我が国の OHCPA (Out of Hospital Cardiopulmonary Arrest) における問題点(私見)

山形県立救命救急センター 森野一真


 救急救命士制度発足以来のOHCPAに関する検討を行った結果、 完全社会復帰例の増加は見られず、さらにCPAOAのみの検討 ではむしろ救急救命士導入前の方が予後がよいとする報告が 出ている4)。しかし統計の対象となるデータの質がUtstein方式 のように保証されておらず、必ずしもすべてが正しいかは明らか ではないとも思われる。我が国ではUtstein方式による検討が開始 されてから日は浅く、今後の検証が必要である。

 さて文献4)-7)にも指摘されているが、我が国におけるOHCPAに関する 問題点は以下のごとくである。

  1. bystanderによるCPR施行率が低い

  2. 特定行為に医師の指示が必要

  3. 気管内挿管ならびに薬剤の使用が特定行為で認められていない

  4. 指示医師、医療機関における二次救命処置の標準化がなされていない

  5. OHCPに関するデータの収集・分析に問題

  6. 救急医療システムにによる救命率の差

  7. 救急救命士の十分な研修システム、就業後研修システムがない

 これらすべてを解決しない限り、OHCPAの救命率の向上は無い。

 昨年問題となった各地の気管内挿管問題は法的な問題を除いたと 仮定した場合、上記問題点の中では一部分の問題である。paramedic における気管内挿管を施行している米国・カナダにおける最近の文献 1)-3)によれば訓練を受けたparamedicの気管内挿管成功率は90%以上で あり、CPA症例においては97%と高い2)。しかしトレーニングが不十分な 場合には成功率は50%程度になるという報告3)が有り、気管内挿管の 手技のみに関して言えば、適切なトレーニングと十分な経験次第である ことが明らかである。ところが、現在の我が国の研修システムでは 適切なトレーニングと十分な経験を得ることは難しい。

(註:気管内挿管とそれ以外の器具との救命率の差に関する論文は文献5)の中で引用されています。)

 現状を鑑み、救急救命士法が成立して来た背景を考えると県内における気管 内挿管施行という違法行為は病院前救護体制の質の向上を目ざして来た全国の 救急医療に関わって来た人々の努力に報いることとは相反するものである。 法治国家においては法は遵守せねばならない。ただ、気管内挿管施行例の救命 率等の検証は医学的、社会的に求められるものと思われる。

 我が国の医師法、救急救命士法の改正が無い限り気管内挿管ならび に薬剤の使用等は特定行為では認められない。我が県におけるOHCPAの救命率向上の ためには冒頭に上げた7つの問題のうち6つを解決することと、これまでの気管内挿管 施行例のデータの再分析が火急の課題であると考える。すなわち

  1. bystanderによるCPR施行率を上げ

  2. ホットラインを有さない医療機関をなくし

  3. 指示医師、医療機関における二次救命処置の標準化を行い
    救命処置の質を上げ、救急医を充足させ、医学界が救急救命士制度をより真剣に考える

  4. Utstein方式によるOHCPに関するデータの収集・分析を行う

  5. 救急医療システムにによる救命率の差に関して検討し、
    二層構造(two tired EMS)を作る(ことが望ましい)

  6. 救急救命士の十分な研修システム、就業後研修システムを作る

 これらはとりもなおさず、メディカルコントロールの構築、という言葉に集約されると思われる。


【参考文献】

  1. Wang HE, Sweeney TA, O'Connor RE, et al: Failed prehospital intubations: an analysis of emergency department courses and outcomes. Prehosp Emerg Care 2001; 5(2):134-41

  2. Roccca B, Crosby E, Maloney J, et al: An assessment of paramedic performance during invasive airway management. Prehosp Emerg Care 2000;4(2):164-7

  3. American Heart Association: Guidelines 2000 for CPR and ECC 100-2

  4. 小濱啓次:救急救命士制度導入後、わが国の院外心停止患者の予後は改善されたのであろうか? ICUとCCU 1999;23(7):491-96

  5. 坂本哲也:救急救命士の特定行為はCPAの救命率向上に効果があったのか? 救急医学 1999;23(13):1909-12

  6. 金 弘:ドクターカーによる院外心肺停止の治療.救急医学 1999;23:1901-04

  7. 松尾 汎,稲葉英夫,上嶋権兵衛,et al; Utstein方式に従った病院前救急医療システムの評価1.日本臨床救急医学会雑誌 1999;2:375-85


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