko Tohyama, Yuji Sugimoto, Akira Futagami, Kazuki Tohyama*, Yasunori Yamamoto*, Chiharu Koizumi*, Ken Yamamoto**

Department of Anesthesia, Tonami General Hospital, Tonami, 939-1395 and * Takaoka City Hospital, Takaoka, 933-0064, **Department of Anesthesiology and Intensive Care Medicine, Kanazawa University, Kanazawa, 920-8641

Drug dosage and appropriate size of medical equipments for emergency pediatric patients are determined by age, body weight and/or height. In an emergency situation, however, such information about the patients is not always clear. Body height is easily measured when the patient lies down supine. Furthermore, child's height could be a better parameter than age to predict appropriate endotracheal tube (ETT) size and body weight. We propose a new pediatric emergency scale tape (PES Tape). PES Tape is graduated in centimeters to measure body height in supine position. Height-based body weight, drug dosage, energy dosage for defibrillation, appropriate size of ETT and lip-tip distance (LTD) are printed on the tape.

We studied the reliability of this tape in pediatric anesthesia. Body weight estimated from the tape was accurate, and predicted size of ETT and LTD was appropriate. PES Tape is a reliable tool in pediatric emergency.


参考

表1.身長と気管内チューブサイズ、口唇―チューブ先端の長さ

身長(cm)チューブサイズ内径(mm)口唇-先端(cm)
58-703.510.5
70-854.012.0
85-954.513.5
95-1075.015.0
107-1245.516.5
124-1386.018.0
138-1556.519.5

(Luten RC, Wears RL, Broselow J, et al: Length-based endotracheal tube and emergency equipment in pediatrics. Ann Emerg Med 21 : 900, 1992)

表2.身長と体重の目安

身長(cm)体重(kg)
やせている平均太っている
50 2 3 4
55 4 5 6
60 4 6 7
65 6 7 9
70 7 910
75 81012
80 91214
85101214
90101416
95121416
100141620
105141820
110162025
115182025
120182030
125202535
130202540
135253045
140253550
145253550
150304060
155354570
160355070
165405070

(Garland JS, Kishaba RG, Nelson DB, et al: A rapid and accurate method of estimating body weight. Am J Emerg Med 4 : 390, 1986)


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