インターネットLIVE

災害とインターネット


岩井五郎(gan@mbcd.co.jp

今回のE-mailのお相手:大阪大学 水野義之先生(ホームページ


 このペ−ジは 「DOS/Vmagazine(ソフトバンク発行) 1997年2/15号、p.240-241より転載させていただいています。ご承諾をいただいたDOS/Vmagazine編集部に深謝いたします。なお、この記事のもととなった「インタビュー資料」を別ページに収載させていただいていますので、併せてご参照下さい。

目 次

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質問■ 水野先生、こんにちは。2年前の阪神淡路大震災のときに、 インターネットをはじめとしたコンピュータネットワークが活躍したと聞いています。 具体的には,どんな情報がどんな人々によって,誰に対してフィードされたのでしょ うか。

 当初,インターネット上での情報交換は,主にネットニュースを通じて,行なわれ ました.(この目的のために,震災の翌日にはfj.misc.earthquake という臨時の ニュースグループが作成された)。また,既存のメイリングリストを急遽 転用して,緊急の議論が行なわれた所もありました.

そこでは,この社会におけるありとあらゆる問題が浮かび上がり、そうした問題への対応 の必要が指摘,報告され,その中から生まれた新たな問題等が議論されているような状況でした.

 例えば,まず各地の被害状況の報告,そのまとめ,いわゆる安否情報の問い合せや 情報提供から始まって,電話の状況,交通の問題,緊急医療体制や消防、自衛隊、 政府の対応、マスコミ報道の問題、電気や水などの状況、物流管理、救援物資の 活用、ライフライン復旧、お風呂の情報,トイレの問題、避難所運営、ボランティア 情報,ボランティア報告,被災地からの各種問い合せと回答,避難所情報,行政と ボランティアの問題、地域社会と学校、教育と受験の情報、高齢者、障害者、 外国人、子供ら社会的弱者の問題、こころのケアの問題、ペットの問題、 義援金と見舞金、仮設住宅と避難所解消、マンションや家屋の再建の情報, 都市計画の議論、交通の復旧、経済再建と職探しの情報、被災現地への支援 の考え方の問題の議論,大学関係者や専門家の対応、そして海外への対応などです。

 これらの情報を提供し,情報交換が出来た人々は,当時からすでにインターネット を日常的に使っていた人々で,大学の理工系や研究所の研究者,大企業の技術系 社員が主体であったとおもいます。

 誰に対してか,というと,当初は,自ずと,これらの情報を自由に読み書き 出来る人の内部に限られていました。しかし,これを読める人は,それが 一般の多くの人にも有用な情報であることは分かっていたので,そのうちに これらの情報を,被災現地で被害が少なかった所でコピー,あるいは編集して, 紙にして(あるいはファイルにして)必要と思われる所へ持って行く,という 活動も行なわれるようになりました.あるいは,ボランティアに出掛けた人が, ついでに,情報のまとめを印刷して現地へ届けて喜ばれたということも聞いて います.しかしそのうちに,(当初不足していた)情報も次第に現地に届く様 になり,マスコミの情報提供も改善され,行政情報の提供も始まりました。 そうすると,情報の更新や情報整理,情報検索の方が重要に成ってきた事は いうまでもありません.


質問■■ ネットニュースのお話が出ましたが、 Webやメールなどの、ネットにはほかのメディアもあります。やはりネットニュースが 活発でしたか。

 どのメディアも,その特徴を最大限に生かし,極限まで活用されたと思います。 例えばWebは,当初から1ケ月程の間に,合計30サイトくらい,立ち上がり ました。その数は,実は現在も増え続けています。検索エンジンで見てみると わかりますが(例えば,阪神大震災とか,阪神淡路大震災,というキーワードで, 調べてみてください),今では,もう数百サイトも出来ているようです。

 また,メールでは,MLの場合ですが,WNNのML等は 非常に活発で,当初は1日平均30通くらいも飛び交い,2年近くの間に合計 約1万通の情報が交換されています.ネットニュースでは,最初の3ヶ月間に,約2000通ほどの情報交換がされました.

 よく,自分が欲しい情報は少なかった,という不満を聞きますが,災害への社会の 対応という観点から見れば,大災害時の問題というのは,今の社会の在り方の 問題点を教えてくれているわけです.またそれは,今後の社会の在り方や, 我々の文化の在り方そのものへの反省の過程でもあるわけです。そこからは, 実に多くの教訓を学ぶことも出来ます。そういう見方をすると,どれも 貴重な情報や意見であると,私は思いました.ただしWebでの情報提供は、できるだけ画像を軽くするか、その現地ではやらない(回線が細すぎて事実上、すぐにパンクしてできないでしょう)ということを考えるべきだと思います。

 つまりWebでの情報提供は、そうした場合にはシンプルなものにして、ミラーサイトの存在などを含めて考えなければ難しいでしょう。でなければ、大災害に強いインターネットでも、MLやネットニュースのような、文字列ベースでの情報提供が主体になるだろうという事です。


質問■■■  水野先生はボランティアの立場からこうした活動をされたと伺って いますが,こうしたボランティアは誰もが参加できるのでしょうか。 また,参加するにはどうしたらよいのでしょうか。

 誰でも参加出来ます。もちろん,情報通信(インターネット利用)の基本的な技術 やネット上での情報リテラシー,コミュニケーションのマナー等は必要ですが, それは誰でも,慣れることで,学んでいると思います。リテラシーについては時間を 掛けないと分からない事も多いですが,最近は,ネット上のマナーやルールに ついても,よくまとめられた資料が(ネット上にも)ありますから,今では, かなり短時間で,慣れるのではないかとおもいます.

 また,逆に失敗をしないとわからないことも多いですから,どんどん参加して, しかもいいネットに参加して,その現場で学んで行くことを薦めたいと思います.ボランティア精神というのは,なにかが必要なことが分かった時,たとえ自分一人 でもやる,というだけのことだと思います.ですから誰でも日常的に行っている ことの延長だと思います。参加の仕方ですが,例えば我々の mailing-list に参加を希望されるなら, ngo@center.osaka-u.ac.jp に宛てて,メールを下さい。これは、インターネット利用に関する研究開発の一環として、大阪大学大型計算機センターの下条真司先生の理解と支援を得て行っているので、安心だと思います。また、アップル、InfoWeb、ヤマハなどの企業および公共団体からの支援も得ています。


質問■■■■ 震災や震災に関連するサイトで,ご紹介いただけるニュースグループや, Webページがあれば教えてください。

 ニュースグループには,災害時でないとあまり情報が流れないですが, 上で紹介した,fj.misc.earthquake というものがあります.これは, 阪神淡路大震災を契機に自主的に作成され,現在も維持管理されているものです. また,fj 以外では,tnn.interv.saigai.lifeline等というグループが 幾つかに別れて用意されています.これには,大災害の時等に,パソコン通信の 大手各社も協力することになっています.これには慶応大学のVCOMプロジェクト の金子郁容先生らも協力されています。情報ボランティアのページなら,

http://www.ntt.co.jp/mirror/shinsai/home.html
http://www.osaka-u.ac.jp/ymca-os/
http://www1.meshnet.or.jp/~volanet/
http://www1.meshnet.or.jp/~vag/index.html
などをみることをお勧めします。積極的に情報提供をされている方々の自主的な努力には感銘を受けます。


質問■■■■■  最後に,水野先生自身の「インターネット観」をお聞かせください。

 インターネットというのは,よく,コンピュータの「ネットワークのネットワーク です」という言い方がされますが,実際に使っていて,繋がっていると感じられる ものは人間のつながり,ですよね.人間関係というのは,誰にとっても,その人の 財産の一つですが,そういう人間関係というのは,ビジネスでも何でも,社会活動 の基本となります.そういう意味で,インターネットで繋がれるものは,コン ピュータではなくて,ヒューマンネットワークなのですね.

 テレビ等の受け身の(双方向性に乏しい)メディアに比べると,ネット利用は,利用者に主体性を要求しま すが,それは,メディアのレベルアップにも寄与出来ると思います.ネット中毒の指摘については,テレビ中 毒の弊害と共に,メディアとの付き合い方の問題だと言えるのではないでしょうか? むしろ,ハマる位に面白 くないと,広く使われないと思います。広く使われることによって,どんどん良くなりますので,それは大事 なことですよね.読書文化でも,一度はハマらないと,その良さも問題点も理解できないのではないでしょ うか? そして最終的には,複数のメディアが共存すると思います。何事も,ちょっと距離を置いて付き合うこ とが出来れば,心配することはないと思います.


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