病院前救護体制のあり方に関する検討会報告書

(平成12年5月)

照会先:厚生省健康政策局指導課


 目 次

はじめに

1.病院前救護体制におけるメディカルコントロールについて

 (1) 病院前救護体制におけるメディカルコントロールと評価について
   ア.病院前救護に関するメディカルコントロールの不在
   イ.救急業務において実施されている処置及び指示体制の実態
   ウ.メディカルコントロールとは

  (2) 病院前救護におけるメディカルコントロール体制の確立

   ア.直接的メディカルコントロール(オンライン・メディカルコントロール)のあり方
   イ.間接的メディカルコントロール(オフライン・メディカルコントロール)のあり方

2.地域における病院前救護体制を支える体制作り

  (1) 病院前救護体制を構築する主体となる救急医療協議会について
   ア.現状と課題
   イ.救急医療協議会(二次医療圏単位)の機能強化

  (2) 地域の救急医療体制及び救急搬送先の確保体制について
   ア.救急医療体制の一元化について
   イ.救急医療情報センター(広域災害・救急医療情報システム)について

 (3) 病院前救護体制への医療機関の取り組み
   ア.現状と課題
   イ.病院前救護体制への医療機関の積極的な参加・支援方策

3.救急救命士の業務内容について

 (1) 救急救命士の業務に対するこれまでの評価

 (2) 救急救命士の業務内容の充実
   ア.電気的除細動
   イ.器具を用いた気道確保
   ウ.薬剤の投与
   エ.その他の救急救命処置

4.救急救命士の教育と養成

  (1) 現状と課題
   ア.救急救命士の卒前教育及び国家試験
   イ.救急救命士の就業前教育及び生涯教育
   ウ.救急救命士の養成体制

  (2) 救急救命士の教育内容(生涯教育を含む)及び養成体制の充実方策

5.心肺蘇生法の啓発・普及

6.その他の事項

  (1) ドクターヘリの導入

  (2) 病院前救護体制の充実を実現するための支援

今後の展望

参考:─気管内挿管とその確認法─

結語


はじめに

 我が国の病院前救護体制の向上をめざして、平成3年に救急救命士制度が導入され、まもなく10年目を迎えようとしている。これまでに約17,000人の救急救命士が登録され、消防機関においては救急救命士の資格を持つ職員数が約7,500人となった。

 救急救命士制度の意義は、医師の指示の下で「救急救命処置」を行う救急救命士が消防機関内の資格としてではなく、病院前救護体制の充実を図るために、国家資格を有する新たな医療関係職種として位置付けられたことである。

 病院前救護における救急救命士による医療の提供が法的に位置付けられた一方、病院前における医療の質を確保するという観点からは、これまで救急救命士制度が運用されてきた中で救急救命士が救急救命処置を実施する際の医師の指示体制のみならず、平時からの継続した教育体制や救急救命処置の事後評価をも含めた、いわゆる「メディカルコントロール」の体制は全国的に整備されておらず、今後はこの「メディカルコントロール」の体制を充実強化することが救急医療及び救急搬送業務に携わる関係者に課された火急の責務である。

 本検討会は、平成7年の行政監察結果に基づく勧告や平成9年の救急医療体制基本問題検討会報告書において、救急救命士の業務内容の見直しを行うべきとの指摘を受け、効果的なメディカルコントロール体制の確立と、救急救命処置の効果評価に基づく業務内容の検討、さらに、これらに見合う教育体制のあり方について、平成11年6月より5回にわたり検討を行った。


1.病院前救護体制におけるメディカルコントロールについて


(1) 病院前救護体制におけるメディカルコントロールと評価について

 ア.病院前救護に関するメディカルコントロールの不在

 イ.救急業務において実施されている処置及び指示体制の実態

 ウ.メディカルコントロールとは

 病院前救護体制における「メディカルコントロール」とは、救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間において、救急救命士等が医行為を実施する場合、当該医行為を医師が指示又は指導・助言及び検証してそれらの医行為の質を保障することを意味するものである。すなわち、病院前救護においてメディカルコントロールは、傷病者の救命率の向上や合併症の発生率の低下等の予後の向上を目的として、救急救命士を含めた救急隊員の質を確保するものであることから、地域の病院前救護体制の充実のための必須要件であるとみなすことができる。

 メディカルコントロールは、下記のように整理される。

<直接的メディカルコントロール>(オンライン・メディカルコントロール)

医療機関又は消防本部等の医師が電話、無線等により救急現場又は搬送途上の救急隊員と医療情報の交換を行い、救急隊員に対して処置に関する指示、指導あるいは助言等を与えること、又は救急現場において救急隊員に直接口頭で指示、指導あるいは助言等を行うことを意味する。

(例示)

  • プロトコールにない症状等に遭遇した場合の医学的な助言
  • プロトコールから外れる処置の是非に関する医学的な判断
  • 傷病者の状態が急変した場合に行うべき処置の助言、指示
  • 特定行為の具体的な指示
  • 消防本部の指令職員が救急要請を受けた場合の医学的な判断
  • 消防本部等に常駐する医師に助言、指導等を仰ぐ 等

<間接的メディカルコントロール>(オフライン・メディカルコントロール)

 a.前向き(事前)の間接的メディカルコントロール

(例示)
  • 地域の救急医療のニーズに応じた地域の救急医療体制の構築への医師の積極的な参加
  • 救急隊員の教育カリキュラムの作成、教育の実施及び評価
  • 救急救命士の資格取得後の病院実習等のカリキュラムの作成、実施及び評価
  • 救急現場及び搬送途上での処置・搬送のプロトコール(手順書)の策定
  • 重症度の判定及び搬送先医療機関選別の基準の作成
  • 消防本部等の指令職員の教育
  • 指令室における救急要請の受信から情報の収集を経て搬送優先順位の決定に係るプロトコールの策定
  • 電話によるCPRの口頭指導のプロトコールの策定 等

 b.後ろ向き(事後)の間接的メディカルコントロール

(例示)
  • 救急隊員の救急活動記録(救急救命処置録を含む)の検討・評価
  • 救急隊員の判断、医行為等に関する記録・転帰の観点からの質の向上策及び検証
  • 救急活動の医学的評価に基づくプロトコールの再検討
  • 生涯教育、危機管理教育を含む救急隊員の医療の質の向上策の検討
  • 評価結果の救急隊員、救急救命士教育、実習へのフィードバック 等


(2) 病院前救護におけるメディカルコントロール体制の確立

 ア.直接的メディカルコントロール(オンライン・メディカルコントロール)のあり方

 イ.間接的メディカルコントロール(オフライン・メディカルコントロール)のあり方


2.地域における病院前救護体制を支える体制作り


(1) 病院前救護体制を構築する主体となる救急医療協議会について

 ア.現状と課題

 イ.救急医療協議会(二次医療圏単位)の機能強化


(2) 地域の救急医療体制及び救急搬送先の確保体制について

 ア.救急医療体制の一元化について

 イ.救急医療情報センター(広域災害・救急医療情報システム)について


(3) 病院前救護体制への医療機関の取り組み

 ア.現状と課題

 イ.病院前救護体制への医療機関の積極的な参加・支援方策


3.救急救命士の業務内容について


(1) 救急救命士の業務に対するこれまでの評価


(2) 救急救命士の業務内容の充実

 特定行為に係る指示要請を行う時機については、時間的な損失を可能な限り少なくし、効率的な医師の指示体制を確保する必要がある。

 ア.電気的除細動

 イ.器具を用いた気道確保

 ウ.薬剤の投与

 エ.その他の救急救命処置

 オ.今後の対応


(3)救急救命処置録の内容と開示について


4.救急救命士の教育と養成


(1) 現状と課題

 ア.救急救命士の卒前教育及び国家試験

 イ.救急救命士の就業前教育及び生涯教育

 ウ.救急救命士の養成体制


(2) 救急救命士の教育内容(生涯教育を含む)及び養成体制の充実方策


5.心肺蘇生法の啓発・普及


6.その他の事項


(1) ドクターヘリの導入


(2) 病院前救護体制の充実を実現するための支援


今後の展望

 心肺停止患者の救命率を向上させるためには、救命効果検証委員会の調査分析結果から明らかなように、救急現場又は搬送途上における心拍再開の割合を高めることが喫緊の課題である。また、科学的な根拠に基づき、充実したメディカルコントロールの下で、必要な資質を備えた救急救命士による救急救命処置の高度化を図ることは、大きな社会的要請となっている。行政機関等の関係機関及び関係者は、本報告書における指摘事項について、引き続き施策の企画立案及び実施に積極的に取り組み、メディカルコントロール確立のために必要な財源措置を講ずるなど早急に救急救命士制度を含めた病院前救護体制の基盤整備を更に充実させ、地域社会の要請に応えるべきである。

 本報告書における指摘事項の趣旨を踏まえ、すべての関係者は、病院前救護体制が、地域住民が日々安心して暮らせる社会を構築していく基本(セイフティ・ネット)であることを再認識する必要がある。その上で、既存の価値観や権益にとらわれず、地域住民の生命・健康を第一に考えた、「健康大国日本」にふさわしい病院前救護体制が構築されることを願ってやまない。


(参考)

平成11年度医療技術評価総合研究事業
「プレホスピタル・ケアの向上に関する研究」

Endotracheal Intubation & Confirmation
─気管内挿管とその確認法─ストレチャー

主任研究者:山村 秀夫 (財団法人日本救急医療財団)
分担研究者:美濃部 堯 (財団法人日本救急医療財団)
研究協力者:中川  隆 (名古屋市立大学病院救急部)
谷川 攻一 (福岡大学救命救急センター)  
金子 高太郎(県立広島病院救命救急センター)

【結語】

1:プレホスピタル・ケアにおける気道管理の手段として,気管挿管の必要性は明かであるが,現状では必要な体制が整っていないため,具体的な体制づくりについて,早急に検討を行うべきである。

2:救急救命士が気管内挿管を行うことについては,下記ような要件等が満たされ、必要な体制が整うことが条件となる。

  1. 養成所または病院実習における教育研修プログラムを構築する。具体的にはマネキンによる挿管実技訓練に加え,麻酔指導医のもと手術室で,EDDとETCO2検出器の併用による気管内の確認法も含めた気管内挿管の訓練を受ける。

  2. 地域救急指導医は所轄消防本部と緊密な連携のもとに,気管挿管実施を含めた救急救命士による医療行為について監督体制を敷く。特に救急指導医は教育研修プログラム作成に中心的に携わるとともに,救急救命士の適正について判断し,救急救命士の行う医行為について詳細な事後検証を行うことにより,最良のプレホスピタル・ケアが行えるよう指導責任を持つこととする。

3:一地域に留まらず,全国規模での救急救命士の特定行為における事後検証やEBM確定のために弛まぬデータ集積を行うことが重要であり,共通のデータ・フォーマット/テンプレートの作成および記録,さらにその解析が今後のプレホスピタル・ケアの方向性を探る上で重要となる。