化学物質中毒1(7月13日 8:30-9:30 司会:若杉長英)


53 水素化砒素中毒の2例 

				    岩手医科大学高次救急センター  井上義博

症例lは44歳の男性で、平成4年7月16日作業中に全身倦怠感を認め排尿したと
ころ血尿であったため、近医を受診、地元の総合病院に紹介されたが治療法に苦慮し
、当科紹介受診となった。当科初診時著明なヘモグロビン尿を認め、ハプトグロピン
の投与と瀉血及び血液透析を行った。入院後は腎不全及び肺水腫が進行し連日の血液
透析によって状態を維持した。7病日から尿量は増加し、23病日には透析から離脱
した。その後も順調に改善して8月31日に紹介先に転院となった。症例2は37歳
の男性で、平成7年6月27日作業が終わって帰宅したところ赤色尿に気がつき次第
に鮮紅色となったため近医を受診、入院加療するが翌日には尿量の低下を認めたため
当科紹介受診となった。当科初診時著明なヘモグロビン尿を認め、ハプトグロビンの
投与と血液透析を行って入院加療となった。症状は次第に改善し,合併症もなく7月
7日に転院となった。


54  青酸による神経毒性に対するメラトニンの抑制効果について                           筑波大学社会医学系 唐海旺 青酸カリウム皮下投与により誘発されろマウスの痙攣に対してメラトニン(フリ一ラ ジカル捕捉作用を持つ松果体ホルモン)が投与量依存的に抑制することが判明した。 また、青酸カリウム投与マウスの脳内にはmalondialdehyde(MDA)およぴ4‐hydroxy alkenals〈4‐HDA)量の著しい増加が観察された。しかし、それらの増加はメラト ニン(20mg/kg, 皮下注)前投与によって完全に阻害された。一方、マウス脳ホモ ジネートに青酸カリウム(0.01, 0.05,又は0.1mM〉を添加し、37℃、2 0分間インキニベートするとMDAおよび4-HDA量が濃度依存的に増加し、そのM ADおよび4-HDA量の増加はメラトニン(2mM)の同時インキュベートによって完全に 抑制された。これらのことから、青酸による神経毒性(痙攣)発現にそのフリ一ラジ カル形成作用が関与している可能性が示唆された。


55  化学工場爆発によるクロル炭酸ベンジルエステルによる集団災害                   総合会津中央病院救命救急センター 小松孝美 1995年6月15日、会津地方で化学工場が爆発し,多数の傷病者が搬送された. 暴露化学物質は,クロル炭酸ペンジルエステルであり,本件の経験および今後の対策 を考察したので報告する.症例の内,一名はDNRと判断される爆死状態であり、猛 烈な刺激臭のため,病院内への搬人ができず,救命救急センター玄関の外で死亡確認 を行った。二名は本物質の・全身暴露による呼吸不全およぴ化学熱傷状態であった. 他の症例は,粘膜刺激症状を主とした軽症者であった.初療時の処置の特徴として、 病院内入室直前に衣服を全て脱がせ,最重症者から浴槽にて全身洗浄を行った.軽症 者には,シャワー浴を行わせ,化学物質の除去に努めた.これらの処置により,何と か通常の診療が可能となった.本件の経験より,防毒マスクの必要性を強く認識し, 有機ガス系,ハロゲンガス系に対応可能な防毒マスク,10組を常備した。現在、防塵 マスク着用下の診療およぴ看護の特殊性につき検討中である。


56 青酸のlipid peroxydation促進作用に対するするmixed function oxydase阻害剤 の影響                      筑波大学社会医学系 山本弘明 青酸カリウムによる脳組織への脂質過酸化(LP)作用のメカニズムを明らかにするた め、マウス脳ホモジネートを用いて、青酸カリウムによるmaIondialdeh yde(MDA)、 及び4-hydroxyalkenals(4‐HDA)の産生促進作 用に対るmixedhlnctionoxidase阻害 剤PiPeronylbut oxide(PB)又は塩化コバルト、及ぴxanthineoxidase阻害剤 allopu rinol(AP)の影響について検討した。青酸カリウム(0.1m M)は脳ホモジネート中 のMDA+4‐HDAレベルを対照に比べ、約2.1倍増加 した。しかし、その増加はPB(0. lmM)及び塩化コパルト(0.03mM)の 処理によって完全に抑制された。なお、青酸カ リウムのLP促進作用はAP処理によって 全く影響されなかった。これらの結果は、青 酸カリウムによる脳組織へのLP作用は酵 素的mixed function oxidation systemを 主に介して 行なわれている示唆している.


57  液体塩素漏出事故による塩素ガス中毒16例の経験  旭川赤十字病院救命救急センター 小瀧正年 1994年12月2日午前8時45分、市内のパルプ工場で液体塩素約970kgが 5分間で漏出。発生した塩素ガスで作業員ら約25名が受傷。うち男性13名、女性 3名の計16名が当センターを受診した。事故発生から約1時間で半数の患者が搬送 された。折しも、外来診療や予定手術開始直後で、救急外来には医師2名、看護婦3 名しかおらず、検査、治療、説明などの対応に苦心した。患者の主症状は咳、咽頭痛 、頭痛、呼吸困難などで、検査ではPaO2く70mmHgが7例にみられ、9例が 酸素投与を必要とした。重症5例を入院としたが、1例が入院を拒否した。その患者 は咳、発熱で近医通院後10日目に当院入院となった。5例の入院期間は最短2日、 最長23日で、幸い全員軽快退院した。しかし、中毒患者多発時の医療機関への患者 振り分けや入院用ベツトの確保などが今後の課題として残った。


58  急性一酸化炭素中毒における基礎的研究                     福島県立医科大学 麻酔科学教室 程 丹 一酸化炭素(CO)中毒モデルにおいてimmediate early genesの発現を検討した。【方 法】CO中毒モデルはWistar系ラットに一定濃度のCOを吸入させることで作成し、吸入 直後、15、30、60、120、180分後にCO-Hb濃度、動脈血ガス分析を行った。immediate early genesの発現はCO中毒作成直後、1、3、10、24時間後にラットの脳を取りだし 、各部位に分離した後液体窒素にて凍結。この標本からRNAの抽出を行い、ノーザン ハイブリダイゼーション法を用いて行った。【結果】CO-Hb濃度が50%を越えると死 亡率が80%以上となり、生存例ではCO吸入直後45.2%、60分後10.3%、180分後1.3% と漸減、PaCO2、pH、base excessは、CO吸入直後有意に低下したが60分後には前値に 回復、PaO2には有意な変化は認められなかった。immediate early genesは直後、1時 間後にcーfos mRNAの発現が認められたが、現在までのところ一定した結果が得られ ていない。


第18回日本中毒学会総会・抄録集(目次)
第18回日本中毒学会総会・会告