DVAP TIMES 25号より
Date: Sat, 29 Nov 1997 07:22:00 +0900
From: 小島 誠一郎
Subject: [neweml:0686] [Forward]DVAP TIMES vol.25
兵庫県こころのケアセンター発行のDVAP TIMES vol.25を転送します。
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DVAP TIMES vol.25
★復興住宅の第4次募集
災害復興公的住宅の第4次募集が終わり、先日の報道ではその最終倍率は2.03倍で、
当選者見込みは11,275戸、二次抽選に5,890戸がまわるとのことです。このところ仮
設を訪問すると何となく落ち着かない雰囲気が伝わってきます。ある老人は募集の度
に不安定になり、不眠や心気的な訴えが再燃し、資金の問題で諦めたはずの自宅再建
の話題を止めどなく話しだすというパターンを繰り返します。この人にとっては「住
宅申込」という手続きがこうした症状の引き金triggerになるのだなと感じさせます。
また、ある自治会長によると、最近、些細ないざこざが絶えず、近所付き合いが何と
なくぎくしゃくとしているとのことで、「もう少しなのだけれど、何かもう辛抱たま
らんという感じですわ。」とぼやいておられました。逆に経済的にぎりぎりの生活を
送っている高齢者の中には、可能な限り長く仮設に住みたいと、敢えて申し込みをし
なかった人たちも少なからずいるようです。今回の募集で当選した場合でも、入居は
早くて来春、遅ければ再来年の春以降という状況です。取り残されていく人たちにとっ
て、次の暮らしは何時になったら見えてくるのでしょうか・・・
★被災地の雇用
被災地の雇用状況は悪化の一途をたどっていることが新聞で報じられています(11
月16日付神戸新聞)。今年9月の有効求人倍率(一人の求職者に対して何人分の求人
があるか)は、全国平均では0.71であるのに対して、兵庫県0.54で、震災後一時は
0.66まで回復したものの、最近は下降の一途という厳しい現状です。とりわけ被災地
10市10町だけを見ると0.47という低さです。求人の内容では、最近は建設業の落ち込
みが目立ち、「復興特需」で一時は約5000人あった求人が現在は3000人程度に減少し
ているとのことです。特に中高年の求人は極端に少なく有効求人倍率では何と0.1台
から0.2台という厳しい状況です。昨年の県の調査では仮設住宅では3分の2の住民が
就労をしておらず約2割は被災後失業したと答えています。高齢、病弱などで働けな
い人を除いて就労を希望しているも多いのに、実際に職を得ることのできた人は極め
て少ないようです。
行政は中高年離職者対策として、「被災地しごと開発事業」「被災地求職者企業委
託特別訓練」「いきいき仕事塾」あるいは「被災者雇用奨励金」など(ほとんどが震
災復興基金を財源とする県の事業)対策事業を行っています。沢山の事業があって区
別しにくいのですが、「被災地しごと開発事業」は仮設住宅入居者か、全壊(全焼を
含む)の家屋被害のあった45歳から60歳までの被災者を対象として、ビラ配り通行量
調査などの軽労働を提供するという事業(1日5000円,月10日以内)で、現在約600
人が従事しているとのことです。「いきいき仕事塾」とは55歳以上を対象としており、
週一回の講座で参加者には2000円が支給されるというものです。「・・・特別訓練」
は受け入れ企業に再訓練を委託するもので、また常用労働者として雇用する企業には
「雇用奨励金」として一人当たり50万円が支給されます。行政も様々な手段を講じて
中高年の再雇用を促進しようと躍起ですが、ただでさえ困難な中高年の再就職は被災
地では一段と厳しく、景気の悪さがさらに拍車をかけ、今後とも厳しい状況は続くと
予測されています。
★日本人とトラウマ
先月号で国際シンポ「災害とトラウマ」の要旨を報告しました。海外からの演者の
方々と話していて、度々尋ねられたのは、震災体験というトラウマが第二次大戦を経
験した人にとってどういう意味を持つのかということでした。高齢者の中には震災が
引き金となって戦争中の体験を想起された方たちが多かったということは避難所では
よく耳にしましたし、避難所で行われた調査で高齢者の方がPTSD症状が比較的早く改
善されているという結果が得られ、これには過去の外傷体験がpositiveに影響してい
る可能性が指摘されています。一方で、戦争中に日本人が他のアジアの国々の方へ与
えたトラウマに対しても我々は眼を開く必要があるでしょう。これに関して中井はシ
ンポジウムの閉会にあたり次のように言及しました(先月号では紙面の関係で掲載で
きませんでした)。
1970年代のアメリカでベトナム帰還兵とレイプ被害者が声を上げ、その結果PTSDの
概念が生まれ、洗練されていきました。我が国でもパイオニア的な仕事は1980年代
から みられております。そして、1995年1月の神戸の地震とそれに続いて起こった地
下鉄サ リン事件、これらがきっかけとなってこの流れが表面にあらわれたように思
います。
例えば、第二次大戦において日本軍によって深いトラウマを受けた外国の人々の存
在に、日本人の多くが眼を開かれたことも同時的に起こっております。これは単なる
偶然ではないと私は思います。人類は冷戦後の世界に生きていく中で、少し他者の痛
みに対する今まで凍りついていた感覚、それを取り戻そうとしているのでありましょ
うか。本年8月31日にイギリスのダイアナ妃が事故死を遂げましたけれども、これに
対して英国の大衆の中に湧き起こった非常に広範囲で強烈な悔やみの運動というもの
は、この王妃のトラウマに満ちた生涯なしには考えられないかもしれません。特に彼
女はトラウマを受けた者として地雷の廃止運動など、生存者使命survivor`s
missionを果たしつつあったように思います。
いずれにせよ、コミュニティが小規模であった時代には、他人の身になる、あるい
は同情する、ということはそれほど難しくないことであったかもしれません。しかし、
都市化とグローバリゼイションの現代世界にあっては、トラウマにセンシティブであ
ることは、今後も人間が人間らしくあり続けるための不可欠の条件の一つだと私は思
います。トラウマに関わっている人達、トラウマに関心を持っている人達というのは
実に大きな役割を持っているということです。sentinel position(見張り役)とでも
いうべきでしょうか。」
この指摘はそれぞれの文化の中で、「トラウマ」が持つ歴史と意味を考える、新た
な 視点を示唆していると思います。
★報告書
昨年度の当センターの報告書が間もなく完成します。地域ごとの報告に加えて、被
災地の様々な動きを総括した年表、いくつかの研究報告などが収載されています。乞
うご期待。
★編集後記★
来春の明石大橋開通に伴って発生する離職者の問題や、証券会社や銀行が倒産など、
失業の問題が他人事ではなく感じられる昨今である。そして、被災者を取りまく二次
的ストレスの多さを端的に示すのが雇用の問題である。本号で取り上げたように仮設
に取り残される中高年者の雇用問題は厳しく、例えば、仮設に住んでいるといつ辞め
られるか分からないからと、面接で断れることが多いのだと聞いたことがある。
先日、ある席で長田のケミカルシューズ会社を経営している方と話したことがある。
その方によると、東南アジアや中国に仕事が取られてしまった現状では、将来的に震
災前の3割ぐらいにしか業界全体としては戻る見込みはないだろうということであっ
た。生活復興の道のりはまだまだ険しいことを感じさせる言葉であった。
■救急・災害医療ホ−ムペ−ジ/
全国救急医療関係者のページ/
救急医療メモ