統計2(7月12日 9:40-10:50 司会:鈴木幸一郎)


7  神奈川県西部地域における中毒実態と間題点 

              東海大学病院薬剤部東海大学救急医学教室 鈴木優司

〔目的)神奈川県西部地域の中毒実態を検討し、その間題点と課題を明らかにした。
(対象と方法)1994年l月から1995年12月までの2年間に、県西部地域の
中毒患者が集中する当救命救急センターを受診した中毒症例429例につき検討した
。(結果・考察〕@中毒症例429例中、入院症例は144例で、死亡症例は8例で
あった。A入院症例の原因別内訳は、農薬23例(16.0%)、医薬品92例(6
3.9%)、他29例(20.l%)であった。B農薬中毒は、パラコート中毒8例
、有機リン中毒が12例、他3例であった。C死亡例は、パラコート中毒6例、他院
で心肺停止後に搬入された有機リン中毒2例であった。当地域は農業地域を抱え、パ
ラコート中毒患者の発生が絶えない。有機リン中毒死亡例は初期の適切な対応により
救命可能であった。今後、院内中毒研究会を軸にした治療法の開発と、診療・情報,
分析の地域中毒連携の強化が重要な課題であると考える。


8 法医剖検例における飲酒の関与について   東邦大学医学部法医学教室 星田美奈子 最近3年間に神奈川県下で発生し、当法医学教室で扱った法医剖検例(14〜98歳 ,3773例)の血中アルコール濃度を測定し、飲酒の関与について統計的に考察し た,アルコール検出率は、26.61%で、近年の検案対象事例の増加も関係して、 アルコール検出率は低下傾向にあるといえた。検出溝度は、低〜中等度(1.5〜2 .49mg/ml)が最多であったが、高濃度(2.51〜4.49mg/ml)の 検出例も多くみられた。最高検出濃度は、交通事故死例(56歳,女性)の10.2 5mg/mlであった‐他殺、交通事故死、自過失死例で飲酒の関与が高く、自殺、 病死例では低い傾向にあった.年代別では、40〜60歳代で多く検出され、特に5 0歳代に多かった,若年者は、低〜中濃度例が多く、中高年齢者では、中〜高濃度例 が多く観察された。いずれの死因においても検出率は、ここ15年で低下し、特に交 通事故死例での検出率は激減した結果が得られ、飲酒の関与度が時代の変遷により、 影響を受けていることが示唆された。


9  電話間い合わせからみた特異的経路による摂取事故について                      財団法人日本中毒情報センター 三好亮 【目的と方法]大阪中毒110番が1991年4月以降の5年問で受信した特異的経 路による摂取事故を対象に発生状況を調査した。[結果】総受信件数151件のうち 医療機関によるものが60.3%、一般市民からは39.7%であった。起因物質に 関しては医療機関からは医療用医薬品(43.01%)によるものが、一般市民から は家庭用品(17.8%)と医療用医薬品(16.61%)によるものが多かった。特 異的経路では医療機間と一般市民で差かみられた。医療機関からは静脈内投与が約半 数を占め、なかでも経腸成分栄養剤のケースが注目された。一般市民からは鼻腔内並 ぴに坐剤の膣内への投与ミスが目立った。受信時有症率については医療機関では約5 0%であり、一般市民では約30%と比較的少なかった。〔まとめ】特具的経路によ る摂取事故では単純ミスと思われるものが多く、医薬品では投与ルートの確認の徹底 が望まれた。


10  徳洲会グループにおけるプロムワレリル尿素中毒の統計報告                           徳洲会病院薬剤部 松村勝幸 方法:ブロムワレリル尿素中毒はその致死量。中毒量が低いことから重症化しやすい と言われている。我々徳洲会グループは1986年から1994年までに129例の中 毒症例を経験したが、その内最近6年間に搬入された76症例について統計処理を行 なった。結果:76症例中入院治療が必要となった症例は36例て、身体所見として 嘔気、対光反射消失、感覚障害の順に多く見られたが、無症状症例も多かった。全体 の約7書の患者が4g以下の服用であったが服用量と重症度には相関は見られなかっ た。治療としては補液60例、胃洗浄50例、吸着剤33例、下剤32例、強制利尿 24例であり、透析または血液灌流を施行した症例は4例であった。考察:今目の統 計結果では透析を施行した症例も少なく意外と軽症が多かった。死因として呼吸抑制 が問題とされているが我々の結果では呼吸抑制の発現した症例はなかった。


11 中毒情報センターに問合せのあったDCPA+NAC合剤による急性中毒33例 の検討                  財団法人日本中毒情報センター 大橋教良 【目的と方法】DCPA+NAC合剤中毒の病態を明かにするために日本中毒情報セ ンターに問合せのあったDCPA+NAC合剤中毒33例の追跡調査結果について検討 した。【結果】1.33例中25例に初診時意識障害が見られ、33例中19例には 縮瞳が見られた。 2.33例中9例で初診時に血清Ch-Eが測定されたが平均値 は0.36±0.22△PH(正常0.6−1.1)と正常値の約50%程度の低下 が見られた。3.33例中初診時に動脈血ガス分析が行なわれた15例のBEの平均 値は‐8.3±4.1mEq/Lとアシドーシスが見られた。4.33例中、経過中にメ トヘモグロビン値上昇が5例にみられ、その最高値は4.1−51%で平均25%で あった。この他測定はされなかったが臨床的にチョコトート色のメトヘモグロビン血 症が観察された症例が5例あった.これらのメトヘモグロヒン血症は初診時よりもむ しろ1−2日目頃に明かとなり、症例によっては数日間観察された。【まとめ】カー バメイト剤中毒の症状及び、アシドーシス、メトヘモグロビン血症等の出現が本剤中 毒の特色と思われた。


12  急性中毒における解毒剤の使用状況調査及び在庫の検討                        湘南鎌倉総合病院薬剤科 内海文子 昨年の販神大震災、地下鉄サリン事件等で救急薬品の在庫管理に関心が寄せられてい る。しかし、これまで救急薬品、特に急性申毒の解毒剤の種類、在庫量及びその管理 について検討された報告は皆無である。我々は解毒剤の使用量、在庫量の実態を調査 し、検討を加えたので報告する。対象:徳洲会グルーブ内の24施設における95年1 年間の急性中毒症例。[結果l g5年中毒症例総数1081例、内解毒剤使用症例 はo4z1列モ111.9%)肝使用例の多い解毒剤は、活性炭(135例)、マグ コロール(工23伊l)、アネキセート(521倒)てあり、殆どの施設で在庫して いた。しかし、使用頻度の少ないPAMやBALではPAMで4施設、BALで21 施設が在庫していなかった1症例分に満たない在庫量の施設も多かった。これらの薬 剤の緊急時の納入時間について調べたところ、薬品の種類、発注時間、地域により差 がみられた。[考察l緊急時に備え、各施設最低1症倒分の在庫が必要であると思わ れる,しかし、大包装薬品や使用頻度の少ない薬品、有効期間の短い薬品の在構管理 については病院間の共同購入や行政による在庫蓄等の対策が望まれる。


13  地下鉄サリン事件被害者の自覚症状と血清コリンエステラーゼとの関係                               労研 山村行夫 東京地下鉄サリン事の被害者の方々の協力を得てアンケート調査を実施した。質問項 目は、被災時の状況および自覚症状の推移である。アンケートは慈恵医大病院433 通,中島クリニック308通,京橋病院158通,木挽町医院96通サ本場病院42 通,月島サマリア病院40通.ダイヤビルクリニック40通,合計1107通を送付 し,689通の回答が得られた。回収率は,慈恵医大病院関係75.8%,その他は 53.5%であった。結果有訴率の高い症状は,目の前が暗い(64.9%),頭痛 (52.1%),息苦しい(46.了%),視野が狭い(42.7%),鼻水(36 .3%),咳(35.4%)などであった。血清Ch Eとの関係では,基準限界値 以下の人々にとくに高率であった症状は,けいれん(基準範囲内の5.7倍),起立 困難(4.0倍),嘔吐(4・0倍),食欲不振(3.4倍),歩行障害(2.8倍 )などであった。ムスカリン作用やニコチン作用による全身症状は早く消失したと答 えたが,眼の症状や頭痛,睡眠障害は長く続いた。


第18回日本中毒学会総会・抄録集(目次)
第18回日本中毒学会総会・会告