第10部 (7) 外傷に関連した心停止
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■救出と初期評価 (Extrication and Initial Evaluation) ■外傷に関連した心停止の一次救命処置 (BLS for Cardiac Arrest Associated With Trauma) ■外傷に関連した心停止の二次救命処置 (ACLS for Cardiac Arrest Associated With Trauma) □参考文献 |
外傷により起こる心肺機能の悪化は以下の原因による場合が考えられる。
院外、及び外傷センターで迅速かつ有効な対応が行われても、 外傷による院外心停止例が生存することは稀である1-4。 外傷性心停止にもかかわらず最良の転帰をとる症例は一般に年齢 が若く、損傷は治療可能な穿通性のものであ り、院外で早期に気管挿管が施行され、外傷治療施設に迅速(通常は10分 以内)に搬送されている3-6。鈍的外傷により現場で心停止に至る症例は、いずれの年代 においても致死的である7-9。
大多数の救急患者にとって院外での気管挿管が有害、もしくはよくても無効なことを示す少なか
らぬエビデンスがある10-13。研究者や救急医療サービス(EMS)の指導者は、都市部
における院外での積極的な輸液蘇生に関し、その安全性と有効性について疑問をぬぐい切れないできた
14-17。
更に現場での二次救命処置(ACLS)は時間を要するため、救急部門や外傷センターへの搬送
が遅れ、ひいては致命的な出血を外科的に制御(surgical control)するなどの不可欠な治療が遅れることになるのは議論の余地がない17-20。
これらの論点を考慮すると、病院前の蘇生は安全に救出し、
患者の安定化を試みるが(and to minimize)、搬送・根本治療の遅れを来すよう
な介入は最小限にするべきで
ある。
患者の安定化を試み、搬送・根本治療
の遅れを来すような介入を最小限にすることに絞るべきである。また処置中は脊柱の安定
化に厳重な注意を払うべきである。重症外傷が疑われる患者は根本治療が可能な施設に迅速に搬
送されるべきである。搬送の遅れを避けるため、通常は搬送中に患者
の安定化をはかる。
多発外傷や頭頚部の外傷の際、救助者は BLSの全手技を通して脊柱を安定化させなければなら
ない。気道を開通させるため、頭部後屈・顎先挙上法の代わりに下顎挙上法が用いられ、気道の
開通を維持することが優先される。
2人目の救助者はできれば、BLSを行っている間そして訓練を受けた救
助者により脊柱固定器具が装着されるまで、傷病者の頭頚部を用手的に安
定化させる(should be responsible for manually stabilizing the
head and neck)。気道が開通しているならば、口腔内の血液や吐物および他の分泌液を取り除く。
気道が開通したならば、呼吸を評価する。
無呼吸、死戦期呼吸または緩徐で非常に浅い呼吸の場合、
用手換気(manual ventilation)が必要である。
救助者がバリア器具、ポケットマスクまたはバッグマスクを用いて
換気する場合、頚椎損傷が疑われるならば、頚椎の安定
化(maintain cervical spine stabilization)を維持しなければならない。
胃膨満を避けるためゆっくりと換気する(deliver breaths)。
気道が適切に確保されているにもかかわらず、換気の際胸郭が挙上しないな
らば、緊張性気胸や血胸を除外する。
処置者(the provider)はすべての外出血を直接圧迫
止血し、適切に被覆する。
気道を開通させて 2回の有効な救助呼吸を行った後、ヘルスケア・プロバイダー
は頚動脈の脈拍触知を試みる。
そして 10秒以内に確実に脈拍を触知できなけれ
ば胸骨圧迫を開始し、圧迫と換気のサイクルを行う。
救助者は CPR中適切な頻度と深さの圧迫を行い(強く速く圧迫する)、
各々の圧迫後は完全に圧迫を解除し、また胸骨圧迫の中断を最
小限にする。
2人法 CPRにおいて高度な気道確保が施行されたならば、救助者は換気
のために圧迫を中断する同期サイクルを行わない。
その代わり、換気のために中断することなく 1分間に 100回
の圧迫を行う。
また換気担当の救助者は 1分間に 8〜10回の換気を行
うこととし、換気回数が多くなり過ぎないようにする。
2人法 CPRでは、圧迫者の疲労と胸骨圧迫の質や回数の低下を避けるた
め、およそ 2分ごとに圧迫者と換気者の役割を交替する。
自動体外式除細動器(AED)が到着すれば、電源を入れて
パッドを装着する。AEDは傷病者の心
リズムを解析し、適応があればショックを行うよう指示する。
心室細動(VF)が確認された場合、これが外傷により引き起こされたというより
むしろ VFが(事故の)原因であったかもしれないことに注意する
(たとえば自動車の運転手が VFで突然心停止となって意識を失い、自動車
を衝突させるなど)。そのような傷病者
は蘇生後に心臓の評価を必要とするかもしれない。
すべての介入を通して、傷病者の反応を評価し、悪化の徴候を注意深く監視する。
損傷の程度を明確にするため、傷病者の衣服を除去する。損傷の評価を完全に終えたなら
ば、体温が低下していくのを避けるため、患者を被覆する。
外傷患者における迅速な気管挿管の適応は
気管挿管は頚椎の安定化を維持しながら施行する。現場で気管挿管を行うならば、搬送中に
するべきである。通常は経口気管挿管を行う。
重症の上顎・顔面外傷がある場合、経鼻気管挿管を避ける。
そして挿管直後、搬送中、救急車から病院のストレッチャー(担架)への移動など
傷病者を移動させた後には必ず、臨床所見や呼気二酸化炭素モニターなどの確認器具を用いて気管
チューブが適切に留置されていることを確認する。
重症の顔面損傷や浮腫があり、気管挿管
に成功しなかった場合は、熟練者による輪状甲状靭帯切開の適応である。
CPR中に気管チューブや他の二次エアウェイが留置され
ていても、換気と圧迫を同時に施行することは、既に肺が損
傷されている場合(特に肋骨骨折や胸骨骨折があれば)、緊張性気胸を生じ
る可能性がある。
胸郭の挙上や呼吸音が減弱したり、用手的換気の抵抗の増加、酸素飽和
度の低などがみられた場合、医療従事者は緊張性気胸の出現(the
development)を疑うべきである。
傷病者の酸素化が十分なように見えても高濃度酸素を投与する。
(また)気道の開通が確保さ
れれば、呼吸音と胸郭が挙上しているかどうかを評価する。陽圧換気に際して片側の胸郭の
挙上が十分でなく呼吸音も減弱しているならば、緊張性気胸や血胸が除外されるまで、これらが原
因ではないかとの疑いを持つ。医療従事者は気胸に対して針脱気を行い、その後(通
常は病院で)胸腔ドレナージを施行する。
救助者は治療適応のある開放性気胸をすべて探し出して被覆すべきであるが、この際緊張性気胸に移行しないように
呼気排出口(an exhalation port)を作成する。
血胸もまた換気や胸郭の拡張を妨げるかもしれない。
血胸は輸血と胸腔ドレナージで治療する。そして
ドレーンから最初に排液される血液量を調べる。
胸腔ドレインから(訳注;基
準値を超えた)出血が持続すれば、外科治療の適応である。
気道開通、酸素化、換気が確保できれば、循環を評価し処置する。
目立った出血は迅速に制御(訳者註:止血)する。
容量(輸液)蘇生は重要であるが、外傷の蘇生においては議論のあるところ
でもある。
ACLS担当者は救急部門や外傷センターへの搬送中に、
大口径カテーテルによる静脈路確保を 2回まで試みる。
どのタイプの輸液がよいのかを明らかにした研究はいまだにないため、
等張晶質液が蘇生輸液として選択される21。
病院で失血に対して血液を補充する場合、赤血球濃厚液と等張晶質液を組み合わせて用いる。
血行動態が不安定であることを示す所見のない外傷患者に対して、積
極的な輸液蘇生は必要ではない。
循環血液量減少性ショックの徴候がみられる外傷患者に輸液による蘇生を
推奨するかどうかは、外傷の種類(type)(穿通性損傷か鈍
的損傷か)と現場の状況(都市部か地方か)によって決まる。
収縮期血圧を 100 mmHg 以上とすることを治療目標とした高流量の輸液
投与は鈍的または穿通性を問わず、頭部や四肢の単独外
傷に対してのみ推奨される。
都市部において穿通性外傷に対する病院前の積極的な輸液による蘇生はも
はや推奨されない。なぜなら輸液により血圧が上昇する結果失血が加速され、
外傷センターへの到着が遅れ、出血血管の修復や結紮などの外科治療が遅れ
るためである4,14,22。数分以内で外傷センターへの患者搬送が可能な場合、このような遅れを
正当化することはできない。
地方においては外傷センターへの搬送時間が長くなるため、鈍的外傷でも
穿通性外傷でも、90 mmHg の収縮期血圧を維持するべく搬送中に輸液による蘇生
が行われる。
(上述のように)心停止となった場合、治療可能な原因を迅
速に診断して治療しなければ、結果は好ましいものではない。
循環血液量を十分に回復させることがしばしば、外傷の蘇生に
成功する鍵となる。
外傷の傷病者に最もよくみられる終末期の心リズムは PEA(無脈性電気活動)、徐脈性心静止、
時に VF/VT(心室細動/心室頻拍)である。PEAの治療には CPRに加えて、著明な循環血
液量減少、低体温、心タンポナーデ、緊張性気胸などの治療可能な原因を診断して治療することが必要で
ある。
徐脈性心静止の悪化はしばしば、著しい循環血液量減少や低
酸素血症、心肺不全の存在を示唆して
いる。VFと脈無しVTは CPRと除細動で治療する。
これらの(致死的)不整脈のACLSに際して通常アドレナリンが投与されるが、
補正されていない高度循環血液量減少があれば
おそらく無効であろう。
ECCガイドライン2000が発表されて以来、いくつかのセンターから外傷性心停止に対する蘇
生目的の開胸術についての後ろ向き観察研究が報告されてきた24-27。例えば、ある研究では救
急部門で蘇生開胸術を施行した穿通性胸部外傷 49例が報告されており27、開胸前に心停止であっ
たり生命徴候がなかった症例では、生存退院した者はいなかった。
外傷患者に救急部門で蘇生開胸術を施行した2002編の報告24において、
穿通性外傷 10例のうちの 3例の救命例はすべ
て、救急部門への到着時には生命徴候(バイタルサイン)があった。
これとは対照的に、鈍的外傷19例のうち14例は開胸時にはバイタルサインがあったにもかかわらず
、19例すべて死亡した。
蘇生のための開胸術 959例のデータベース26のうち、病院
到着前に CPRを施行された穿通性外傷 22例、鈍的外傷 4例が生存退院した(全生存率= 3%)。
2001年、アメリカ外科学会外傷委員会は1966年から1999年の間に発表された 7,000
例近くに及ぶ、蘇生のための開胸術に関する 42の研究を系統的に検討した28。
このデータベースによると穿通性外傷・鈍的外傷の生存率は各々 11%(500/4,882)、1.6%(35/2,193)
であった。
これらの研究は個々の患者や状況において
は開胸術が果たすべき役割があることを示唆している。
後述の表には開胸術を考慮してもよい状況が示されている。
開胸術は院外の鈍的外傷による心停止の転帰を改
善することはないが、救急部門到着直前、または救急部門内で心停止となった穿通性胸部外傷の患
者を救命できるかもしれない。穿通性外傷に対する容量(輸液)蘇生と平行して、迅速な緊急開胸術により直接
胸骨圧迫を行うことができ、心タンポナーデの解除、胸郭・胸郭外の出血制御、
大動脈遮断も可能となる2,4。この手術は熟練者だけが施行すべきである。
重症不整脈や心機能障害の原因とな
る心挫傷は、重症鈍的胸部外傷のおよそ 10〜20%に見られる
29。外傷傷病者に著しい頻拍や不整脈、ST-T波形の変化を認めれば、心筋挫傷を疑うべ
きである。血中心臓マーカー(第8部:急性冠症候群の患者の安定化
外傷処置能力が限定された施設に患者が搬送された場合、病院スタッフは自分たちの能力を考慮
しつつ診断・治療が可能な損傷を治療する。(そして)その後、根本
治療可能な施設へ患者を迅速に転送する。
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■救出と初期評価
(Extrication and Initial Evaluation)■外傷に関連した心停止の一次救命処置
(BLS for Cardiac Arrest Associated With Trauma)■外傷に関連した心停止の二次救命処置(ACLS)
損傷の形態(タイプ) 評価 鈍的外傷 救急部門や外傷センター搬送時には脈拍、血圧、自発呼吸が認められたが、その後目
前で心停止となった患者 穿通性心外傷 救急部門や外傷センターで心停止となった患者、また 5分以内の院外 CPR
の後に
救急部門や外傷センターに搬送され、その際二次的な生命徴候が陽性であった患者(例えば瞳孔反
射や自発運動、心電図上まとまりのある(organized)電気活動が見られるなど) 穿通性胸部外傷(非心臓性) 救急部門や外傷センターで心停止となった患者、
また 15分以内
の院外 CPRの後に救急部門や外傷センターに搬送され、その際二次的な生命徴候が陽性であった患者
(例えば瞳孔反射や自発運動、心電図上まとまり
のある電気活動が見られるなど) 失血のひどい腹部血管外傷 救急部門や外傷センターで心停止となった患者、また救急部門や外
傷センターに搬送された際、二次的な生命徴候が陽性であり(例えば瞳孔反射や自発運動、心電図
上まとまりのある電気活動が見られるなど)、加えて腹部血管損傷の根本修復が可能な場合
脚注:「Circulation」誌のこの特別増刊号は http://www.circulationaha.org において無料で入手できる。