統計1(7月12日 8:40-9:40 司会:吉岡敏治)

 

1 臭素化合物における健康障害の検討  労働省産業医学総合研究所 加藤桂一 緒言 韓国の電子部品工場において,日本から輸出された主成分が2ーブロモプロパ ンである洗浄剤を用いる部品洗浄工程で女子の月経停止・血小板減少,男子の精子減 少等の健康障害が発生し,新聞等で報道され社会的に間題化した。方法 災害発生時 ,必要と所轄労働基準監督署が認めるものを実地調査し、まとめている。1985年 から1990年までの災害調査復命書データベースから独自に検索し、検討を試みた 。結果 産業中毒等発生624事業場のうち臭素化合物による中毒等は7件あった。 内訳は臭素l件,臭素及ぴ臭化水素l件,臭化メチル2件、酸化エチレン及び臭化メ チル1件、2,4ジブロモフェノールl件、α一ブロムプロピオン酸ブロマイドl件 である。結論 2一ブロモプロパン,l一プロモブロパン等による被災は探したか見 当たらなかった。しかし.これらに関し生殖毒性等の可能性があるため取り扱いには 土分留意したい。


2 急性中毒による入院1032症例の検討  日高病院中毒センター 山下雅知 1982年〜1995年の14年間に、急性中毒の診断にて、日高病院中毒センター に入院した1032症例について、臨床的検討を加えた。全例中、農薬中毒526例 (死亡率51%)、薬物中毒354例(死亡率3%)で、前者の死亡率は、後者に比 し、著しく高かった。農薬による死亡266例中、パラコート・ジクワット製剤によ る死亡が223例と最も多く、ついで、有機リン。カーバメート製剤による死亡37 例であった。経時的にみると、1980年代(520例)は、農薬中毒65%、薬物 中毒21%、その他14%だったのが、1990年代(512例)に入ると、それぞ れ37%、48%、15%と推移した。死亡率は、38%から16%に改善されたが 、これは、パラコート・ジクワット中毒症例の滅少(223例→75例)によるとこ ろか大きいと考えられャこれらの症例を除くと、死亡率は、前期で8.8%、後期で 6.2%と、11有意な変化は認めなかった。


3  一地方都市の小児病院における医薬品の誤飲についての検討                             藤本小児病院 木下博子 当院では、最近、誤飲の全体に占める医薬品の誤飲の割合が増えてきた。そこで、医 薬品の誤飲防止の対策を練るために、医薬品の誤飲の発生状況・対応などについて検 討した。 対象は、1991〜1995年の5年間に当院で経験した医薬品の誤飲例235例とし、誤飲記 録用紙に基づいて分析した。235例のうち、電話による対応だけで受診の必要が無い と判断したものは151例だった。性別では男児に多く、1歳児特に18〜23ヶ月児に多か った。一般薬よりも医療薬の誤飲が多かった。軟膏などの外用薬、感冒用シロップ薬 が多かった。親の薬を誤飲した例が約半数を占め、母親の緩下剤が特に多かった。約 20%が家庭で何らかの応急処置を行っており、受診時に症状がみられたのは25例(受 診例の29.8%)だった。乳児のたばこの誤飲同様、小児でも手の届く所に医薬品を置 きっぱなしにしていた例が多く、親は医薬品の副作用には敏感だが、その管理には十 分な配慮をしていないことがわかった。


4  救命救急センターにおける中毒患者急性中毒息者は3次対応?              日本医科大学付属多摩永山病院救命救急センター 黒川顕 目的:3次救急医療施設における急性中毒患者の実態調査対象と方法:全国の130 施設に、1995年1月1日から12月31日までの中毒患者に関する調査を依頼。 結果:@回答は82施設(63.1%)より。A総症例数は327例で、1施設年間 平均40例。B直接来院/他院経由は6/l、C6割は入院で治療。症例の90%以 上を入院で治療している施設は57.3%。D平均入院日数は6日。入院3日以内の 例は55.7%と過半数を占めた。G中毒の原因は自殺、誤用、事故の順。F3割に精 神疾患を認めた。G中毒起因物質は医薬品、アルコール、農薬、家庭用品、サリン、 たばこ、工業薬品の順。H経口による例多し。I胃洗浄と利尿の施行率は高かったが 、特別な治療無しも24.6%。J治癒と軽快で95%以上、死亡は12例3.6% 。結語:CPA0AやMOFとなる特殊例を除けば、大半の急性中毒例は特殊な治療 を要することなく予後良好てあり、必ずしも3次救急医療施設でなくても対応可能と 考える


5  大阪府における中毒死の実態 −1994年大阪府変死記録からの調査−                       大阪大学医学部法医学教室 黒木尚長 方法:中毒死に関する詳細な疫学調査の報告は少ない。これを明らかにするために, 1994年の大阪府下の異状死体(交通事故死を除く)のうち,捜査上中毒起因物質を摂 取したとされた症例(以後「対象例」という)について調査検討した.結果:異状死 体7513例中,対象例は484例で死因の種類は病死170例、不慮の事故159例,自殺 113例,他殺7例,不明の外因死8例、不詳(検索中を含む)34例であった.中毒起 因物質はアルコール254例,一酸化炭素138例,向精神薬・睡眠薬35例,殺虫剤9 例、農薬8例、シンナー8例、覚醒剤7例、筋弛緩薬5例,その他医薬品7例などで あった。アルコール摂取例では,病死162例、不慮の事故が59例、不詳31例であり, 不慮の事故では自己転倒、浴槽内溺没,列車による轢過が目立った.発表では,血中 濃度が判明した例につき、死亡状況との関連を検討し、原死因を中毒とする根拠につ いて言及する。


6 急性薬物中毒に対する死亡例の検討  東京女子医大救命救急センター 諸井隆一 (目的〕当科に入院した急性薬物中毒患者の死亡例を検討し若干の文献的考察をくわ え、報告する。(対象)平成元年4月から平成7年12月31日までに当科ICUに 入院した、急ま瞠薬物中毒患者223名を対象とする(結果)抗精神薬による中毒患 者は土71名。サリン中毒24例。農薬中毒11例。覚醒剤中毒2例。その他15例 。その中で肺炎を合併したものは6例。外傷を合併したもの3例。悪性症候群を合併 したもの2例。死亡症例は(1)60才女性、向精神薬中毒。基礎疾患の心不全が悪 化し死亡した。(2)71才女性、向精神薬中毒。外傷か原因で死亡。(3)30才 女性、抗精神薬中毒。続発した肺炎で死亡。(4)23才女性。覚醒剤による悪性症 候群にて死亡(5)53才男性、サリン中毒にて死亡。(考察)薬物中毒が直接の死 因となることは少なく、死因は合併症による場合が多い。薬物中毒の治療に際しては 、合併症治療に留意すべきであると思われた。


第18回日本中毒学会総会・抄録集(目次)
第18回日本中毒学会総会・会告