46 急性薬物中毒症例における血中濃度の一斉分析とその意義 山口大学医学部附属病院薬剤部 木本裕郎 【はじめに】処方薬の過量服用による急性薬物中毒症例の薬物血申濃度を一斉分析か つ経時的に測定し、I服用薬物の同定ならぴに体内動態値の推定を行った。【症例及 び経過】近医にて神経症、lアルコール依存症で加療中の息者。当院一内科では肝障 害の治療申。自宅で意識消失しているところを発見され緊急入院。入院時意識レベル はJCS300。処方薬の過量服用を疑い、l直ちにEPLC法により服用の疑われ る5種類の薬剤を一斉分析した。その結果、処方量から推定される値より高濃度のフ ルニトラセゼパム、アルプラゾラム、トリアゾラムが検出された。血中濃度解析によ り各薬剤の体内動態値と服用量を推定した。血中濃度の低下に伴い症状は軽快したが 、せん妄発現のため精神科に転科した。【考察】血中濃度の経時的追跡により、薬物 の種類および服用量の推定が可能となった。これらは、急性薬物申毒患者処置後の治 療に際し客観的な情報となると考えられた。47 オンライン分析依頼システムの開発 広島大学医学部法医学 屋敷幹雄 中毒起因物質の分析を行う施設に限りがあることから、責重な薬毒物による申毒症例 を経験したにもかかわらず分析を断念することが多々ある。中毒情報ネツトワーク( poison−ML)ではインターネットを利用して「中毒起因物質の分析依頼(テ スト中)」(http://yamato一www.med.hiroshima u.ac.jp/LegalMediclne/LMHOME.html)コーナ ーを開設した。ホームページから分析依頼項目に従ってキーインすることにより、 poison一MLメンバーは一括配信(ML)方法により中毒の概要や分析依頼化合 物を知ることが出来る。詳細については分析を希望する者が直接、l依頼者と交渉し 共同研究とするか有料とするかなどを決めることが可能である。poisonMLよ り分析希望者が現れない場合は民間分析業者等を紹介する。分析終了時には poison一MLに報告して、wwwの中に「症例紹介コーナー」として整理、保 存する。
48 中毒患者治療における分析の有用性 北里大学病院中毒センター 近藤留美子 <目的>当院救命救急センターに来院した中毒患者の中毒原因物質の分析を行い、分 析結果の治療への責献度の調査を行った。く対象及び方法>対象は1988年4月一 1995年6月に当救命救急センターに来院した中毒が疑われた意識障害の患者32 2名。患者の中毒原因物質を高速液体クロマトグラフィー、リセプターアッセー法な ど8種の方法を用いて分析し、治療への影響を調査した。く結果及び考案>中毒が疑 われた意識障害息者322名のうち、来院時に中毒に関する情報があった患者は26 8名(83.2%)、中毒に関する情報がなかった患者は54名(16.8%)であ った。中毒に関する情報がなかった患者では55.6%が分析結果により最終診断を つけることができた。一方、中毒に関する情報があった患者では78.4%が分析に より確定診断がなされた。確定診断がなされたうち14.3%が来院時の情報と分析 結果が一致しておらず、83.3%は治療法が変更された。変更により治療期間の短 縮、医療費の軽滅がみられた例が多くあった。以上の結果より、分析の有用性の一つ に遇剰な治療の減少が挙げられる。
49 中毒資料からのフグ毒(テトロドトキシン)の分析 福岡県警察科学捜査研究所 福島直 天然物による中毒のうち、フグ毒によるものも少なからず発生している。中毒の状況 としては自己過失のみならず、飲食店等において客に提供され発生するケースも多く 、我々警察機関に分析依頼される場合も多い。このようなフグ中毒患者から得られる 生体資料(主として血液、尿)について、我々はGC/MS(SIM)を用いてテト ロドトキシンの分析を行っている。この手法を用いれば、資料1m1に付き、数ng 程度から分析可能であり、中毒時の血中レベルにも十分対応出来るものである。しか しながら、抽出精製、誘導体化等にかなりの手順が必要であり、急性中毒時の迅速な 分析方法とは言い難い。そこで、尿を資料として若干の精製のみで同定を行い、初期 治療の一助とすることを目的として、新たに蛍光検出器付きHPLCシステムを導入 したので紹介する。又、この方法を実際の中毒患者から得られた資料に適用した結果 も合わせて報告する。
50 紙巻きタバコの二コチン含量と各溶液への浸出率 北里大学薬学部医薬研中毒部門 福本眞理子 タバコ誤食は、本邦において家庭で起こる小児の最も多い中毒事故である.中毒症状 を発現するニコチン量は2一5mgと言われているが、受診を促す目安となるタバコ 誤食量やタバコの二コチン含量は、文献によって記載が様々である.また煙中のニコ チン、タール量が低い製品も多く販売され、タバコ〈刻み)中のニコチン含量の変化 も予想される.さらに煙中のタール含量が広く宣伝されることから情報の混乱を招い ている.今回、紙巻きタバコ各製品中の二コチン量を確定する目的で、タバコからの 二コチンの抽出方法とHPLCによる定量方法を確立した.さらに水の入った灰皿、 缶ジュース等でのニコチンの経時的な浸出率について検討した.
51 FT-IRによる呼気中揮発成分の定性、定量分析への応用 I. 基礎的検討 香川医科大学麻酔・救急医学講座 塚本郁子 赤外分光分析は非破壊的に定性定量が行える簡便な方法である。しかし、水の存在が 禁忌であることから、生体試料への応用が遅れていた。近年のFT-IRの発達は水の存 在をある程度容認し、また感度の上昇をもたらした。今回、呼気中微量成分の分析を 目的として、FT-IR分光光度計に長光路気体用セル(Infrared Analysis Inc.社製光 路長:1.2-7.2m 、窓板:ZnSe、 容量:約500ml)を導入し、EtOH、toluene等の有 機溶媒について、定性定量性を検討した。気体試料の調整にはテドラー社製の気体 サンプリングバッグ(活栓付)とマイクロシリンジ(10μl)、500ml気体混 合用ガラスシリンジを用いた。EtOH は2988cm-1、toluene は3043cm-1の吸収が呼気 中の水蒸気や二酸化炭素の吸収と重ならず、また強度が強くて定量に適していること が確かめられた。検量線の直線性も良好で、測定感度は EtOH:1.6μg/l、toluene :87μg/l であった。
52 FT-IRによる呼気中揮発成分の定性、定量分析への応用 II. 健常者ボランティ アによる飲酒実験 香川医科大学麻酔・救急医学講座 西山 隆 薬物中毒患者の呼気には、中毒の原因物質や、あるいはその溶剤としての揮発性物質 が含まれていることがある。これを分析することにより、原因物質の同定や血中濃度 の推定が可能になれば、治療上有効であると考えられる。FT-IRは採取した呼気その まますぐに測定でき、測定時間も数分と短い。当研究室ではこれによる定性、定量性 を検討しているが、今回健常者を対象として飲酒後の呼気中エタノール濃度を経時的 に測定した。血液中濃度もガスクロマトグラフィーにより測定し、呼気中濃度との相 関性を検討した。 健常者20人(21ー33歳、男15人女5人)に12時間の絶食後、酒をEtOH量にして0.4g/ kgの割で飲んでもらい、0、15、 30、 60、 120、 180分後の血液と呼気を採取し EtOHの定量を行った。血液/ガス分配係数は飲酒後一時間ほどは小さく、その後2500 程度の一定値に落ち着いた。飲酒直後の小きな値は、呼気に消化管からのEtOHガス が混入したためと考えられる。